上 下
95 / 470

壊れるー。

しおりを挟む
キアラ・ルーベルトはラルス王太子にエスコートされ、王城で開かれたとあるパーティーへ参加した。
ランドール国の第二王子ファルスの誕生記念のパーティーである。


「おぉ、ラルス殿下とルーベルト嬢だ」


「やはり噂は本当だったのね」


キアラとラルスが二人して入場するのを見た一部の貴族達は、どこからか伝わってきた「傷心のキアラを慰めたラルス王太子が彼女と距離を縮ませている」という噂は真実だったのかと騒いだ。


「そのうち婚約となるだろうな」


「ラルス殿下と世界一の魔法使いのルーベルト嬢が婚姻を結ぶとなれば、この国は安泰であろうな」


ラルスは王位継承権一位である。第二位のファルスは本日で15になるばかりで、このまま行けば既に成人し、学業も剣術も優秀な彼が次期王になるのは確実であるとされた。その彼が世界一とされる魔法使いのキアラと結婚することは、各国に威厳を見せつけることができ、他国からの侵略も躊躇させ抑制することも期待できよう。彼らはそう考えていた。


「それにしても、今年は参加者が実に多いな」


ある貴族が会場を見回して言った。


「そうだな。例年は代理を立てる貴族も多かったが、今年は本人が来ているな」


王子といえど第二王子で、かつ王位継承権二位のファルスの誕生記念パーティーは、例年では王族の誕生日でもラルスのそれとは比較にならないほど盛り上がりに欠けるものだった。義理だけの参加として、当主だけで家族は連れてこない、あるいは代理を立てて参加するという貴族が多かったのだ。
だが、今年はどういうことかラルスの誕生記念パーティーと変わらぬほどの盛況を見せている。例年顔を出している貴族達はこの不思議な現象に首を傾げていた。


「なんだ、知らないのかね?」


そんな貴族達に、ある貴族が言った。


「ファルス殿下が王位に就く可能性が、最近になって出てきたのだよ。・・・まだここだけの話だがね」


「「な・・・なんだってーー!?」」









-----



「はぁ・・・」


キアラは人気のないバルコニーで外の空気を吸っていた。
ラルスとファーストダンスを踊り終えたまではいいが、そこで気分が優れなくなって抜け出てきたのだ。
王太子がキアラの家に通い詰めるようになってから概ね一か月。
次のステップとばかりに、今日は王城で開かれるラルスの弟君、ファルスの誕生記念パーティーに一緒に出席することになったが、ここ最近心があまり穏やかではない日が続くキアラにとって、これはまさに苦痛の時間以外の何物でもなかった。ラルスとのダンスも吐き気がするほどの強烈なストレスに見舞われた。それでも形くらいはダンスを済ませて、他の参加者にキアラとラルスが距離を縮めているような様を見せねばならない。

どうにかこうにかダンスを終え、抜け出ることに成功したキアラはバルコニーでようやく一息つけたのだ。
ダンスだけであれだけのストレスになるとは、果たして自分は本当にラルスの妻となることができるのだろうかとキアラの頭に疑念がわいてくる。しかも世間的には恋愛結婚に見せかけねばならぬという条件付き。どれだけストレスが発生しようとも、どれだけ鳥肌が立とうとも、仲睦まじい夫婦を国内外に演出して見せなくてはならないのだ。

これは無理ではないか?当初はできるはずと思い込んではいたが、今となってはその前に自分が壊れてしまうような気がしてならない。
父に話せばわかってくれるだろうか?いや、ダメだろうか・・・ などとあれこれ考えているとき、バルコニーにキアラ以外に誰かがやってきたのにキアラは気づいた。


「・・・アーヴィガ?」


キアラは思わず驚きで目を開く。
やってきたのは、久々に顔を見ることになった幼馴染アーヴィガ・ハルトマンと、その後ろにいるのは二か月前に決別したばかりのソーア・マルセイユだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

【短編】追放した仲間が行方不明!?

mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。 ※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。

処理中です...