国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

晴天の霹靂

『こちら３班。オークの群れを発見、数は50。まっすぐブラフォード隊に向かっており、距離は1500。以上』


「本隊了解。ブラフォード隊に知らせ。迎撃準備開始」


『こちらカトル隊。ワーウルフの群れと遭遇、これを撃退。10あまりが深部方向へ逃走。以上』


「本隊了解。追撃は不要、カトル隊は一度本隊へ帰還せよ」




ルーデル騎士団の本隊では、斥候や各戦闘部隊と魔法通信によるやり取りが頻繁に行われていた。
魔法通信とはまだ世間ではそこまで普及されてない技術で、ルーデルは数年前よりこれをいち早く導入し、積極的に活用していた。

希少な魔石などを駆使した装置によって使えるものだが、同じ意思疎通ができる手紙や伝令と比較してもコストが信じられないほどに高く、距離も制限があることからニッチな技術としてランドールの魔科学研究所で眠りそうになっていたものだったが、金には糸目はつけず、距離の問題は中継を入れれば解決すると判断し、ショウが導入を決めた。

視界が悪く開けていない黒の森を主戦場とするルーデル騎士団は、常に部隊間の意思疎通に苦心していたが、この魔法通信の導入によりその問題が概ね解決し、飛躍的に効率良く作戦を遂行しやすくなった。

今でも昔とは比較にならないほど順調に討伐が進んでいるのを見て、騎士団長のタルカスは「やはり若の判断は間違っていなかった」としみじみと感じた。あのまま騎士団を導いてくれさえすれば・・・と溜め息をつく。


「辺境伯様はどうしている？」


タルカスがテントの入り口にいる側近に訊ねる。


「大人しくしているようです」


側近はチラリとリュート隊を見て言った。


「それならいいが・・・変に勇み足になって余計なことしないでもらいたいものだな」


タルカスはそれが心配だった。
今日のところは雰囲気だけでも味わってもらえればいいが、出来る事ならリュートが戦場の空気に恐れをなし、二度と現場に来ないでくれると有難いなどと考えていた。
だが、皮肉にも今回の定期討伐は今のところ怪我人も多くなく、目標数の撃破まであと少しのところまで迫っていた。順調過ぎてリュートは戦場の恐怖を知らぬまま今回の討伐が終わってしまう。かといって実戦投入などしたら護衛に神経を遣い、現場は混乱するだろう。

今回のことで味をしめ、次の戦のときに何か無茶を言い出さないか、それも心配で仕方がない。
そんなことを考えていたタルカスだったが、突如としてテントに飛び込んできた伝令によって空気が一変した。


「斥候４班より報告。アンデッドリーダーが発見されたとのことです！」


「なにぃ！？」


タルカスはテントから飛び出した。
そして指先で風の流れを読む。


「ふむ・・・まずいな。全戦闘部隊に通達。作戦は中断し、一旦引くぞ」


タルカスは渋面になり、そう命令を下した。


「はっ！」


タルカスの出した命令により、討伐作戦に投入されていた部隊はほとんど全てが一時本陣まで撤退を開始する。


「あれは・・・」


それを眺めていたリュートは、一つの余計な考えを起こそうとしていた。