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フラグその8 白と黒
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「冤罪」から2年前。
新装・黒の騎士団のデビューはランドール王国中に大きな衝撃を与えた。
まず新聞各社が一斉に伝説の竜騎士の再来と、ショウの写真付きで報じた。写真は一枚撮るだけでも非常に高価なものなので、新聞に掲載するのは一度に一枚が限度であるが、各紙どれもドラゴンを繰ったショウの写真を一面に掲載したのだ。
建国祭当日は他国の記者も来ていたものの、写真撮影は禁止されていたために文書のみではあったがショウと黒の騎士団のことが一面に扱われていた。
こうして一瞬にして生まれ変わったルーデルが知れ渡ったのである。
-----
「ブワァーッ ワァーハッハハハッ」
俺の目の前でいつものキャラにそぐわぬ馬鹿笑いをしているのは、久しぶりに再会した幼馴染アーヴィガ・ハルトマン。
こいつが腹を抱えて笑っている理由はエーペレスさんが用意した黒のスーツに身を包んでいる俺の恰好のせいだ。
「あんまり笑うんじゃねぇよ・・・」
こうなると分かっていたから本当はこの恰好を見せたくはなかった。
だが、エーペレスさんが「人前ではこれからずっとその服装でいてもらうことになる」などと言って着替えることを許してくれなかったのだ。
「いや、似合っているぞショウ」
笑わずにそう言ってくれるのはこれまた久しぶりに会う幼馴染のソーア・マルセイユ。
からかっているのか素でそう思うのかどっちの意味だろう?と他の人間が言ったなら勘ぐる言葉だが、いつもストレートなソーアがこう言うなら、彼女から見てアリなのだろう。複雑な気分だ。
どこか顔が赤く見えるような気がするのは、笑いをこらえているとかそういうのじゃないよな?・・・よな?
「悪くないと思うわ」
最後にそう言うのは俺の婚約者キアラ・ルーベルト。
いつもの通りクールで済ました顔だが、彼女もまたストレートに言うタイプなので多分本人でそう思ってくれているのだろう。だが
「劇団の俳優みたいだわ」
という言葉には穴があったら入りたい気分になった。
やはりああいう類の恰好に見えるのね。派手なのねと。もちろんキアラが嫌味で言ったわけではないのはわかっている。
キアラの趣味は舞台劇の鑑賞だ。いつも間近に見ている俳優の着ているそれと、俺の着させられているこの服の派手なデザインがかぶって見えるだけのことなのだろう。
「いや、済まなかった。別に似合ってないなんて言うつもりはないんだ。ただ、こういう派手な恰好をショウがする日が来るなんて思わなくてね」
笑いで目に浮かんだ涙を指で拭いながらアーヴィガは言った。なおも笑いをこらえているようだった。
確かに俺はこれまで普段からあまり派手な服を好まず、立場的に参加せざるを得ない夜会ですら極力地味な服装をするようにしていた。
それがどうだろう。そんな俺が建国祭である今日になって突然騎士団もろとも目立つ格好をしたと思えば、過剰な演出で注目を独り占めにする立ち振る舞い。
幼馴染としてずっと俺のことを知っていた彼らからしてみれば、随分と似合わないことをしていると思うのは無理もない。
「俺だって本当はやりたくなかったんだ。だけどエーペレスさんがやれって・・・」
視線を地面に落として俺は言う。思い出すだけで顔から火が出そうだ。まぁ今も恥ずかしいんだが。
「いや、しかし中々インパクトがあったよ。これまであったルーデルの印象は大きく変わったかもしれないね」
アーヴィガの言葉に「それはそうだろう」と思う。あそこまでやって効果が無かったら泣いても泣ききれない。
軍事パレードの際、パレードには参加していなかったが、アーヴィガ達も会場にいた。エーペレスさんにきつく言われていたので彼らにも事前に伝えていなかったのだが、今日のことにはすっかり度肝を抜かれたという。
少々(?)のイレギュラーがありながらも軍事パレードは終わり、パーティーも終えてから俺は少し宮廷に叱責されて・・・そして、ようやく解放されて今王都のハルトマン邸で皆で集まっている。
「パーティーではどうだった?」
ランドールの社交界は一般的には15歳がデビューのタイミングである。嫡子でもなく、まだ14という年齢だったためにパーティーに参加してなかったソーアは、パーティーでの様子を聞いてくる。
「もちろん、注目の的だったよ。ひっきりなしに話かけられていたし」
俺と同じくパーティーに出ていたアーヴィガは、ソーアにそう言う。
「とにかく疲れたよ。結局パーティーで何も食う時間がなかったしなぁ」
次から次へと話しかけてくる人たちの相手に精いっぱいで、テーブルに並べられている料理に全く手をつけることができなかった。
「これからはこういうことも多くなるだろうから、パーティーで何も食えないのは常だと覚悟しろって、エーペレスさんに言われてまいってる」
「実際そうなるだろうね。にしても、皆も露骨なものだ。前まではショウがパーティーに出たって遠巻きに見ることはあっても話しかけることなんてなかったのに」
アーヴィガの言葉に「確かにな」と思う。これまではやはり戦ばかりの田舎貴族ってことで、野蛮人とか未開の民だとかヒソヒソ言われていたし、そんな人間を見る目で見られることが多かった。
俺はそれを気にもしなかったし、最低限の礼儀さえ弁えていれば良かったから楽で良かった。好きにパーティーで出されたおいしい料理を食べることができたし。
しかし今後はそれもできないだろう。最低限の礼儀だけでなく、いろいろ立ち振る舞いも気にしなければならないだろうし、エーペレスさんもその辺は叩き込むと言っていた。
そして服装はこれだし、これからもっと注目を集めていくようにしていくと言っていたし、今までは覚える必要のなかった人の顔も覚えなければならないことも・・・
ん?あれ?俺、もしかして心労で倒れることになるのでは?
