57 / 470
幼馴染達の報復
しおりを挟む
アーヴィガが御前会議をすっぽかし、そのまま貴族街のハルトマン別邸まで来ると、そこではソーアが客室で待ち構えていた。
「御前会議をすっぽかしていいのか?」
こうして自分が御前会議を無視して別邸に来ることを見越したようにやってきたソーアに、彼女も今回起きたことを知っているのだなとアーヴィガは察する。
ソーアは自分のところの「影」のような諜報員を持たないが、それでも一緒に王都にいたのだから何かしらのきっかけで事情を知ったのかもしれないと納得した。実際は驚異的な手段で現場の近くにいたから知ったのだが。
「それ以上にやるべきことができたからね」
アーヴィガはそう言ってソファに座り、メイドから差し出された紅茶に口をつけた。
「凄い顔をしているぞ。まぁ無理もないが」
アーヴィガとの付き合いの長いソーアは、表情から今の彼の精神状態が良くないことをわかっていた。
「確かに、ソーアを見習って少し落ち着かないといけないね」
アーヴィガはソーアのどこか心に余裕のある態度を若干訝しんだが、精神状態が良くないことは確かだなと自制を促そうとする。
「もう話は伝わっていると思うけど、ショウはキアラに裏切られて国外追放された」
アーヴィガは頷いた。いけない、また腸が煮えくりかえりそうになる。
「私はショウが戻って来られるように、やれることをするつもりだ」
「ふむ、ではソーアはどうしたらいいと思う?」
「ラルス王太子を失脚させる」
スパッとソーアが言い切った。全く迷いのない瞳で言うソーアに、アーヴィガは少し驚いた。ソーアと同意見ではあったが、彼女がそれを迷い無く言い切るとは意外だったのだ。ソーアは思い切りのいい性格だが、現場レベルでは処理できないような難しい話は悩むことがあるのを幼馴染であるアーヴィガは知っているのだ。
「そうだね。ショウの追放がラルス王太子の意思である以上、彼と、彼に汲みする者を排除すれば、国外追放撤回を流れを作ることができるかもしれない」
それは長い時間のかかる話になるかもしれない。
「どれだけ時間がかかろうと、私はやるつもりだ」
アーヴィガの心の中を見透かしたかのように、ソーアは言う。
「だが、知っているかい?それをやるには、君には一つ障害があるんだが」
「わかっているさ。マルセイユ家だろう?」
アーヴィガは息を飲む。
「マルセイユはラルス王太子を支持している。それが彼を王太子でいられる理由の一つにしている。だから、マルセイユが支持を取りやめるか、影響力を失せるしかない。かけあってもし支持を取り消すことができなかったら、私は実家に弓を引かねばならないな」
「・・・そうだ」
それはソーアにとって本来重い決断のはずだ。
だがなんだろう。先ほどからソーアには迷うような素振りが一切ない。表情にこそ出さないが、アーヴィガはそれにただただ驚いていた。
「だが今マルセイユには一つスキャンダルがあるかもしれないんだ。これを利用すれば、支持を取りやめさせることも出来るかもしれないし、そうでなくとも力を大きく削ぐことはできそうだ」
「!」
汚職のこともわかっている?
自分から切り出さねばならないと思っていた案件について、ソーアが既に知っていたことについてまたまたアーヴィガは驚く。
「わかっているなら話は早い。君の実家は・・・青の騎士団は汚職に関わっている可能性が非常に高い。もしかしたら、君の母上も関わっているかもしれない」
「そうだな。確かにその可能性はある。だが、私はやるさ」
どこまでも迷いの無いソーアに、アーヴィガは思わず茫然としてしまいそうになった。
一体ソーアはどうしたのだ?マルセイユの汚職についてソーアに斬り出そうとは思っていた。だが、実際にそうすればソーアは思い悩み、心を痛めるだろうとアーヴィガは心配していた。
場合によっては家族を愛するあまり、自分の敵になるかもしれない・・・その可能性も、僅かながらに考えていたのだ。
だが、ソーアはそうならなかった。強い・・・とても強い意志で実家に、家族に弓を引いてでもショウのために戦おうとしている。
「一体どうしたというんだ?いつもの君と違うようだが・・・」
思わず、本当に思わずアーヴィガの口から本音が出てしまった。
「私は強くなったのだ。もう迷うことはない」
ソーアははっきりと答えた。
「愛が私を強くしたのだ。私はショウのためなら何だってするぞ」
「・・・・・・えっっっ!?」
アーヴィガの手からカップが落ち、紅茶が床に染みを作った。
「御前会議をすっぽかしていいのか?」
こうして自分が御前会議を無視して別邸に来ることを見越したようにやってきたソーアに、彼女も今回起きたことを知っているのだなとアーヴィガは察する。
ソーアは自分のところの「影」のような諜報員を持たないが、それでも一緒に王都にいたのだから何かしらのきっかけで事情を知ったのかもしれないと納得した。実際は驚異的な手段で現場の近くにいたから知ったのだが。
「それ以上にやるべきことができたからね」
アーヴィガはそう言ってソファに座り、メイドから差し出された紅茶に口をつけた。
「凄い顔をしているぞ。まぁ無理もないが」
アーヴィガとの付き合いの長いソーアは、表情から今の彼の精神状態が良くないことをわかっていた。
「確かに、ソーアを見習って少し落ち着かないといけないね」
アーヴィガはソーアのどこか心に余裕のある態度を若干訝しんだが、精神状態が良くないことは確かだなと自制を促そうとする。
「もう話は伝わっていると思うけど、ショウはキアラに裏切られて国外追放された」
アーヴィガは頷いた。いけない、また腸が煮えくりかえりそうになる。
「私はショウが戻って来られるように、やれることをするつもりだ」
「ふむ、ではソーアはどうしたらいいと思う?」
「ラルス王太子を失脚させる」
スパッとソーアが言い切った。全く迷いのない瞳で言うソーアに、アーヴィガは少し驚いた。ソーアと同意見ではあったが、彼女がそれを迷い無く言い切るとは意外だったのだ。ソーアは思い切りのいい性格だが、現場レベルでは処理できないような難しい話は悩むことがあるのを幼馴染であるアーヴィガは知っているのだ。
「そうだね。ショウの追放がラルス王太子の意思である以上、彼と、彼に汲みする者を排除すれば、国外追放撤回を流れを作ることができるかもしれない」
それは長い時間のかかる話になるかもしれない。
「どれだけ時間がかかろうと、私はやるつもりだ」
アーヴィガの心の中を見透かしたかのように、ソーアは言う。
「だが、知っているかい?それをやるには、君には一つ障害があるんだが」
「わかっているさ。マルセイユ家だろう?」
