90 / 471
相手がいない。そこにはいない。
しおりを挟む
「本家である我が家と疎遠になりたいとはどういうつもりだ・・・!?」
ダグラスは手紙を握りつぶすと、地面に向けて叩きつけた。
自分を諫めた者が結局自分を認め、媚びを売ってきたとぞ思って優越感に浸っていたので怒りはなお増していた。
信じられん、キアラが王族の仲間入りをするのだぞ?正気か?
そのことをまだ知らないのか?
「そんなにルーデルとの縁談を破談にしたのが気に入らないのか!?」
ダグラスは誰へともなく叫んだ。
これから数日、同じような内容の手紙が他の親戚からも届き、ダグラスはまた怒り狂ったのであった。
-----
「ふぅ・・・」
キアラは毎日のように訪ねてきたラルスの帰りを今日も見送った後、溜め息をついた。
台本通りとはいえ、本当に毎日にように訪ねてくるラルスの相手をするうちに、キアラも慣れたのかいくらか受け答えはすることができるようになった。
しかし、思い描いていたような『従順な婚約者』の演技が出来ない。感情に乏しく、常につまらなそうにしている女だというのが今のキアラであった。まぁ、実際にキアラはつまらないと思っているのだが。
今、キアラの心は自分でも信じられないほど荒れていた。
何かに当たったり、態度が表に出たり、それほどのものではないが、自分でも自覚できるほど不機嫌になるということはキアラが記憶している限りこれまでに一度もなかったことだった。
キアラは感情に乏しい。もちろん、完全なる無感情ではない・・・驚きもするし苛立ちもする。
だが、ここまで心が乱れるのは初めてのことだと、キアラは自分で驚いていた。
原因はラルス王太子・・・彼だろうとキアラは考えていた。
ラルスを前にすると苛立ちが止まらない。彼のことを生理的に受け付けないのだろうか?
仲睦まじいとまではいかなくても、それでもある程度親しんでいる演技を見せなければならないのに、その演技ができない。やる気になれない。
相手がショウのときは簡単に出来たのに。
「・・・気分転換が必要だわ」
息が詰まりそうだった。
ラルスが明日もその明日もやってくるだろうことを考えると、何か発散しなくてはいつか爆発する・・・自分がまさかと思うが、そんな予感があった。
舞台劇を見に行こう。
キアラはそう思いつくと、すぐに使用人に手配をさせた。
自分の好きな劇を見て、どうせなら何か美味しい物でも食べて来よう。せっかくなら新しい服もついでに見てこようか。
以前から魔術の研究に没頭し過ぎて、気分転換したくなった時にはこのコースだった。
もちろん、前はショウと二人だったが、今回は一人でだ。ラルスなど連れていったらきっと逆効果だ。
そしてキアラは気分転換に出かけた。
しかし、気分が晴れることはなく、むしろモヤモヤが増した。
一緒に劇を見て感想を言い合える相手、一緒に食事をする相手、新しい服を見せる相手、いつも気分転換のときには一緒にいた相手がいたことを思い出す。それが今はいない。もう戻ってはこない。他でもない、自分のせいで。
・・・自分のせい?全てが自分の意志?
いや、違う、自分の意志ではない。自分はそうするようにと言われただけだ。
それに従っただけだ。
ならばこれは誰のせいだ?
「・・・まぁ、無いものは仕方がないわ」
キアラはそう諦めの言葉を独りごちる。
考えることをやめる。変なことを考えそうになった。このことについて考えることは良くない気がする。
キアラはそう自分に言い聞かせ、自分の心に無理矢理に蓋をした。
だがこの時以来、キアラの心は少しずつ荒れていった。
ダグラスは手紙を握りつぶすと、地面に向けて叩きつけた。
自分を諫めた者が結局自分を認め、媚びを売ってきたとぞ思って優越感に浸っていたので怒りはなお増していた。
信じられん、キアラが王族の仲間入りをするのだぞ?正気か?
そのことをまだ知らないのか?
「そんなにルーデルとの縁談を破談にしたのが気に入らないのか!?」
ダグラスは誰へともなく叫んだ。
これから数日、同じような内容の手紙が他の親戚からも届き、ダグラスはまた怒り狂ったのであった。
-----
「ふぅ・・・」
キアラは毎日のように訪ねてきたラルスの帰りを今日も見送った後、溜め息をついた。
台本通りとはいえ、本当に毎日にように訪ねてくるラルスの相手をするうちに、キアラも慣れたのかいくらか受け答えはすることができるようになった。
しかし、思い描いていたような『従順な婚約者』の演技が出来ない。感情に乏しく、常につまらなそうにしている女だというのが今のキアラであった。まぁ、実際にキアラはつまらないと思っているのだが。
今、キアラの心は自分でも信じられないほど荒れていた。
何かに当たったり、態度が表に出たり、それほどのものではないが、自分でも自覚できるほど不機嫌になるということはキアラが記憶している限りこれまでに一度もなかったことだった。
キアラは感情に乏しい。もちろん、完全なる無感情ではない・・・驚きもするし苛立ちもする。
だが、ここまで心が乱れるのは初めてのことだと、キアラは自分で驚いていた。
原因はラルス王太子・・・彼だろうとキアラは考えていた。
ラルスを前にすると苛立ちが止まらない。彼のことを生理的に受け付けないのだろうか?
仲睦まじいとまではいかなくても、それでもある程度親しんでいる演技を見せなければならないのに、その演技ができない。やる気になれない。
相手がショウのときは簡単に出来たのに。
「・・・気分転換が必要だわ」
息が詰まりそうだった。
ラルスが明日もその明日もやってくるだろうことを考えると、何か発散しなくてはいつか爆発する・・・自分がまさかと思うが、そんな予感があった。
舞台劇を見に行こう。
キアラはそう思いつくと、すぐに使用人に手配をさせた。
自分の好きな劇を見て、どうせなら何か美味しい物でも食べて来よう。せっかくなら新しい服もついでに見てこようか。
以前から魔術の研究に没頭し過ぎて、気分転換したくなった時にはこのコースだった。
もちろん、前はショウと二人だったが、今回は一人でだ。ラルスなど連れていったらきっと逆効果だ。
そしてキアラは気分転換に出かけた。
しかし、気分が晴れることはなく、むしろモヤモヤが増した。
一緒に劇を見て感想を言い合える相手、一緒に食事をする相手、新しい服を見せる相手、いつも気分転換のときには一緒にいた相手がいたことを思い出す。それが今はいない。もう戻ってはこない。他でもない、自分のせいで。
・・・自分のせい?全てが自分の意志?
いや、違う、自分の意志ではない。自分はそうするようにと言われただけだ。
それに従っただけだ。
ならばこれは誰のせいだ?
「・・・まぁ、無いものは仕方がないわ」
キアラはそう諦めの言葉を独りごちる。
考えることをやめる。変なことを考えそうになった。このことについて考えることは良くない気がする。
キアラはそう自分に言い聞かせ、自分の心に無理矢理に蓋をした。
だがこの時以来、キアラの心は少しずつ荒れていった。
1
お気に入りに追加
664
あなたにおすすめの小説
えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始!
2024/2/21小説本編完結!
旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です
※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。
※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。
生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。
伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。
勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。
代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。
リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。
ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。
タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。
タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。
そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。
なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。
レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。
いつか彼は血をも超えていくーー。
さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。
一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。
彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。
コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ!
・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持
・12/28 ハイファンランキング 3位
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる