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べっそうぐらし

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俺とザイルは町の自警団本部の敷地内にある建物まで連行された。
到着するなり丸裸にされて全身をチェックされ、それが終わったら服を着て良いと言われてからここにいてくれと与えられた部屋で一服する頃には、既に日が沈もうとしていた。


「はぁ・・・!」


どっぷりと疲れが出て、俺は部屋にあるソファにどかっと身を沈めた。
自警団が言うには防疫のために、俺達は二日ほどこの自警団施設で隔離されるとのことであった。
部屋にはギルドに報告に行ったドロシー達もいる。彼らもギルドに報告にいくなり、血相を変えたギルドマスターの指示で身柄を拘束され、ここに連行されたのだという。
この部屋の中であれば好きなようにしても構わないらしいのだが、一歩でも外に出ることは許されていない。


「いや、まさかここまでされるとは・・・」


死人の種にある程度見慣れ、その対処も心得ていたと思ってた俺だったが、それでもやはりまだ足りない知識があったらしい。
決して死人の種に触れたわけでも吸引したわけでもないのに、万が一の可能性を考えて隔離されてしまった。
死人の種に感染の疑いのある人間は、基本的に数時間の様子見で感染か否かの判断がされる・・・と俺は思っていた。
だが、世界では30時間後に症状の出たという例が何度かあるらしく、今では死人の種の感染の疑いのある場合は48時間の隔離が必要になるということであった。


「あんなに慌てた様子のギルドマスターは初めて見ました・・・」


ドロシーが当時の様子を振り返る。


「いや、俺達、ショウさんにコテンパンにされるまでちょっとギルドでも悪さしてたじゃないですか。だからついにしょっぴかれたのかなーって最初は思いましたよ」


クリフが言う。コテンパンにしたのはザイルだけで、お前たちにはやってないだろ?と思ったが。


「いや、俺も死人の種については知ってはいるつもりだったが、ここまでの隔離をするとは思わなかったぜ」


それを知っていたら俺もギルドに報告するのを考えたかもしれん。ここまでの面倒事になるなんて御免だ。
俺が騎士団として対処していたときは、良くも悪くもシンプルでここまで時間のかかるようなことなどなかった。感染の疑いのある者は即座に牢に放り込むか、縄で縛って動けなくしておくかどっちかだったから。
こうしてまだある程度の自由を認められるのは幸運といえば幸運か。


「ドロシーも死人の種については知っていたんだな」


「はい。一応、魔法使いの基礎知識の一つとして勉強していました」


死人の種の秘薬の中には、魔法使いの魔力を引き上げる効果のあるものもあるという。今では固く禁止されているが、昔の錬金術師の中には危険を承知で死人の種を使った魔法の研究をした者も少なからずいたのだとか。
アルス教の聖騎士団によりそのほとんどは消え去ったが、今でも隠れて研究している者たちがいて、それを基本的に「邪教徒」と呼び、行方を追っているのだという。

本当に死人の種に魔力を引き上げる効果があるのかは俺にはわからない。だが、既にリスクを承知で長きに渡って研究を行っている者がいる以上、恐らくなんらかの成果は出ているのだろうと俺は思っている。
魔法使いでもない俺には関係のない話だし、そこまで深く考えたことは無かったが、実際に死人の種に絡んでこうして実害を被ると、嫌でも考えるようになってしまう。


「はぁ。二日間もここで待機かよ。休業補償とか貰えるんかな?」


「別に普段から俺たち二日どころか一週間休むことだってあるじゃん。何が休業補償だよったく」


ザイルがぶつくさ言って、クリフがそれにツッコミを入れる。


「ま、俺達が普段使ってる宿屋より上質だからいいか。何だか別荘暮らしみたいだな」


「ちげぇねぇ」


二人はそう言ってヘラヘラと笑った。
それをぼんやり眺めながら「そういや貴族牢みたいな生活だな」なんて思ったりした。
衛兵に言えば紅茶が出てくるわけでもなし、調度品の類も比較にならないほど安っぽいし、複数人同室だし一気にランクが落ちた気がするが。
あぁ、あと(当然だが)ソーアもいないんだな。
・・・何だか寂しくなってきた。


「えぇっ・・・夜もここで一緒なんですか・・・」


ドロシーが俺を見て困ったように言った。
あぁ、そういえばそういう問題もあったな。だが、俺達に与えられた部屋はここ一室のようだ。風呂もトイレもあるが、ベッドは同室にあって区切りは存在しない。


「あぁ、お化粧とかどうしましょう・・・」


ドロシーはチラッと俺を見ながら途方に暮れている。
なんてしおらしい態度を取っているんだ。最初にあったときなんてどことなくアバ〇レキャラに見えたのに。
・・・ちょっと自警団に交渉して別部屋にさせてもらえないか聞いてみるか。


ダメ元ながら交渉をし、渋られたが食い下がるとどうにか寝室だけ別部屋にしてもらうことができた。
ドロシーは両手で俺の手を取りギュっと握りながら嬉しそうに感謝の言葉を述べていた。ザイルとクリフはそれを見てニヤニヤと何だか気味の悪い笑みを浮かべていた。
一体なんだというんだ。


そして二日後、俺達が解放される日となった。
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