国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ

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閑話 兄より優れた弟などいない

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リュート・ルーデルはルーデル家の長男として生まれた。

当初は嫡男として父トウシは考えていたが、元より活発ではない母エリナに似たのと、彼女の溺愛もあり、すっかり武とはかけ離れたような穏やかでやや臆病な性格に育ったため、到底騎士団を引っ張れるような男子には育たぬと判断したトウシは、彼を嫡男とすることを諦める。



「あなたにはルーデルの当主は似合わないわ。大丈夫。私がもっと貴方に相応しい道を用意するわ」


エリナは、そんなリュートにそう優しく語りかけた。

リュートは武人としての素質はなかったが、勉学は優秀で、母譲りの綺麗な顔立ちを持ち女性からは人気があり、また社交性も高いので将来はそこそこの政治力を持つのではと期待された。エリナはそんなリュートを自分の生き写しのようだと嬉しそうに褒め称え、自分の誇りだと言い聞かせていた。

家督はリュートと似ても似つかぬ弟、ショウが継ぐことになったが、リュートは特にそこまでコンプレックスを感じたことはなかった。
自分は武人として辺境騎士団を指揮したいとは思わないし、家督に未練はなかったのだ。

エリナが精を出したためかルフト公爵家との縁談も決まり、将来婿入りすることで公爵家の人間として成功者の側に立つ予定だったというのもあった。辺境伯の椅子に座るよりも、王都の公爵家の一員でいることの方こそ栄誉があると考えていたのであった。


リュートは婚約者にいる身であったが、隠れて他の令嬢と肌を合わせることがあった。その美しい容姿と話術から、言い寄る令嬢は多かったからだ。
いけないと思いつつも、彼はやめることはしなかった。不貞とはいえ多数の女性と関係を持つことが、婚約者に操を立てている童貞のショウに対し、男として優位に立っている証拠なのだと錯覚してしまっていたからだ。
細心の注意を払い、婚約者にバレないように彼は不貞を続けた。




・・・だが、結局その火遊びは婚約者に発覚してしまい、リュートはルフト公爵家から婚約破棄を突きつけられてしまう。
リュートは焦りに焦った。すぐに何とかせねばと時期当主として謹慎を命じてくる弟ショウの言葉を無視し、どうにかならないかとルフト公爵家に単身乗り込んで誠心誠意謝った。

だが、許してはもらえなかった。公爵に散々人格を否定される発言を受けるうちに、すっかり自己否定の念に囚われてしまったリュートは、勢いで賠償金もろもろについての取り決めについて全て相手の言い分を飲む形で証文にサインしてしまう。

これについて散々ショウに叱られたことで、彼のプライドはズタズタに崩壊する。
完膚なきまでに、自分は弟より下の立場であるという事実を突きつけられたからだ。
公爵家の一員になることで家督を継いだ弟より上になれるという未来が、自分の愚行のお陰で台無しになっただけなのだが、リュートはショウを激しく逆恨みすることになった。

リュートはそのとき初めてショウに実はコンプレックスを抱き続けていたことを自覚した。

自分と違い、暴力を恐れずに立ち向かい、恐ろしく見える騎士団の連中と溶け込み、非凡なる武人としての才能を見せ、次期当主としてトウシに認められた弟。
大して自分はどうだ?勉学が優秀なのは武から逃げた結果でしかないし、ルーデル家に味方らしい味方など母しかいない。友人は多いつもりだったが、婚約破棄の一件を受けてあっさり疎遠になった。
所詮浅い付き合いでしかなかったのだと知ったときの落胆による悔しさは心が壊しそうになった。

当然、新しい縁談など到底結べるような状況ではない。これまで言い寄ってきた令嬢には冷たい視線をぶつけられるようになった。
どうも格下の子爵家ですら話を聞いてもらえない有様であるようだ。不貞による婚約破棄なのだから仕方ないとそこは納得をした。だが


「弟のショウ様は本当に素晴らしい方なのに」


と、ショウと比較されることには怒りで気が狂いそうになった。

ショウは今、リュートと正反対の道を歩んでいる。
派手なプロパガンダによって国の英雄扱され、誰もがショウを賛美する。それらの声の全てがリュートの心を抉っていた。

ショウには深い絆で結ばれている仲間がいる。幼馴染がいる。美しい婚約者がいる。名声がある。信頼がある。力がある。

自分には何もない。
何も手に入れられる気がしない。
どうしてショウばかり。どうして自分には何もない。

身勝手にも絶望に沈むリュートに、一つの希望の手が差し伸べられた。





「それほどいろいろ持つ弟が憎いのなら、奪ってしまえばいいのです」

悪魔の優しいその囁きに、リュートは考えることも無く応じ、その手を握った。

もしそれが全て仕組まれていたものだったとリュートが知っていたとしても、彼はその手を取っただろう。
リュートの心は、ショウへの深い憎しみで満たされていた。それが晴らせるのならば、もう何でも良かったのだ。





「兄の僕より優れた弟などいてたまるか・・・!」
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