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これは悪夢だ
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ラルス王太子の警護を担当する近衛騎士達の一部10名は、突然ラルスに呼び出され命ぜられた。
ショウ・ルーデルの護送任務に就き、追放先のブレリアの地にて始末せよと。
近衛騎士達は耳を疑った。
黒の騎士団の暴発を防ぐため、ショウは殺さずに国外追放とすると言ったラルスが、前言を撤回したからだ。
ブレリアの地ならランドール国の者の目が無いからなのだろうが、それにしたってリスクが無いわけではない。どうしてリスクを冒してまで前言を撤回するのか近衛騎士達は疑問に思ったが、珍しく鬼気迫る剣幕でまくし立てるラルスに気圧され、言うがままに任務に就くことになった。
近衛騎士達はショウの冤罪についてはある程度先に聞いてはいたが、現場にいたわけではなかった。だから、ショウの刀の寸止めによって放心し、失禁してしまったことなどを知らない。現場にいた近衛騎士も当然固く口留めされていた。
命令を帯びた近衛騎士達は、ラルスが最も信頼する付き合いの長い人間で構成されていた。
だから命令がどれだけ非道なもので、後ろめたいものであっても彼らは従うつもりだったが、実際にこのような命令を受けたことは初めてであった。
「ショウ・ルーデルを始末せよ、か。まさかまさかの仕事だな」
今回の任務のリーダーを務める騎士が溜め息交じりに言った。
「一騎当千の怪物とはいえ、丸腰だろ?それなのに我々10人で行く必要があるのか?まぁ、特別手当を出してくれるというのだから、別に文句は言わないがね」
「万が一にも目撃者を出したり、逃亡されたりしないようにじゃないか?それなら人数が多いほうがいい」
「何にせよ、万全を期してショウ・ルーデルを始末しろということだな。ショウ・ルーデルもよほど殿下の恨みを買ったと見えるな」
騎士達は任務直前、ブリーティングルームで思い思いに語る。
「まぁ、正直なところ、俺は少しだけ乗り気だね。あのショウ・ルーデルは気に入らなかったんだ」
「えっ?君もか?私もそうだ。あまり表には出さないが、妻も娘もあの男に熱を上げているらしいのだ。あの辺境の田舎貴族などに!」
王都の伯爵家の騎士が言った。彼は辺境伯というものを見下していたが、自分の妻子がその見下していた次期辺境伯・・・ショウ・ルーデルのファンだと知り、心穏やかではない日々を送っていたのだ。
「田舎者が目立ち過ぎたということだな。殿下も思うところがあったのだろうさ。これまできっとずっと我慢してこられたのだろう」
「大層お強いらしいが、実際のところどうなのかね。武勇伝なんかもあるが、あの男の売り出すために尾ひれがついた話なんじゃないかね」
「そうに決まってる。確かにツラはいいかもしれないが、それだけさ。カッコつけやがって。今日は泣き喚いて命乞いするところまでさせてやろうぜ。無論、助けてはやらんがな」
騎士達はドッと笑った。
国外追放されておきながら、丸腰の状態で更に護衛についていたはずの自分達にリンチされながら死を迎えるショウ・ルーデルはどんな声で泣くのだろう。何を言って自分達に命乞いをするのだろう。
そんな想像をしながら、彼らはショウの護衛を務めた。
-----
「は、ははは・・・」
今回編成された暗殺隊のうち、最も若い男は思わず乾いた笑みを浮かべていた。
彼の目に映るのは、悪魔のような・・・いや、悪魔そのものにしか見えないショウの姿だった。
腕自慢の近衛騎士の剣術が、まるで彼には通じず、子供を相手をするかのように簡単にあしらわれ、10人いた騎士は残り3人にまで減っていた。この間、恐らく1分も経過していない。
無力を痛感させ、許しを乞わせるはずだった。泣かせるはずだった。
だが、今それをやっているのは自分達だ。
今自分の目の前にいる男は、全身に返り血を浴びながらも、まるで臆することなく殺戮する悪魔だ。
こんな悪魔に、魔物に勝てるはずがなかったのだ。
命乞いをした同僚が首をはねられた。残りの騎士は2人。
・・・いや、戦う意志を持っていない我々など、もはや騎士ですらない。
