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愛のサプライズ

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「ゆうべはお楽しみでしたね」


朝、目が覚めて最初に聞いた言葉は衛兵のこれだった。


「やかましい」


ちょっと気まずくて俺はそう言うが、まぁ今回警備に当たっていた者は全員勘づいているだろう。
ソーアの言葉通りなら全員買収済みということなので、俺との情事を含め全て外部に漏れるということはなさそうだ。何故なら買収されたことがバレると彼らとて命取りだからだ。


「馬車まで移動をお願いします」


数人で槍を突きつけながら、俺に移動を促す。ついに国外へ追放されるその時が来たようだ。
どうやら手枷などはつけないようだ。収監された経験は今回以外に無いからわからないが、これも貴族特権というものなのだろうか。


「快適な部屋からもおさらばか」


俺にとって初めての牢屋、そして初めての・・・いや、言うまい。とにかくいろいろな思い出の詰まった部屋だ・・・牢屋だが。
俺は抵抗することなく、促されるままに歩き出す。

いよいよか。いよいよこの国の大地を踏みしめるのも、これが最後になるかもしれないわけだ。
そう考えるとなんだか勿体ないような、切ないような、言いようのないもどかしい気持ちになった。
さようなら、ランドールの大地よ。


「あの・・・これは差し出がましいことなのかもしれませんが」


衛兵はおずおずと口を開く。


「マルセイユ様の・・・あの、の声が少々大きいです。今後場所によっては少し考えたほうが・・・」


・・・衛兵の忠告に俺は顔から火が出そうになるほど恥ずかしくなった。
普通に考えれば俺にこの忠告を生かす場面はもう二度とやってこないが。





-----





「それではお乗りください」


軽装の警備隊から、甲冑を着込んだ騎士達へと身柄を渡される。
どうやらこの騎士達に連れ添われながら、俺は国境まで運ばれるらしかった。
近衛騎士団・・・王都でも腕自慢の連中ではないか。俺一人運ぶのになんてことだ。


「おお、これは・・・」


乗り込めと言われた馬車を見ると、至るところに頑丈な鋼鉄が使われている護送用の馬車であった。ルーデル家の馬車も襲撃に備えてそれなりに頑丈なものになっているが、これも中々だ。
まぁこの馬車が頑丈なのは、外部からの襲撃から防ぐというよりも、中からの脱出を防ぐためなんだろうが。

馬車に乗り込んでみると、中は質素な作りだった。入った途端に一方的に扉を閉められ、施錠する音が聞こえた。
そして馬車が走りだす。このまま一日揺られて、着いたときには国外にいるなどと不思議な気分だ。


「さて・・・」


俺は本来座るべきソファに手を添え、座面を上に上げてみる。
あっさり動いた座面の下にあるもの・・・それは俺の得物のドウダヌキだった。


「ありがとうよ・・・」


ドウダヌキを握りしめながら、この場にはいないソーアに礼を言う。
昨晩、俺から没収したものの適当に保管されていたドウダヌキをソーアが極秘裏に回収。それから俺の護送する馬車を突き止め、キャビンに隠してくれたのだ。それを俺はソーアから聞いていた。
実に嬉しいサプライズだった。
知らぬ新しい土地でも、これさえあればどうにかなると思った。


「本当にでかい借りを作っちまったな」


つくづく俺にはもったいない良い女だと思った。
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