国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ

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地獄の前の静けさ

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王都から派遣された騎士100名は、リュート隊として辺境伯直属の近衛兵となった。
元々いたルーデル騎士団では有事の際、嫌っている自分を本当に守ってくれるか不安だったからである。
また、多くが平民で構成された騎士団よりも、王都から派遣された貴族ばかりで構成された連中のほうが話もわかるし自分に従順でいてくれるとリュートは思っていた。
どうせ近くに置いておくならそっちのほうがいいし、これから時間をかけて騎士団に馴染んでいくためにも、まずは味方を一人でも多く作っておかなければならない。

多少気の長くなる話になるが、それでも自分が辺境伯としてこれから存在感をアピールしてやっていくためにもやっていかねばならない。そう考えていた。

計画に若干の狂いが出たのは王バレスからの書簡を読んでからだ。
可及的速やかにルーデル騎士団を掌握セヨとのこと。
なぜ急に急ぎだしたのかはわからないが、予想より多くの兵を遣わしてくれたからには、どうにか期待に添わなければならない。気の長い計画ではなく、多少強引にでも早めに騎士団を懐柔しなければ。
まごまごしていてはせっかくよこしてくれた騎士達を引き上げてしまうかもしれない。

そこでリュートは黒の森での定期討伐に目をつけた。
定期的に行っていることなので他の戦闘に比べたらリスクは低いだろうし、戦場で自分が前線に立ち、気概のあるところを見せつければ少しは騎士団からの軟弱なイメージも変わるだろう。
参加することにおびえていたはずのリュートは現金なもので、すっかり定期討伐を楽しみにしていた。





リュートが何やら皮算用している時、リュート隊の隊長に任命された騎士チェスターも活躍の場が来るのを心待ちにしていた・
チェスターは伯爵家の嫡男であったが、婚約者であった子爵令嬢を一方的に婚約破棄を突きつけ男爵令嬢と婚約しようとしたところ、相手方の子爵家と実家から猛攻撃に遭い、実家を廃嫡どころか除籍寸前まで追い詰められ、騎士としての稼ぎも婚約破棄の賠償金の支払いで天引きされている有様だった。
婚約中は知らなかったが、伯爵家には借金があり、爵位こそ低いが商売を成功させて裕福な子爵家から援助を受けていた状態であったようだ。


「なんという恥さらしが。この愚か者が・・・」


失意に暮れる父の姿をチェスターは思い出す。
いや、そういう大事なことはきちんと伝えておいて欲しかったんだけどなーと今でも思っている。俺だけが悪かったんじゃないよね?
自分だってモラルは無かったけど究極の馬鹿じゃない。こんな目に遭うとわかっていたなら婚約破棄なんてしませんでしたよと。

まぁ、伯爵家の嫡男の自分よりやけに偉そうに見下してくる婚約者を不審に思った時点で、普通ならいろいろと自分でも調べてみるべきだったと思うけどもう遅い。
とりあえず自分はまだ騎士として職があるものの、これ以上問題を起こすと騎士ですらいられなくなりそうだ。
だから王都から辺境への転属についても(表面上)快く受け入れた。婚約しようとしていた男爵令嬢にはあっさり逃げられたし。

この地でそこそこ結果を出して王都に凱旋復帰するか、それともここでそこそこの地位を築いて腰を落ち着けるかどうするか~ などとチェスターは考えていた。

リュートへの忠誠心など無いが、とりあえずチャンスとばかりにチェスターはやる気だけはそこそこある。
そして偶然というか必然というか、リュート隊の騎士全員がこのチェスターと似たような状況であった。

やる気があることは何よりだ。

だが、彼らには「覚悟」が足りてなかった。
そして何より「経験」が。

新天地での初任務を楽観的に考えていた彼らは、地獄を見ることになるのであった。
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