男は命乞いすら忘れ、ただ願っていた。
早く悪夢よ過ぎ去れと。
ショウ・ルーデルの護送任務に就き、追放先のブレリアの地にて始末せよと。
近衛騎士達は耳を疑った。
黒の騎士団の暴発を防ぐため、ショウは殺さずに国外追放とすると言ったラルスが、前言を撤回したからだ。
ブレリアの地ならランドール国の者の目が無いからなのだろうが、それにしたってリスクが無いわけではない。どうしてリスクを冒してまで前言を撤回するのか近衛騎士達は疑問に思ったが、珍しく鬼気迫る剣幕でまくし立てるラルスに気圧され、言うがままに任務に就くことになった。
近衛騎士達はショウの冤罪についてはある程度先に聞いてはいたが、現場にいたわけではなかった。だから、ショウの刀の寸止めによって放心し、失禁してしまったことなどを知らない。現場にいた近衛騎士も当然固く口留めされていた。
命令を帯びた近衛騎士達は、ラルスが最も信頼する付き合いの長い人間で構成されていた。
だから命令がどれだけ非道なもので、後ろめたいものであっても彼らは従うつもりだったが、実際にこのような命令を受けたことは初めてであった。
「ショウ・ルーデルを始末せよ、か。まさかまさかの仕事だな」
今回の任務のリーダーを務める騎士が溜め息交じりに言った。
「一騎当千の怪物とはいえ、丸腰だろ?それなのに我々10人で行く必要があるのか?まぁ、特別手当を出してくれるというのだから、別に文句は言わないがね」
「万が一にも目撃者を出したり、逃亡されたりしないようにじゃないか?それなら人数が多いほうがいい」
「何にせよ、万全を期してショウ・ルーデルを始末しろということだな。ショウ・ルーデルもよほど殿下の恨みを買ったと見えるな」
騎士達は任務直前、ブリーティングルームで思い思いに語る。
「まぁ、正直なところ、俺は少しだけ乗り気だね。あのショウ・ルーデルは気に入らなかったんだ」
「えっ?君もか?私もそうだ。あまり表には出さないが、妻も娘もあの男に熱を上げているらしいのだ。あの辺境の田舎貴族などに!」
王都の伯爵家の騎士が言った。彼は辺境伯というものを見下していたが、自分の妻子がその見下していた次期辺境伯・・・ショウ・ルーデルのファンだと知り、心穏やかではない日々を送っていたのだ。
「田舎者が目立ち過ぎたということだな。殿下も思うところがあったのだろうさ。これまできっとずっと我慢してこられたのだろう」
「大層お強いらしいが、実際のところどうなのかね。武勇伝なんかもあるが、あの男の売り出すために尾ひれがついた話なんじゃないかね」
「そうに決まってる。確かにツラはいいかもしれないが、それだけさ。カッコつけやがって。今日は泣き喚いて命乞いするところまでさせてやろうぜ。無論、助けてはやらんがな」
騎士達はドッと笑った。
国外追放されておきながら、丸腰の状態で更に護衛についていたはずの自分達にリンチされながら死を迎えるショウ・ルーデルはどんな声で泣くのだろう。何を言って自分達に命乞いをするのだろう。
そんな想像をしながら、彼らはショウの護衛を務めた。
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「は、ははは・・・」
今回編成された暗殺隊のうち、最も若い男は思わず乾いた笑みを浮かべていた。
彼の目に映るのは、悪魔のような・・・いや、悪魔そのものにしか見えないショウの姿だった。
腕自慢の近衛騎士の剣術が、まるで彼には通じず、子供を相手をするかのように簡単にあしらわれ、10人いた騎士は残り3人にまで減っていた。この間、恐らく1分も経過していない。
無力を痛感させ、許しを乞わせるはずだった。泣かせるはずだった。
だが、今それをやっているのは自分達だ。
今自分の目の前にいる男は、全身に返り血を浴びながらも、まるで臆することなく殺戮する悪魔だ。
こんな悪魔に、魔物に勝てるはずがなかったのだ。
命乞いをした同僚が首をはねられた。残りの騎士は2人。
・・・いや、戦う意志を持っていない我々など、もはや騎士ですらない。
男は命乞いすら忘れ、ただ願っていた。
早く悪夢よ過ぎ去れと。
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