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王の胃痛

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「・・・はぁ」


ラルスの父であるランドール国の国王バレスは、胃薬を飲み終えるとグラスを置き、ため息をついた。
ここ最近は胃痛が続き、もはや毎日胃薬を飲み続けないと動くことすら叶わなくなっていた。
おまけに最近は不眠症気味であり、睡眠薬も手放せなくなっている。「依存症になる恐れもありますので、出来ればほどほどに・・・」と宮廷医師には忠告を受けたが、それに構わず服用し続けていた。

自分の心と体が少しずつ壊れていくのがわかる。
原因が多すぎて対処もし切れない。政務の滞りだけは防いでいるが、このまま自分が壊れていけばいずれ問題は起きるだろう。そのような状態にどうしてなってしまったのか、バレスはまたも溜息をつく。


まずはルーデルに送った兵士たち。送ったそばからそのほとんどが戦死、もしくは行方不明となった。
かつてラルスにつけた近衛兵を彼の私情にまつわるトラブルで失ってしまったとき、親元である貴族への説明と補償には苦労させられた。しかし今回は問題児ばかりとはいえ、その数倍の人数の喪失について親元への説明と補償が必要となってしまった。
本来なら彼らの身を預かったルーデルに説明責任があるが、当主であるリュートは「定期討伐による戦死であり、辺境騎士団として殉じたまでに過ぎない」と自身が責任を取ろうとはしなかった。

確かに普通の辺境騎士ならそれで良いのだろうが、バレスが送ったのは脛に傷を持つとはいえ貴族の令息がほとんどである。それも辺境騎士として生涯仕えさせるというのはあくまで名目上で、裏約束で数年で中央に戻すという話で送り出した者たちなのだ。

無論、話が違う!と、死んだ騎士の遺族が抗議の声を上げた。
問題を起こしたとはいえ、いまだに令息に愛情を持っていた貴族も多かったのだ。結局、彼らに対する対処に多大な労力と金を使うことになってしまった。

しかも腹が立つのはそれだけではない。当のリュートはこの上損失分の補充をできるだけの騎士をさらに送ってこいと言ってくる。

狂ったのかと思った。王の怒りを買って家の取り潰しになるとは考えないのかと。
だが恐らくリュートはわかっているのだ。
王である自分でも、それを行うは不可能であると。絶対にそうしないことをわかっているのだとバレスは感じていた。
その理由は・・・もうすぐこの国に戻ってくる上王だ。


「国王様。上王陛下がわが国の国境までお戻りになられたとのことです。明日には到着するでしょう」


胃痛の原因でもあるランドール国の先代国王である上王がいよいよ外遊から戻ってくると知らせが届く。
それを聞いてバレスは倒れそうになるも「ここが正念場か」と持ち直した。だが、彼のその目はうつろでどこか正気の保っていない印象を受けるそれだった。
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