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言われるとヤる気にはならない

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「冤罪」より3日前。




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「え、ソーアの到着が遅れるのか・・・」


伝書鳩で届いた手紙を読むと、そこには御前会議に合わせて前日に上京しに来るはずのソーアが所用で遅れてしまうということが書いてあった。
御前会議に出席する俺とアーヴィガが上京するのに合わせ、ソーアも来てまた幼馴染で茶会をするというのがいつものパターンなのだが、今回はソーアが御前会議の前日に来るのは間に合わないらしく、到着は御前会議当日になってしまうという。
まぁ俺もアーヴィガも御前会議が終わっても二日ほどは王都に滞在するのでいいのだが、むしろ船乗りのソーアがうまく俺達に都合を合わせられただけでもありがたい。

そんなことを考えていると、今度はハルトマン家から早馬がやってきた。
アーヴィガからの親書を携えてきたと言う。急ぎなら鳩を使えばいいのに思ったが

「万が一にも漏れるわけにはいかないからです」

と言われ、使者より直接親書を手渡された。


「なんだって・・・?」


中身を読んで思わず声を洩らしてしまう。

先日、グラーデ地方では至る所で同時多発的に『活動家』による暴動が発生したのだという。
一つ一つの暴動の規模は小さく時間をかけずにほぼ全領地で鎮圧したものの、今だ予断を許さないので御前会議に間に合うギリギリまで現地で指揮を執ることにしたらしい。
暴動の鎮圧は初動が肝心と聞く。時間をかけて暴動に参加する人間が増えてしまうと、沈静化までにかなりの時間とコストを要してしまうからだ。
グラーデは前から活動家が動きを見せていると言っていたし、アーヴィガの性格からして今回は暴動の参加者を一人残すことなく罰するために徹底的に殲滅作戦を実行するだろう。冷酷なようだが、不穏分子を残さず刈り取るのも領地を守る者として必要なことだ。

活動家が暴動を起こしたことはこの親書を読むまでは知らなかった。どうやら噂が広まる前に極力漏れないよう速やかに対応をしたようだ。呼応して他でも活動家が暴れ出したら国中で大騒ぎになるので、アーヴィガはかなり良くやってくれたと思う。


「そうか・・・アーヴィガも御前会議当日に到着か・・・」


前日から幼馴染達と語り合いが出来るかなと思ったが、今回はそうもいかないようだ。彼らは俺のようにドーラのような飛行による移動手段を持たない。すぐには王都には来られないのだ。

しかしそうなると仕方ないな。とりあえず前日はキアラとお茶でも・・・

ん・・・?キアラと・・・


「キアラと二人きり!?」


そのことに気付き、思わず声に出してしまった。


そうか・・・二人きりか・・・

御前会議を終えて数日の滞在を終え、ここに戻ってくる前にキアラと二人で会う予定だった。
だが、どうやら前倒しで二人きりになることになりそうだ。

そうなると・・・


『この不安な気持ちを抑えられるのなら、私はすぐにでもショウと結ばれてもいいと思っています』


以前キアラの言ったことが俺の頭の中でリフレインする。

あの日以来、何をやってもずっと俺の頭の片隅にあのときのことが残っていた。
あれがどういう意味なのか、なんて野暮なことを言うつもりはない。問題は俺がどうするかだ。


「はぁ・・・」

溜め息をつく。
ここ数か月で多発したトラブルのときにしていたような溜め息とは違う。心を落ち着けるための溜め息。これは・・・恋愛小説やらなにやらで読んだ「恋の溜め息」とかいうやつか?


「若・・・またですか」


いつの間にか執務室に入ってきていたオミトがあきれ顔で言った。


「・・・いきなり入ってくるなよ」

嫌なところ見られてしまった。
・・・なんて、稽古に身が入らない様とか、結構指摘されているから今さらだが。


「はぁ~、ノックなら何回もしましたよ。全く最近の若ときたら本当に・・・」


芝居じみたように目頭を押さえ、やれやれとオミトが溜め息交じりにそう言った。
何も言い返せない。致命的なミスこそしていないが、こうして惚けていてオミトを呆れさせることがここ最近何度かあった。
見かねたオミトが俺にどうしたのかと聞いてきて、迷惑をかけた手前言わないわけに言わず、オミトにだけ俺はこっそりと事情を話していた。まぁ悩みの革新的な部分を独り言で漏らしてしまっていたみたいなので、大体は内容はわかっていたみたいだが。


「そんなに悩むならさっさとヤることヤってしまえばいいのです」


オミトは流石我が辺境騎士団と長年接しているだけあって、言うことも似通っていた。


「けどなぁ、いくら同意の上とはいえ、義父となるルーベルト公の言いつけに逆らうことをして、もし発覚してしまったらキアラに迷惑はかからないか?」


「そのときはそのときでしょう。キアラ嬢の成人は二年後。そのときまで待つんですか?待たせるんですか?悩むんですか?」


畳みかけるように言ってくるオミト。
悩んでいる俺が馬鹿なのか・・・?


「どうせそこまで我慢できずに事に及びますよ。だったらさっさと済ませてしまいなさい」


「その言い分はどうなんだ・・・?」


「いいえ!そろそろ頃合いよ!」


バァンと執務室の扉を開き、エーペレスさんが割り込んできた。
執務室は一応声が漏れない構造になっているのだが、どうやって聞いていたのだろうか。


「・・・何がですか?」


「ショウもそろそろ大人として一皮むけたほうがいいと思うの。キアラ嬢と婚約しているのは周知の事実だし、黒の騎士団で17にもなって童貞臭いのはちょっとイメージ的に軟弱だと思うの」


なんてことを言うんだ。
イメージ作りとして恋人と事を成せというのはあんまりだが、エーペレスさんなら言ってきてもおかしくはないな。というか女性のエーペレスさんにこの悩み知られてしまうの恥ずかしすぎるんだが。


「はぁ・・・まぁ、考えます」


悩んでいてもこうして横からあれこれ言われてしまうと、何だか逆にその気にならなくなってしまう。
きっと次にキアラと会うときも何も無いのだろうなと予感めいたものがあった。どうせ俺はこの手に関しては兄上と違いヘタレなのだ。

というか・・・

「良く考えたら御前会議前日夜は王城に寝泊まりじゃねぇか。流石にあそこでどうにかなるほど俺はアホじゃねぇぞ」


御前会議の出席者は前日から資料の準備から何やらで王城に前泊するのが一般的であった。王城でもわざわざスペースが用意されている。俺も翌日早起きしてルーデル別邸から王城に出向くのも面倒だし、別邸にいる兄上と顔を会わせるのも微妙だしで、王城に前泊することに決めて先触れもそのように出していた。

キアラと会ってお茶をして話をして場を温めて・・・って、やってからだと夕方になるだろうし、王城に入る時間を考えるとそんな・・・変なことをする時間はなさそうだ。よく考えたらそうだ。


「王城の部屋ですればいいじゃないですか。誰も来ないんでしょ」


御前会議のための前泊でも、忙しい辺境伯は執務を持ち寄って王城で与えられた部屋でこなすこともある。故に領地の資料などが他人の目に触れないようにするための配慮として、与えられたスペースはその客人が認めた人間以外を排除できる権限が与えられる。


「そういう問題じゃないでしょうが!・・・もういい」


あれこれ変な話になったので俺は話題を打ち切った。
モヤモヤは残ったが、実際にどういうしたくても当日はとてもそのような環境ではないし、変なことにはならないだろう。











そんな風に考えていた時期が俺にもありました。
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