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新生活の堪能と出会い
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俺が死人の種の一件に遭遇してから一か月、オールヨークに辿り着いてから二か月が経過した。
死人の種に絡んでの依頼について冒険者ギルドから極秘依頼として出されるようになった俺やザイル達だったが、その生活が一変するわけではなく、一週間に一度あるかないかの極秘依頼をこなす程度の日々であった。
極秘依頼は回数も少ないし、内容もそれを思わしきものの発見がされれば探索、調査をするといった程度のもので、魔物の巣窟に飛び込むことは一回はあったが、それ以外は戦闘が起きるわけでもなく、実際に死人の種が見つかったわけでもない、なんとも肩透かしというか手ごたえのないものだった。
だが、実入りの方は中々で、労力の割にはそこそこの報酬が支払われた。これは口止め料も入っているというのもあるが、それだけ死人の種に関わる仕事にはリスクが伴っているというのもある。
実入りが良くなると、それなりに生活費に余裕も出てくるため、贅沢せずただ暮らすだけなら何もしなくて良い休日というのがそこそこ作れるようになる。
本日、俺はオールヨークでの拠点として借りている安宿の一室で休日を堪能していた。
「はぁ~・・・」
自分で煎れたミルクティーを飲んでまったりしていた。
ミルクティーを飲みながらお菓子をついばみ、本を読む。これが俺の休日の贅沢な暮らし方だ。
ランドールにいたときは意識していなかったが、オークヨークでは紅茶を飲もうとするとそこそこの金が必要になる高級品だった。店できちんとしたものを飲もうとすると、それこそ裕福な貴族でもないと毎日は飲めないような、それだけの金がかかる。
では茶葉を買い、自分で煎れればどうなるだろうか?
金額はかなり安く抑えられる。それでも少しだけ効果な飲み物になるが。だが、俺の手で買える茶葉となると、これがなんと質が悪いのだ。
どうにも質のまちまちな茶葉がブレンドされているものしか一般人に買える店では流通しておらず、最初に店で茶葉を買い込み、意気揚々と買って煎れたときには「まずいっ!」と声を上げて驚いたものだ。
ちゃんとした店で出してくるものはそれなりにちゃんとした茶葉を使っているようで、なるほど、店が高いのはそれが理由でもあるのかと納得した。どうやらブレリア・・・少なくともここオールヨークではちゃんとした紅茶を飲むにはそれなりのコストをかけないといけないようであった。
では一般人はこの質の悪い茶葉で紅茶を煎れるのか?
そのまま煎れて飲む人もいるが、ここではミルクなどを足して飲むのが一般的だ。最初こそ「えっ?混ぜるの?
」と驚いたが、なるほどこれなら茶葉が悪くてもそれなりに飲める。ミルクも安いわけじゃないのでちょっとまぁ、ちょっとした贅沢品になるわけだが。
このように紅茶一つとってもブレリアではランドールに無かった刺激が存在する。特にブレリアは他民族国家だけあって、ランドールと比較にならないほど食文化も多彩なのだ。うまいものもあればまずいものもあり、腹を下すことだってあったが、俺はこの刺激的な食生活がかなり気に入っていた。
「・・・あっ・・・」
ミルクティーを飲み終わり、読んでいた本・・・恋愛小説を手に取ろうとすると、ふと思い出す。
「そうだ・・・今日は新刊の出る日だったな」
エーペレスさんに強制されて以来、なんだかんだ自分でも楽しみにするようになった流行りの本を読む習慣は、ここオークヨークに来てからも続いていた。
今日は俺の楽しみにしていた恋愛小説の新刊が発売される日であることを思い出し、ティータイムを中断して俺は本を買いに行くことにした。
「出遅れたな・・・まだ残っているか?」
忘れないようにしていたつもりだったが、すっかり忘れていて出遅れてしまった。本屋で売り切れていないことを願いつつ、俺は急いで宿屋を出た。
このとき俺は急いでいたせいで、よく周りを見ていなかった。
ドンッ
「あっ」
誰かが横から俺にぶつかってきた。ぶつかってきた相手が反動で転びそうになるのを、俺は思わず手で抱き留める。軽い。相手は女性のようだった。
「すまねぇ、大丈夫かい?」
どうやら俺が彼女の進行妨害をしてしまったようだ。
ぶつかった相手を見る。茶髪のセミロングの中々の美少女だった。彼女は顔を真っ赤にして、じっと俺を見ている。
「ん・・・?」
少女の反応に、俺はここでようやく気付く。抱き留めた左腕の先、左手が彼女の胸に少し触ってしまっていたのを。
「あ・・・」
謝ろう。即座にそう思い、手を離そうとすると
バチィィィン
辺りによく響きそうな音を立て、少女は俺の顔に張り手をくらわせた。実にいい一撃だった。
「こ、この痴漢野郎ぉぉ!!」
