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アミルカの喜び

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「いらっしゃい」


両開きの扉を開けて入店する俺達を、低い声の年配のバーテンが迎えてくれた。


「お好きなところに」


そうとだけ言われたので店内を見回してみると、他に一人客がカウンター席にいるだけでテーブル席はどれも空席だった。


「ここにしましょう」


アミルカは慣れたように、部屋の角にある席についた。
俺はといえばギルド併設の酒場以外は利用したことがないので、慣れていそうなアミルカについていくしかない。
彼女がついたテーブル席に同じように座った。


「ショウは何を飲む?」


「・・・そうだな」


テーブルにあるドリンクメニュー表を見る。紅茶などもちろん無い。というかノンアルコールが何もない気がする。あまり酒が好きではない俺にとって飲みたいものが何もない。
すると残るはあれか・・・?ミルクか?頼むと馬鹿にされるってやつ。


「まぁ、ビールでいいわよね?ビール二つ。あと適当に肉とかでおつまみも」


俺が悩んでいるとアミルカが勝手に注文をした。
まぁエーペレスさんに晩酌に付き合わされたことがあったから、それくらいなら飲めるがあまり好きではないんだよな。


「それにしても・・・随分慣れてるんだな。何度も来てるのか?」


勝手知ったるといったように振る舞うアミルカを見て思ったことを言った。
この店はメイン通りから外れ、あまり人のいないところにある。
まだ昼間とはいえ、ギルド併設やメイン通りにある酒場はそれなりに客が入っているのに、この店はそうではない。知る人ぞ知る・・・そんな店だ。メニューからしてもわかるように本当に酒が飲みたい人が来る店なのだろう。


「そうね。静かに飲めるし、ナンパも来ないから結構来るのよ」


ナンパか。そういえばアミルカもいつも一緒にいるローザもほいほい男が釣れそうな感じがするからな。ドレッドのような虫よけがいないときは落ち着いて飲めないことがあるかもしれない。


「はぁーーー・・・」


ちびちびと飲む俺と違い、アミルカは豪快に飲み干してすぐにおかわりを注文している。
俺と違い酒は嫌いではないのだろう。ちょっと意外だった。


「今日は良い事と悪い事が二つあったわ」


つまみに出された肉切れとフライドポテトに手を付けながら、突然アミルカが言い出した。


「まずは良い事。ショウが、私に元気がないってことに気付いてくれたこと」


「・・・は?」


にっこり笑いながらそう言うアミルカに、俺は何だか気恥ずかしくなってつい顔を逸らした。


「いやいや、見りゃなんとなくはわかる」


「わかるくらい私のことを見てくれる人がいること自体が嬉しいの」


ニコニコと笑うアミルカは本当に嬉しそうだ。
以前聞いたローザの話からすると、俺がつい言ってしまったようなほんの何気ない心配の一つでもしてくれる人間が、アミルカの周りにはあまりいなかったようだ。
気恥ずかしくて仕方が無く、俺はついつい無意識にビールを飲むペースを上げていた。
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