アーヴィガは息を飲む。
「マルセイユはラルス王太子を支持している。それが彼を王太子でいられる理由の一つにしている。だから、マルセイユが支持を取りやめるか、影響力を失せるしかない。かけあってもし支持を取り消すことができなかったら、私は実家に弓を引かねばならないな」
「・・・そうだ」
それはソーアにとって本来重い決断のはずだ。
だがなんだろう。先ほどからソーアには迷うような素振りが一切ない。表情にこそ出さないが、アーヴィガはそれにただただ驚いていた。
「だが今マルセイユには一つスキャンダルがあるかもしれないんだ。これを利用すれば、支持を取りやめさせることも出来るかもしれないし、そうでなくとも力を大きく削ぐことはできそうだ」
「!」
汚職のこともわかっている?
自分から切り出さねばならないと思っていた案件について、ソーアが既に知っていたことについてまたまたアーヴィガは驚く。
「わかっているなら話は早い。君の実家は・・・青の騎士団は汚職に関わっている可能性が非常に高い。もしかしたら、君の母上も関わっているかもしれない」
「そうだな。確かにその可能性はある。だが、私はやるさ」
どこまでも迷いの無いソーアに、アーヴィガは思わず茫然としてしまいそうになった。
一体ソーアはどうしたのだ?マルセイユの汚職についてソーアに斬り出そうとは思っていた。だが、実際にそうすればソーアは思い悩み、心を痛めるだろうとアーヴィガは心配していた。
場合によっては家族を愛するあまり、自分の敵になるかもしれない・・・その可能性も、僅かながらに考えていたのだ。
だが、ソーアはそうならなかった。強い・・・とても強い意志で実家に、家族に弓を引いてでもショウのために戦おうとしている。
「一体どうしたというんだ?いつもの君と違うようだが・・・」
思わず、本当に思わずアーヴィガの口から本音が出てしまった。
「私は強くなったのだ。もう迷うことはない」
ソーアははっきりと答えた。
「愛が私を強くしたのだ。私はショウのためなら何だってするぞ」
「・・・・・・えっっっ!?」
アーヴィガの手からカップが落ち、紅茶が床に染みを作った。
1
お気に入りに追加
654
あなたにおすすめの小説
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった
さくらはい
ファンタジー
主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ――
【不定期更新】
1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。
性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。
良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。
「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」
パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。
彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。
彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。
あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。
元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。
孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。
「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」
アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。
しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。
誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。
そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。
モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。
拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。
ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。
どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。
彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。
※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。
※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。
※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~
秋鷺 照
ファンタジー
強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)
スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない
紅柄ねこ(Bengara Neko)
ファンタジー
15歳ですべての者に授けられる【スキル】、それはこの世界で生活する為に必要なものであった。
世界は魔物が多く闊歩しており、それによって多くの命が奪われていたのだ。
ある者は強力な剣技を。またある者は有用な生産スキルを得て、生活のためにそれらを使いこなしていたのだった。
エメル村で生まれた少年『セン』もまた、15歳になり、スキルを授かった。
冒険者を夢見つつも、まだ村を出るには早いかと、センは村の周囲で採取依頼をこなしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる