国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ

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シン・辺境伯の多難な出出し

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「冤罪」から十日ほど経過した後、ショウの兄リュート・ルーデルは数か月ぶりにルーデル家へとやってきた。
馬車に揺られながら徐々に近づいてくるルーデル家を眺めながら、リュートは思わず笑みを浮かべていた。


「これまではいずれショウのものになると思っていたから忌まわしいと思っていたが、自分にものになったとわかると途端に印象が変わるのだから不思議なものだ」


そう、このルーデル家は今は正式にリュートのものになっている。
ショウは成人を終えていなかったのであくまで次期当主のままだったが、リュートは成人しているので王家承認済みの正式な辺境伯となっていた。
王家の承認済みであること、そして、ショウが婚約者への暴行により国外追放にされていること、囚人奴隷への特赦について全てについて早馬で先触れを出していたので、屋敷に到着してからの説明は不要だろう。きっと新当主である自分を出迎える準備が出来ているはずだーーリュートはそう思っていた。

だがーー




「・・・どういうことだ?」


リュートの乗る馬車が到着したというのに、誰も出迎えに来る様子が無かった。


「おい、誰かいないのか?出迎えはどうなっている?」


リュートが門番に訊ねると、門番は面倒くさそうに


「さぁ?忙しくて出迎える暇なんて無いんじゃないですかぁ?」


とだけ言った。


「馬鹿な」


当主であるリュートに敬意がない態度なのは明らかだったが、今はそれは置いておいてリュートはつかつかと歩いて玄関の扉を開いた。


「・・・!」


邸内では使用人が掃除など通常の職務を全うしていた。特に忙しくしているような感じはなく、それを見てリュートは声を上げる。


「どうしたんだ!?何故誰も僕を出迎えなかった!!?」


凱旋帰郷のはずが、誰も自分を出迎えない。
新生活の出出しを台無しにされたようで、リュートは苛立っていた。
使用人たちがキョトンとしているのを見て、ますますその感情は加速する。


「おやおやこれは。リュート様お帰りなさいませ」


そこへやってきたのはオミトだった。

一瞬、リュートは苦手意識を持っていたオミトがやってきたことで身構えた。
だが、今では自分が当主だ。オミトに直接指示できる立場にある。もう恐れることなどないのだと言い聞かせ、リュートは毅然とした態度を表した。


「オミト。当主の僕が帰ってきたのに、出迎えがないとはどういうことだ?」


今ではこの屋敷、この領地で自分が一番偉い人間のはずだ。皆最大なる敬意を以て接しなければならない。その当然のことが出来ていなくて、リュートは怒りに震えていた。


「あぁ・・・」


オミトはそんなリュートの様子などまるで気にもかけていないように、とぼけたような態度で考える仕草を見せ


「そういえば先触れにあったリュート様のことについて、屋敷の者に伝えることをすっかり失念しておりました」


笑いながらそう言った。


「は・・・?」


唖然とするリュート。そんなミスを普通するわけがない。オミトが何を言っているのかリュートには理解できなかった。

だが、それもすぐに理解することになった。


「何しろ若・・・ショウ様がいなくなられた後のことが大変で大変で忙殺されておりまして。どうでもいいことは後回しにしてしまいました」


オミトの明確に悪意を含んだその言葉に、リュートは臣下から自分が全く歓迎されていないことを知った。
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