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王の悩み

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ラルスの父であるランドール国の国王バレスは王城の政務室で頭を悩ませていた。
悩みの種はいくつかあるが、そのどれもが第一子ラルス王太子に関わることであった。

バレスにはラルスの他に二人の息子がいるが、長男であり兄妹の中で最も優秀であるとされるラルスを最も愛していた。少々愛情を注いでいた自覚はあったが、それもラルスに自分の後継として強く期待していたからである。


「父上、お願いがございます」


それ故に、珍しくラルスから乞われた我儘を聞いてしまった。
それはラルスが求める女性キアラ・ルーベルト嬢を王妃に迎えたいという願いだった。

通常ならば特に問題はないが、問題なのは障壁となるキアラの婚約者だった。何しろ国防を担い、軍事力でも影響力でも決して王家が蔑ろにして良い相手ではない、ルーデル辺境伯家の嫡男ショウ・ルーデルなのだ。
いかに王家といえど、ルーデル家に対して決まった婚約者を横取りすることなどできない。


「難しいのはわかっています。しかし、私はなんとしてもキアラ・ルーベルト嬢を王妃にとしたいのです」


一度は違う相手にしないかと持ち掛けてみたが、ラルスは頑なにキアラをと聞かなかった。
それほどまでに恋焦がれているのならと、バレスは極秘裏にキアラを得るための障壁・・・ショウの排除のための計画をラルスと彼の側近にして次期宰相であるラプスより聞くことにした。
それは身の毛もよだつほどの壮大で恐ろしい計画であったが、バレスは可愛いラルスのためならと計画の実行を承認したのである。

まずはルーデルの嫡男を排除した際、ルーデルとの衝突を最小限に抑える手段を考える必要があった。万が一にもルーデルが反乱を起こせば、王都が多大なダメージを受ける可能性があるからである。

そのため、ショウの兄リュート・ルーデルの利用しようということになった。
彼は資質が無かっただけでなく本人の意向もあって、長男でありながらルーデルを継ぐことはないことになっていた。王都で既に公爵家への婿入りが決定しており、ルーデルに戻ることはない。

なので、極秘裏に手を回してリュートに女をあてがい、不貞の既成事実を作らせて公爵家と婚約破棄させた。
ただの町娘では流石のリュートも警戒して手を出さないので、金を使い彼好みの貴族の娘をわざわざ用意した。油断したリュートはあっさりと罠にかかったが、予想に反してにこの件を調査する輩が現れたので、結果として口封じに娘ともども貴族を始末することになってしまった。
金も手間もリスクもあったが、まずこれは結果として成功した。
王都での信頼も将来のポストも失ったリュートは、ショウなき後のルーデル家を継ぐことを条件にショウを追い落とす舞台への協力を了承した。
こうして王家の息のかかったリュートをルーデルの当主と据え置くことで、ルーデルの反乱は防ぐことができるだろうと考えた。


次に、ショウを罠にはめる舞台の設定。これは御前会議の前日にしようと決まる。国中から貴族が集まるので、騒ぎがあればすぐにその事実は広まることになるからだ。
ルーデルの嫡男が婚約者に乱暴をしようとし、止めに入った王太子を傷害を負わせるというスキャンダルが広まることで、その後にラルスがキアラと婚約することに不信感や反発を抑え込む。これが狙いであった。


だが、その日にはルーデルと懇意にしている、これまたランドールに影響力のあるアーヴィガ・ハルトマン辺境伯がやってくる。
アーヴィガが現場にいると、ルーデルのみならずハルトマンまでもが反乱に加わったり、そもそも計画そのものが失敗に終わる危険性があった。
だからアーヴィガを当日王城からギリギリまで遠ざけるために、平等主義の掲げる不穏分子「活動家」の存在を利用した。金で彼らの上層部を操り、ハルトマン領地にて同時多発的に暴動を起こさせた。
これに対応によってアーヴィガは狙い通り足止めされ、当日王城に来ることはなかった。


それらの下準備が功を無し、計画は概ね成功した。
囚人奴隷の特赦をちらつかせることで、騎士団思いのショウの心を突いて反乱に対する気概を失わせることもできた。

だが、このときにショウが取った行動によって、ラルスはよりによってキアラの前で失禁茫然としてしまうという失態を犯す。
バレスは命こそ奪われなくて良かったと思ったが、ラルスはそうではなかった。
ラルスはこのときの屈辱と恐怖を克服するために、なんと追放の決まったショウの暗殺を目論んだのであった。


そしてその行動が、今のバレスの悩み、そしてその後の彼らに降りかかる災難に繋がることになるのであった。
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