少女は俺からサッと距離と取り、指をさして叫ぶ。
これが俺と少女・・・アミルカとの出会いだった。
死人の種に絡んでの依頼について冒険者ギルドから極秘依頼として出されるようになった俺やザイル達だったが、その生活が一変するわけではなく、一週間に一度あるかないかの極秘依頼をこなす程度の日々であった。
極秘依頼は回数も少ないし、内容もそれを思わしきものの発見がされれば探索、調査をするといった程度のもので、魔物の巣窟に飛び込むことは一回はあったが、それ以外は戦闘が起きるわけでもなく、実際に死人の種が見つかったわけでもない、なんとも肩透かしというか手ごたえのないものだった。
だが、実入りの方は中々で、労力の割にはそこそこの報酬が支払われた。これは口止め料も入っているというのもあるが、それだけ死人の種に関わる仕事にはリスクが伴っているというのもある。
実入りが良くなると、それなりに生活費に余裕も出てくるため、贅沢せずただ暮らすだけなら何もしなくて良い休日というのがそこそこ作れるようになる。
本日、俺はオールヨークでの拠点として借りている安宿の一室で休日を堪能していた。
「はぁ~・・・」
自分で煎れたミルクティーを飲んでまったりしていた。
ミルクティーを飲みながらお菓子をついばみ、本を読む。これが俺の休日の贅沢な暮らし方だ。
ランドールにいたときは意識していなかったが、オークヨークでは紅茶を飲もうとするとそこそこの金が必要になる高級品だった。店できちんとしたものを飲もうとすると、それこそ裕福な貴族でもないと毎日は飲めないような、それだけの金がかかる。
では茶葉を買い、自分で煎れればどうなるだろうか?
金額はかなり安く抑えられる。それでも少しだけ効果な飲み物になるが。だが、俺の手で買える茶葉となると、これがなんと質が悪いのだ。
どうにも質のまちまちな茶葉がブレンドされているものしか一般人に買える店では流通しておらず、最初に店で茶葉を買い込み、意気揚々と買って煎れたときには「まずいっ!」と声を上げて驚いたものだ。
ちゃんとした店で出してくるものはそれなりにちゃんとした茶葉を使っているようで、なるほど、店が高いのはそれが理由でもあるのかと納得した。どうやらブレリア・・・少なくともここオールヨークではちゃんとした紅茶を飲むにはそれなりのコストをかけないといけないようであった。
では一般人はこの質の悪い茶葉で紅茶を煎れるのか?
そのまま煎れて飲む人もいるが、ここではミルクなどを足して飲むのが一般的だ。最初こそ「えっ?混ぜるの?
」と驚いたが、なるほどこれなら茶葉が悪くてもそれなりに飲める。ミルクも安いわけじゃないのでちょっとまぁ、ちょっとした贅沢品になるわけだが。
このように紅茶一つとってもブレリアではランドールに無かった刺激が存在する。特にブレリアは他民族国家だけあって、ランドールと比較にならないほど食文化も多彩なのだ。うまいものもあればまずいものもあり、腹を下すことだってあったが、俺はこの刺激的な食生活がかなり気に入っていた。
「・・・あっ・・・」
ミルクティーを飲み終わり、読んでいた本・・・恋愛小説を手に取ろうとすると、ふと思い出す。
「そうだ・・・今日は新刊の出る日だったな」
エーペレスさんに強制されて以来、なんだかんだ自分でも楽しみにするようになった流行りの本を読む習慣は、ここオークヨークに来てからも続いていた。
今日は俺の楽しみにしていた恋愛小説の新刊が発売される日であることを思い出し、ティータイムを中断して俺は本を買いに行くことにした。
「出遅れたな・・・まだ残っているか?」
忘れないようにしていたつもりだったが、すっかり忘れていて出遅れてしまった。本屋で売り切れていないことを願いつつ、俺は急いで宿屋を出た。
このとき俺は急いでいたせいで、よく周りを見ていなかった。
ドンッ
「あっ」
誰かが横から俺にぶつかってきた。ぶつかってきた相手が反動で転びそうになるのを、俺は思わず手で抱き留める。軽い。相手は女性のようだった。
「すまねぇ、大丈夫かい?」
どうやら俺が彼女の進行妨害をしてしまったようだ。
ぶつかった相手を見る。茶髪のセミロングの中々の美少女だった。彼女は顔を真っ赤にして、じっと俺を見ている。
「ん・・・?」
少女の反応に、俺はここでようやく気付く。抱き留めた左腕の先、左手が彼女の胸に少し触ってしまっていたのを。
「あ・・・」
謝ろう。即座にそう思い、手を離そうとすると
バチィィィン
辺りによく響きそうな音を立て、少女は俺の顔に張り手をくらわせた。実にいい一撃だった。
「こ、この痴漢野郎ぉぉ!!」
少女は俺からサッと距離と取り、指をさして叫ぶ。
これが俺と少女・・・アミルカとの出会いだった。
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