国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

馬鹿なラルスもようやく気付く

「事実無根。根の葉も無い噂にございます」


ダリスの問いに対し、ラルスは即座に否定した。
ダリスが無表情になったことに一瞬怯みはしたが、それでも悪い意味で鈍い彼はまだ自分のペースを崩すことはなかった。
戦慄しているバレスより、まだダリスの真の恐ろしさを知らぬラルスは饒舌である。

バレスは既にもの言えぬ置物と化していた。「もう何をどう言い訳をしても駄目だろうな」という諦めの境地に達していたのだ。


「うむ、事実無根か。噂は噂でしかないと」


無表情のままダリスは問う。


「もちろんです。私を信じてくださいお祖父様！」


ダリスのことは上王と呼ばねば不敬となるが、あえてラルスはお祖父様と呼ぶことで、実の孫としての必死の訴えであるとアピールした。





（馬鹿が）

そんなラルスを横目に見て、バレスは心の中で毒づいた。
ダリスがそのような猿芝居で情に絆されるような人間ではないことはバレスが良くわかっていた。
ラルスはダリスと接した時間は短い。
老いて国政の一線から退き、隠居したダリスしかラルスは見ていない。
だが実の子として厳しく育てられ、その現役の王としての姿を見てきたバレスは違う。ダリスは自分の親族だからといって、その言い分を鵜呑みにして騙されるような間抜けではないのだ。


「・・・では、ショウ・ルーデルの追放についてはどうだ？ルーベルト嬢に乱暴をしようとして、制止に入ったラルスに手傷を負わせ、その責を負って追放となったそうだな」


ショウの追放についての追究がやってきた。
バレスは怯むが、ラルスは自信満々に即答した。


「はい、その通りでございます」


ラルスはそう答え、既にほとんど塞がっているが、当時自分でつけた手傷のあった箇所をダリスに見えるように掲げた。


「既に塞がっておりますが、これが当時ついた傷でございます。猛者と評されるショウを相手に、良くぞこの傷で済んだと思っております。剣術の鍛錬の賜物かもしれません」


つらつらと述べるラルスに対し、ダリスは表情を変えることなく黙って聞いている。
何が剣術の鍛錬の賜物か。ショウのほんの一振りで戦意消失し、失禁までしたというのに・・・聞いていて自分まで恥ずかしくなるわ・・・とバレスは呆れながらに聞いていた。


「・・・ふむ、それで、何故裁判もせずに追放刑とした？ラルスのその話が事実だとして、私が最も聞きたいのはそこだ」


「・・・え？」


ダリスはラルスの並べる言葉に対して興味を抱いてはいなかった。
彼が聞きたかったのはショウの処分についてだったのだ。
饒舌だったラルスの口が止まった。


「例え王族に対する傷害を起こしたとて、裁判もせず一足飛びで刑の執行など許されるはずもない。むしろ王族は民の模範でなければならぬ。絶対にルールに忠実でなければならぬ。そうしなければそんな王に民がついてくるはずもないからだ。・・・それで、そこのところはどうなっておる？まさかお前達の裁量で勝手に決めたのではあるまいな」


「あ、あの・・・それは・・・」


思うように頭も口も回らぬラルスは、そこで初めてダリスの目がまるでゴミを見るような見下げるそれであることに気が付いた。