上 下
91 / 471

新生活の堪能と出会い

しおりを挟む
俺が死人の種の一件に遭遇してから一か月、オールヨークに辿り着いてから二か月が経過した。

死人の種に絡んでの依頼について冒険者ギルドから極秘依頼として出されるようになった俺やザイル達だったが、その生活が一変するわけではなく、一週間に一度あるかないかの極秘依頼をこなす程度の日々であった。
極秘依頼は回数も少ないし、内容もそれを思わしきものの発見がされれば探索、調査をするといった程度のもので、魔物の巣窟に飛び込むことは一回はあったが、それ以外は戦闘が起きるわけでもなく、実際に死人の種が見つかったわけでもない、なんとも肩透かしというか手ごたえのないものだった。

だが、実入りの方は中々で、労力の割にはそこそこの報酬が支払われた。これは口止め料も入っているというのもあるが、それだけ死人の種に関わる仕事にはリスクが伴っているというのもある。
実入りが良くなると、それなりに生活費に余裕も出てくるため、贅沢せずただ暮らすだけなら何もしなくて良い休日というのがそこそこ作れるようになる。
本日、俺はオールヨークでの拠点として借りている安宿の一室で休日を堪能していた。


「はぁ~・・・」


自分で煎れたミルクティーを飲んでまったりしていた。
ミルクティーを飲みながらお菓子をついばみ、本を読む。これが俺の休日の贅沢な暮らし方だ。
ランドールにいたときは意識していなかったが、オークヨークでは紅茶を飲もうとするとそこそこの金が必要になる高級品だった。店できちんとしたものを飲もうとすると、それこそ裕福な貴族でもないと毎日は飲めないような、それだけの金がかかる。

では茶葉を買い、自分で煎れればどうなるだろうか?
金額はかなり安く抑えられる。それでも少しだけ効果な飲み物になるが。だが、俺の手で買える茶葉となると、これがなんと質が悪いのだ。
どうにも質のまちまちな茶葉がブレンドされているものしか一般人に買える店では流通しておらず、最初に店で茶葉を買い込み、意気揚々と買って煎れたときには「まずいっ!」と声を上げて驚いたものだ。
ちゃんとした店で出してくるものはそれなりにちゃんとした茶葉を使っているようで、なるほど、店が高いのはそれが理由でもあるのかと納得した。どうやらブレリア・・・少なくともここオールヨークではちゃんとした紅茶を飲むにはそれなりのコストをかけないといけないようであった。

では一般人はこの質の悪い茶葉で紅茶を煎れるのか?
そのまま煎れて飲む人もいるが、ここではミルクなどを足して飲むのが一般的だ。最初こそ「えっ?混ぜるの?
」と驚いたが、なるほどこれなら茶葉が悪くてもそれなりに飲める。ミルクも安いわけじゃないのでちょっとまぁ、ちょっとした贅沢品になるわけだが。

このように紅茶一つとってもブレリアではランドールに無かった刺激が存在する。特にブレリアは他民族国家だけあって、ランドールと比較にならないほど食文化も多彩なのだ。うまいものもあればまずいものもあり、腹を下すことだってあったが、俺はこの刺激的な食生活がかなり気に入っていた。


「・・・あっ・・・」


ミルクティーを飲み終わり、読んでいた本・・・恋愛小説を手に取ろうとすると、ふと思い出す。


「そうだ・・・今日は新刊の出る日だったな」


エーペレスさんに強制されて以来、なんだかんだ自分でも楽しみにするようになった流行りの本を読む習慣は、ここオークヨークに来てからも続いていた。
今日は俺の楽しみにしていた恋愛小説の新刊が発売される日であることを思い出し、ティータイムを中断して俺は本を買いに行くことにした。


「出遅れたな・・・まだ残っているか?」


忘れないようにしていたつもりだったが、すっかり忘れていて出遅れてしまった。本屋で売り切れていないことを願いつつ、俺は急いで宿屋を出た。
このとき俺は急いでいたせいで、よく周りを見ていなかった。


ドンッ


「あっ」


誰かが横から俺にぶつかってきた。ぶつかってきた相手が反動で転びそうになるのを、俺は思わず手で抱き留める。軽い。相手は女性のようだった。


「すまねぇ、大丈夫かい?」


どうやら俺が彼女の進行妨害をしてしまったようだ。
ぶつかった相手を見る。茶髪のセミロングの中々の美少女だった。彼女は顔を真っ赤にして、じっと俺を見ている。


「ん・・・?」


少女の反応に、俺はここでようやく気付く。抱き留めた左腕の先、左手が彼女の胸に少し触ってしまっていたのを。


「あ・・・」


謝ろう。即座にそう思い、手を離そうとすると


バチィィィン


辺りによく響きそうな音を立て、少女は俺の顔に張り手をくらわせた。実にいい一撃だった。


「こ、この痴漢野郎ぉぉ!!」


少女は俺からサッと距離と取り、指をさして叫ぶ。

これが俺と少女・・・アミルカとの出会いだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で『魔法使い』になった私は一人自由気ままに生きていきたい

哀村圭一
ファンタジー
人や社会のしがらみが嫌になって命を絶ったOL、天音美亜(25歳)。薄れゆく意識の中で、謎の声の問いかけに答える。 「魔法使いになりたい」と。 そして目を覚ますと、そこは異世界。美亜は、13歳くらいの少女になっていた。 魔法があれば、なんでもできる! だから、今度の人生は誰にもかかわらず一人で生きていく!! 異世界で一人自由気ままに生きていくことを決意する美亜。だけど、そんな美亜をこの世界はなかなか一人にしてくれない。そして、美亜の魔法はこの世界にあるまじき、とんでもなく無茶苦茶なものであった。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

捨て子の幼女は闇の精霊王に愛でられる

ここあ
ファンタジー
幼女が闇の精霊王にただただ愛でられる話です。溺愛です。徐々に逆ハー(?) 感想いつでもお待ちしております!励みになります♪

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

世界一の怪力男 彼は最強を名乗る種族に果たし状を出しました

EAD
ファンタジー
世界一の怪力モンスターと言われた格闘家ラングストン、彼は無敗のまま格闘人生を終え老衰で亡くなった。 気がつき目を覚ますとそこは異世界、ラングストンは1人の成人したばかりの少年となり転生した。 ラングストンの前の世界での怪力スキルは何故か最初から使えるので、ラングストンはとある学園に希望して入学する。 そこは色々な種族がいて、戦いに自信のある戦士達がいる学園であり、ラングストンは自らの力がこの世界にも通用するのかを確かめたくなり、果たし状を出したのであった。 ラングストンが果たし状を出したのは、生徒会長、副会長、書記などといった実力のある美女達である、果たしてラングストンの運命はいかに…

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...