国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

夢で終わらせない

「オークが復活しただと！？馬鹿な！死んだふりをしていたというのか！！？」


一度倒したはずのオークが復活して襲撃してきたという報告を聞いて、チェスターは動揺していた。
オークの生態についても学んだことはあるが、死んだふりをするという話は聞いたことがなかった。姑息でひ弱なゴブリンなら聞いたことがあるのだが。


「恐れることはない！さっきと同じように冷静に対処すれば問題ない！！」


死んだふりをして奇襲に成功したとはいえ、オークの戦闘力そのものが変わったわけではない。冷静に先ほどと同じように戦えば難なく撃破できるはず、チェスターはそう考えていた。
だが


「うわぁぁぁぁぁ　け、剣が効かない！？」


「さっきより強いぞこいつら！」


ところどころ聞こえてくる悲鳴を聞いて、リュートはじりじりと後ずさる。


「な、なぁ・・・少しまずい状況なんじゃないか？」


すぐにでも撤退したい気持ちを抑えながらも、リュートはチェスターに言った。


「いえ、不意を突かれて混乱しているだけでしょう。冷静になればすぐに持ち直し・・・」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ！！」


チェスターが大丈夫だという旨の言葉を言いかけたときだった。
一際大きな悲鳴の上がったところを見ると、そこには体中に剣が刺さり血まみれになりながらも、進撃の止まらないオークの集団がそこにいた。オークの持つ血に濡れた棍棒が、既に幾人もの犠牲者をリュート隊から出したことを物語っている。


「馬鹿な・・・！あの傷であれば、致命傷になっているはずだ・・・」


切り傷で血だらけのオークを見てチェスターは驚愕した。
なぜ動いているのか理解できない。とっくに死んでいてもおかしくないほどのダメージを受けているはずのオーク達は、まるで痛みなど意に介していないように見える。
オークとて生き物だ。怪我をすれば怯むし、痛ければ悲鳴を上げる。ダメージが嵩めば激痛で動けなくなる。人間ともそこは変わらないはずだった。
だが、今のオーク達はまるで先ほど戦ってきたそれとは別物だった。
声を上げることもなく、痛みを感じているようでもなく、淡々とこちらに襲いかかってくる。あまりにも不気味であった。



「まさか・・・」


やがてチェスターは一つの結論に辿り着く。
しかしそれはあまりに恐ろしく、にわかに信じがたい仮説であった。


「お、おい！お前たちどうしたんだ！！」

「やめろ！どういうつもり・・・ぐあぁぁぁ！！」


気が付くと、リュート隊の前衛ではオークが復活したときのそれとはまた比較にならないほどのどよめきが起こっていた。


「は、はは・・・まさか・・・」


思わずチェスターの口から乾いた笑い声が漏れ出た。
前衛の騎士達が、仲間であるリュート隊に襲い掛かっていたのである。
見るといずれも復活したオークに殺されたと思わしき連中だった。


「チェ・・・チェスター！彼らはどうしたのだ！？まさか裏切ったのか！？」


リュートはすっかり狼狽している。とても騎士団のトップに立つ者とは思えない態度に溜め息が出そうになるが、無理もないなとも思っていた。何しろ自分でも信じられない光景が目の前に広がっているからだ。


「いえ、オークも仲間も、アンデッド化しているようです・・・」


チェスターはそう言ったが、自分で自分の言った言葉が真実だとは認めたくはなかった。
夢であってくれ・・・そう願っていた。