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遅れた気付き

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「聞く・・・?私が何を?」


キアラに問われたアーヴィガは「何を馬鹿な」といったように鼻で笑う。


「ルーベルト嬢がショウを裏切り、陥れた。その結果だけわかっていれば良い。過程や理由になど興味はない」


そんなキアラに対し、アーヴィガは淡々とそう告げた。
ソーアのように強い感情をぶつけられるのとは正反対の態度だったが、キアラの心にアーヴィガの言葉が深く鋭く刺さる。キアラの事情など心底どうでもよく、全く彼女との関係に未練が無いことが痛いほどわかる態度だからだ。
別に親の命令で逆らえなかった自分に同情が欲しかったわけではない。だが、こうまで冷たくされることにはここの準備が追い付いていなかった。


こうなることは覚悟していたはずだった。
そのうえでソーアが最後に差し出してきた手を自分が振り払った。
だからこれは当然の結果のはずなのだ。

だが、キアラの胸に言いようのない痛みと苦しみが広がる。
「冤罪」から一か月は魔術の研究に没頭することでショウの追放やソーアとの決別のショックを誤魔化した。そうして心の均衡を保っていた。

ではこれからは?
毎日ストレスの原因と思われるラルスがやってくる環境で、どうすれば心を保てるのか。
自分は感情の起伏が少ない。心が鈍い。だからこそ何があっても何を言われても何が続いてもどんな状況でも人形のように耐えられる。
これまでずっとそう思っていた。

だが、自分の心はどうやら思っていたよりもそうタフではないようだ。
今になってそれに気付いた。
ずっとショウ達の存在によって、自分の心は助けられてきたのだと今更気付いた。


「それではルーベルト嬢。殿


最後にそう言うと、アーヴィガは振り返りもせずにパーティー会場へと戻っていった。
幸せが続くとは限らないけどね、と呟いたそれはキアラの耳には入らなかった。


「・・・・・・」


キアラはそれを茫然と見送ることしかできなかった。
ここでこのままでは幼馴染として接することはもう二度とないだろう。そう思い何かを言おうとしたが、何も言葉にできなかった。


「一応私はとした話の内容はアーヴィガには伝えたのだけどな。本当に理由などどうでもいいと、興味がないようだった」


バルコニーに残ったソーアが言った。


「もはや詰られも怒鳴られもすまい。もうアーヴィガにとって、いや、私にとってもルーベルト嬢は赤の他人だ」


「・・・」



「しかしまぁ、もしかしたら気がかりにしているかもなと思うから、これだけは最後に教えておいてやろう」



「・・・?」


何か伝えたいことがあってソーアはここに残ったのかとキアラは察した。
しかし何を言おうとしているのかは皆目見当がつかなかった。


「ショウのことは心配するな。今後は私が彼を受け持つから任せておくといい。思い残すことなくルーベルト嬢は殿下とよろしくやるんだな」


「・・・えっ?」


「ではな」


ちょっと、と呼び止める間もなくソーアは会場へ戻っていった。

ソーアが彼を受け持つ?受け持つというと・・・?

言葉の意味は理解していた。
だが、すぐにはそれを整理できなかった。
キアラは頭の中が真っ白になり、後になってラルスが探しに来るまでバルコニーで佇んでいたのだった。
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