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相手がいない。そこにはいない。

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「本家である我が家と疎遠になりたいとはどういうつもりだ・・・!?」


ダグラスは手紙を握りつぶすと、地面に向けて叩きつけた。
自分を諫めた者が結局自分を認め、媚びを売ってきたとぞ思って優越感に浸っていたので怒りはなお増していた。
信じられん、キアラが王族の仲間入りをするのだぞ?正気か?
そのことをまだ知らないのか?


「そんなにルーデルとの縁談を破談にしたのが気に入らないのか!?」


ダグラスは誰へともなく叫んだ。
これから数日、同じような内容の手紙が他の親戚からも届き、ダグラスはまた怒り狂ったのであった。









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「ふぅ・・・」


キアラは毎日のように訪ねてきたラルスの帰りを今日も見送った後、溜め息をついた。

台本通りとはいえ、本当に毎日にように訪ねてくるラルスの相手をするうちに、キアラも慣れたのかいくらか受け答えはすることができるようになった。
しかし、思い描いていたような『従順な婚約者』の演技が出来ない。感情に乏しく、常につまらなそうにしている女だというのが今のキアラであった。まぁ、実際にキアラはつまらないと思っているのだが。

今、キアラの心は自分でも信じられないほど荒れていた。
何かに当たったり、態度が表に出たり、それほどのものではないが、自分でも自覚できるほど不機嫌になるということはキアラが記憶している限りこれまでに一度もなかったことだった。

キアラは感情に乏しい。もちろん、完全なる無感情ではない・・・驚きもするし苛立ちもする。
だが、ここまで心が乱れるのは初めてのことだと、キアラは自分で驚いていた。

原因はラルス王太子・・・彼だろうとキアラは考えていた。
ラルスを前にすると苛立ちが止まらない。彼のことを生理的に受け付けないのだろうか?
仲睦まじいとまではいかなくても、それでもある程度親しんでいる演技を見せなければならないのに、その演技ができない。やる気になれない。
相手がショウのときは簡単に出来たのに。


「・・・気分転換が必要だわ」


息が詰まりそうだった。
ラルスが明日もその明日もやってくるだろうことを考えると、何か発散しなくてはいつか爆発する・・・自分がまさかと思うが、そんな予感があった。

舞台劇を見に行こう。
キアラはそう思いつくと、すぐに使用人に手配をさせた。
自分の好きな劇を見て、どうせなら何か美味しい物でも食べて来よう。せっかくなら新しい服もついでに見てこようか。
以前から魔術の研究に没頭し過ぎて、気分転換したくなった時にはこのコースだった。
もちろん、前はショウと二人だったが、今回は一人でだ。ラルスなど連れていったらきっと逆効果だ。

そしてキアラは気分転換に出かけた。
しかし、気分が晴れることはなく、むしろモヤモヤが増した。

一緒に劇を見て感想を言い合える相手、一緒に食事をする相手、新しい服を見せる相手、いつも気分転換のときには一緒にいた相手がいたことを思い出す。それが今はいない。もう戻ってはこない。他でもない、自分のせいで。

・・・自分のせい?全てが自分の意志?
いや、違う、自分の意志ではない。自分はそうするようにと言われただけだ。
それに従っただけだ。
ならばこれは誰のせいだ?




「・・・まぁ、無いものは仕方がないわ」


キアラはそう諦めの言葉を独りごちる。
考えることをやめる。変なことを考えそうになった。このことについて考えることは良くない気がする。
キアラはそう自分に言い聞かせ、自分の心に無理矢理に蓋をした。

だがこの時以来、キアラの心は少しずつ荒れていった。
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