国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ

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黒い感情に染まる白いカリスマ

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時は少し遡り、「冤罪」の翌日の御前会議の日。
ショウの幼馴染アーヴィガ・ハルトマン辺境伯は道中の荒天が災いし、早朝に王都に到着予定のはずが、朝9時になってからの到着となった。遅れてきた彼を王城前で出迎えたのはハルトマン別邸で仕える使用人だったが、なんと王城に入ろうとする馬車に立ちふさがる勢いでの登場に、冷静なアーヴィガも流石に何が起こったのかと驚いた。


「大至急お耳に入れたいことが御座います」


使用人の報告を聞いてアーヴィガは凍り付いた。
ショウがキアラとラルス王太子に対して事件を起こし、早朝に国外追放になったこと。
そしてそれは冤罪であるということ。
王都に散らばるハルトマン家の「影」は、既に事件のことと、その真相について把握していた。


「引き返せ」


御前会議のために王城手前まで来ておきながら、アーヴィガは制止する衛兵に構うことなく、馬車を引き返させた。この局面で御前会議に出席しないこと、それはショウの追放に対し王家に対する明確な抗議の意を示すことになる。


「ショウの行先は?」


馬車のキャビンの中で、アーヴィガは使用人・・・「影」の一人と話し合う。


「ブレリアのようです」

「ブレリアか・・・どれだけ追いかけても夕方には国境を越えてしまうな・・・果たして搬送されているショウは大人しくしているだろうか」

「どうやら囚人奴隷について取引がなされているようです。なので大人しく従っているものと思われます」


アーヴィガは舌打ちした。取引がされているというのであれば、強引にショウを助けても彼にとって良い方向に行くとは限らない。彼が脱走することもあり得ないだろう。
昨日、ショウが冤罪をかけられたという現場に・・・いや、せめてショウがまだここにいるうちに自分がいたのなら何かできたかもしれない・・・アーヴィガはとにかくそれを悔いた。


「馬鹿な王太子と、嫉妬に狂った兄の暴走か?・・・て、まさかそれだけではないのだろうね」


いつもうっすら穏やかな笑みを浮かべているのが印象的な好青年・・・というのが世間でのアーヴィガの印象だ。正確には世間にそう見せている、だが。

しかし今のアーヴィガは能面のように無表情だ。「影」である使用人は、アーヴィガがこうなるときはどういうときかを知っている。背筋が凍りそうなほどの殺気がアーヴィガから溢れていた。


「覚えておけよ・・・関わった連中は皆タダでは済まさない」


アーヴィガの語る報復の対象・・・ドス黒い感情をぶつける相手には、もちろん、彼の中ではキアラも含まれている。幼馴染だろうと、裏切り者であるなら関係ないと考えていた。

いま水面下で激しい戦いが始まろうとしている。
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