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花と女優の決裂

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キアラ・ルーベルトには幼い頃にはまだ母ブレアが存命していた。体が病弱で寝ていることの多かった母だったが、それでも常にキアラに優しく、共に本を読んだり一緒にいる時間を多く持つようにしていた。
だがキアラが7歳になるとき、ブレアはついに病に倒れる。
死の間際、ブレアはキアラに告げた。


「私はもうキアラと一緒にいてあげられませんが、これからはお父様があなたと一緒にいて守ってくださります。お父様の言うことをきちんと聞いて、いい子にするのですよ・・・」


それがキアラが聞いた母の最期の言葉だった。







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「私は父の命には背けないわ」


はっきりとキアラは言った。
母ブレアの遺言が彼女の頭を過り、迷いを吹き飛ばしていた。
母の遺言はキアラにとって絶対であったからだ。
父の言うことを聞けというのなら、なんであれ聞く。父は母の代わりに自分を守ってくれるから。
先ほどまでとは違い、キアラの瞳には迷いがないとソーアは感じた。


「ここでのことは無かったことにするから、もう帰りなさい」


キアラはそう告げると、目を閉じこれ以上は問答しないという態度を取る。


「そうか・・・」


壁に押さえつけていたキアラの腕の力が抜けた。
本当に理解したかはわからないが、とりあえず解放してくれるつもりになったようだとキアラは安堵の溜息をつき、再び目を開いてソーアを見ると、驚きでハッと息をのんだ。

キアラが驚いたのはソーアの自分を見る目だった。
無表情でありながら、心底相手を軽蔑するような冷たい目。
表情豊かで常に明るく振舞い、幼馴染達のムードメーカーだったソーアとは似ても似つかぬ豹変ぶり。


「ここでのことは無かったことにしなくてもいいし、私もするつもりはない」


底冷えするようなソーアの声に、キアラはビクッと体を震わせた。


「今日から私とお前は幼馴染でも何でもない。今このときをもって、私はお前と縁を切る。ラルス王太子と末永く幸せにな。結婚式には絶対呼ぶな。私を罰したくば好きにやるがいい!」


最後にまくしたてると、ソーアは踵を返した。


「ソーア!」


キアラの呼びかけに、ソーアは全く反応を示さない。


バァァァン!


冷静に淡々と言っているようで怒り心頭なのか、ソーアはそう言うとキアラの部屋の扉を乱暴に開けて出て行った。頭が沸騰していて不法侵入してきたのをすっかり忘れてしまっていたのだ。


「アイエエエエ!?」

「マルセイユ嬢!?マルセイユ嬢ナンデ!?」


当然、屋敷にいた使用人や護衛は混乱に陥った。だがソーアがあまりに堂々としていたのでついつい普通に送り出してしまう。
乱暴に開け放たれた扉のあるキアラの部屋の入り口で、彼女は呆然と立ち尽くした。
ソーアとキアラの互いの矜持がぶつかりあった結果、長年の友情が崩壊した。

このことが後の彼女たちの関係はもちろん、ランドール国の将来そのものに影響を及ぼすとは誰も理解するはずもなかった。
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