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大根役者への失望

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「リュートに当主の座は務まらん。アレは他のことをさせたほうがいいだろう」


元々次期辺境伯の座はリュートには向いていないという先代当主トウシの判断、そして本人の意向もあり、彼ではなく弟のショウに渡ったものだ。

武の家系に生まれながら戦いを好まず軟弱でもあったリュートだったが、母譲りの端麗な容姿と高い社交性を持っていた。それを生かし王都でもそこそこの家に入り婿し、そこで得た力でルーデル家を支えるという形で貢献するというのが彼の望みでもあり、先代当主のトウシやエリナもそれがベターであると考えていた。

だが、それは彼の不貞が発覚したことにより絶望的となった。
それどころか王都においてもリュートは社交界で居場所を失い、彼が身を立てる場は無くなってしまった。

それに比べれば・・・人からの冷たい視線に耐えながらこそこそ暮らしていくくらいなら、それなら嫌だった辺境伯の座についたほうがいい。
リュートは辺境伯という座に逃げたのだ。元いた弟を追い出してまで。

そのことが理解できているエリナは、何を思ったのか。
その日から食事の量が減り、部屋から外に出ることもなくなり、誰とも会話せず、ずっと塞ぎ込んでいた。

だから、リュートがルーデル邸に帰り、エリナの部屋を訪れたとき・・・彼女は実に数日ぶりに人と口らしい口を聞いた。


「リュート、あなたはどうしてをしたのですか?」


・・・と、その第一声はこれであった。
感情の無い、酷く冷たく恐ろしささえ感じるような機械的な声だった。


「あのようなこと・・・とは?」


思わずたじろいたリュートはそう答えた。
もちろん、エリナが何について言っているのかは当然わかっているが、しかしまさか彼女がそのことについて質問をしてくるなどとはリュートは考えてもいなかったのだ。
ショウを追い落とし、自分が辺境伯となってルーデル邸に戻ってくることを、即座に歓迎するとまではいかなくても・・・きっと黙認くらいはしてくれるだろう。
少しぎこちなくても、自分のことをショウよりも愛してくれているエリナなら、ショウに罰せられたとき一緒に憤慨してくれた母なら、何も聞かずに受け入れてくれるだろう・・・リュートはそう考えていた。
だから「どうしてそんなことをした?」などと至極当たり前の質問を投げかけられた程度でもリュートは困惑してしまっていた。


「わかりませんか?ショウのことです」


聞いたこともないようなエリナの淡々とした言葉に、リュートはたじろきながらも


「ショウのこと?・・・彼は、婚約者のルーベルト嬢に乱暴をして」


パシン


バレバレであるのに、あくまで台本通りに答えようとするリュートの頬を、エリナは平手で叩いた。
リュートは茫然として叩かれた頬に手を当てる。エリナを見ると、彼女は無表情のままボロボロと涙を流し、それを見たリュートは大きく混乱していた。
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