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根拠の無い信頼

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「あぁっ・・・まさかあの状況からオスカーが主導権を握るなんて・・・細身の美男子が屈強な男二人相手に・・・凄い・・・」


俺が読み終わったベーサイユの薔薇族を読みながら、物語に入り込んでいるアミルカはぶつぶつと何か言っている。
先に読ませてやろうかなどと一瞬思ったこともあったが、やめておいてよかった。ネタバレされるところだった。

どうやら本当にアミルカはベーサイユの薔薇族が好きみたいで、がっつり食い入るように読んでいる。
俺もきちんと読んではいるが、流石に彼女までの熱意は無い。これだけ好きなら買いに行って売り切れだったらさぞやガッカリするだろう。今日読ませることが出来て良かった。


「はぁ・・・今回も面白かったわ」


読み終わったアミルカは感慨に浸るように目を閉ざしている。
俺はそんな彼女の前に煎れたてのミルクティーを置いた。


「あら、ありがとう」

「口にあえばいいんだが・・・」


少し心配だったが、アミルカは美味しいと言ってくれた。
しばしミルクティーを飲みながら語らっているとアミルカが言う。


「私の知らないいろいろな本があるのね。ねぇ、また読みに来ていい?」


またも不用心にそう言ってのけるアミルカに、俺は苦笑いをしながら


「俺は別にいいけどよ。あんまりそうほいほいと男の部屋に入るもんじゃねぇぜ」


迷子にもなっていたし、なんだか無防備な子なのかと心配になってしまう。


「まさか。私だってよく知らない男の部屋になんか入らないわよ」


アミルカは少し怒った風にそう言った。
いや、今俺の部屋に来てるじゃん!と思わずツッコミそうになった。


「ショウとは付き合いは浅いけど、人となりはわかるから平気なの」


そんな俺の心を読んだかのようにアミルカは言う。


「あなたはとても心の綺麗な人よ。私、人を見る目は確かなの」


真正面から俺の目を見てそう言う彼女に、俺は思わずたじろきそうになる。


「なんだよそりゃ・・・」


俺達はまだ知り合って一月立たないくらいだ。ギルドでばったり会うことがほとんどで、プライベートで会うことはほとんどない。しかしアミルカから見て、俺は信用に値するという。


(心の綺麗なやつが、命乞いをする相手を平気で殺したりするかよ)


俺の暗殺をしようとした近衛兵を斬ったときのことを思い出す。
家族がいるから助けてくれと許しを乞うてきたが、俺はそれを拒否して斬り伏せた。非情な人間なのだ。心が綺麗だなんてことはないはずだ。


「見る目は確かねぇ・・・アミルカの知らないところで、俺だって何をしているかわからないぜ」


照れくさいだけじゃなく、何か反発したい心に囚われ、俺はついそう言っていた。お前は俺がここに来るまでに何をしたかなんて知らないだろう?そう言いたかった。


「ううん、ショウは間違いなく心の綺麗な人よ」


しかしアミルカは迷い無くそう言った。
その目はどこまでも本気でそう訴えかけてくるようだった。


「どれだけ表を取り繕っていても、心の醜い人なんてたくさん見てきたもの」


伏し目がちにそう言ったアミルカの声は、何か嫌な経験を思い出しているかのように沈んでいた。
頭がお花畑で適当なことを言っているのだろうかと失礼なことを考えていたが、もしや違うのだろうか?
それどころかもしかしたらいろいろ人の嫌なところを見てきたことがあるのかもしれない。


「ショウはその人達とは絶対に違うわ」


どうあっても俺が心の綺麗な人だと言って譲らないアミルカに根負けして「ありがとよ」とだけ俺は言った。
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