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火薬庫に種火が飛び込む

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「冤罪」から一か月が経過した。
リュート・ルーデルが正式に辺境伯となって少し間が空いたが、ようやく彼も本格的に動こうとしていた。


「オミト。今日は騎士団に顔を出そうと思う」


リュートは執務室でオミトを呼ぶとそう言った。


「騎士団に・・・ですか?」


思わず唖然としたオミトだったが、じっとリュートの顔を見定める。
一か月ほど前にやってきたときよりは、いくらか覚悟の据わった目をしている。母エリナがリュートを見限って制止を振り切って修道院に行ってしまって以来、塞ぎ込んでいた次期があったが、今は突然憑き物を落としたかのようである。
ここ最近も騎士団にこそ顔は出さなかったが、少しずつ執務に取り掛かるようになっていた。

なるほど、母エリナを振り向かせるのにはまず辺境伯に相応しい男として行動で見せていこうと思ったのだなとオミトは察した。
少々時間はかかったが、ようやくそれくらいの心意義は見せたのかと。

だがーー


「本当に・・・行くのですか?」


オミトは思わず再度確認してしまう。
火薬庫に種火が飛び込もうとしているのだ。今すぐ種火ごと消してしまいたいような心境だった。冷や汗が止まらない。


「あぁ。いつまでも領主の私が顔を出さないわけにはいかないだろう」


リュートはなにやらカッコつけてキメ顔をしているが、これまで唯一の味方のエリナを失い、この屋敷で行き場の無さそうにオドオドしていた男が何を言うのかとオミトは内心呆れていた。

言っていることは最もなのだが、そもそも目の前のこの男は正当な段取りで辺境伯を継いだ者ではない。
皆に愛され、本来継ぐはずだったショウを押し出して辺境伯の椅子に座っているのである。騎士達からすれば家族の敵といっても過言では存在なのだ。
そんな燻っている彼らの元に、新たな領主だと呑気に顔を出せばどうなるか。

いや、待て・・・考えるだけで頭が痛くなるが、しかしいずれは通らねばならぬ道なのだとオミトは考えた。
この一か月、どうにか騎士団を宥め続けてきたが、そろそろ慣らしておかねばならないかと。
リュートの顔を見て騎士が暴発したところで、もう駄目で元々だ。そのときはそのときだろうと。


「わかりました。ご案内します」


オミトは溜め息をついて、リュートにそう言った。
オミトも覚悟を決めたのだ。


「うむ、よろしく頼む」


リュートはやや緊張した面持ちでそう言ってオミトに続いて歩き出した。
これから幾たびも襲いくる、多難の一つがリュートを迎えようとしていた。
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