「それにしてもこれからルーデルのイメージを大きく変えるためにいろいろとやることになるんだろう?そうなると今後はこうして集まるのが更に難しくなるかもしれないな」
少し残念そうにソーアが言った。確かにエーペレスさんが言うには、これからいろいろと俺はやる事覚えることが増えて自由に使える時間が減るのだという。
「いや、王都にこうして集まるだけなら、そこまで機会が減るわけじゃないかもしれない」
今回のことで唯一、俺が良かったと思えること。それは、ドラゴン・・・ドーラに乗って王都に来ることが出来るようになったことだ。
これまでは隠さねばならないことだと思うこともあって王都にドーラで乗り付けるなんて考えてもいなかったことだが、これからはそれが出来るようになっている。
軍事パレードでの演出については叱責はあったものの、「現存する世界唯一の竜騎士」だとか「竜騎士の再来」だとか各国に騒がれて国威を十二分に示すことが出来たせいか、具体的な罰則については免除された。
そして混乱を招かないために先触れさえ出しておけば、これからはドーラに乗って王都に来ても良いのだと言う。これによってこれまではルーデル家から王都まで馬車で一週間かかった道のりを、半日かけないで辿る着くことができるようになる。
目立つのは恥ずかしいが、エーペレスさんはむしろドーラのお披露目を定期的にやれというし、どうせなら王都に来やすくなったというメリットを堪能しようと思う。
これからは王都に住むキアラに会える機会は増えるはずだ。
「まぁ、これからいろいろちっとばかり派手になるかもしれないけどよ、どうか変わらぬ付き合いを頼むわ」
少しおどけて俺がそう言うと、皆は頷いてくれた。
例えこれから周囲がいろいろと変わっても、この幼馴染達との関係は変わらぬままでいたい。
-----
ちなみに、散々俺のことを笑ったアーヴィガはなんと数か月後に俺達の真似をしてみせた。
ハルトマン辺境伯の治める北方グラーデ地方は、一年中雪で覆われたところのある極寒の地だ。雪山や雪原で魔物と戦うことの多いハルトマンの辺境騎士団は別名「白の騎士団」と呼ばれていたりしたのだが、そこから取って白をシンボルカラーとして俺達の真似をしたのだ。
散々笑ったくせに!(怒)
曰く「面白そうだから乗ってみた」とのことだ。
ルーデルの黒の騎士団、ハルトマンの白の騎士団、元よりランドールの二大辺境騎士団と呼ばれていただけあって、このコラボ?は後々大きな反響を生むことになる。
新装・黒の騎士団のデビューはランドール王国中に大きな衝撃を与えた。
まず新聞各社が一斉に伝説の竜騎士の再来と、ショウの写真付きで報じた。写真は一枚撮るだけでも非常に高価なものなので、新聞に掲載するのは一度に一枚が限度であるが、各紙どれもドラゴンを繰ったショウの写真を一面に掲載したのだ。
建国祭当日は他国の記者も来ていたものの、写真撮影は禁止されていたために文書のみではあったがショウと黒の騎士団のことが一面に扱われていた。
こうして一瞬にして生まれ変わったルーデルが知れ渡ったのである。
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「ブワァーッ ワァーハッハハハッ」
俺の目の前でいつものキャラにそぐわぬ馬鹿笑いをしているのは、久しぶりに再会した幼馴染アーヴィガ・ハルトマン。
こいつが腹を抱えて笑っている理由はエーペレスさんが用意した黒のスーツに身を包んでいる俺の恰好のせいだ。
「あんまり笑うんじゃねぇよ・・・」
こうなると分かっていたから本当はこの恰好を見せたくはなかった。
だが、エーペレスさんが「人前ではこれからずっとその服装でいてもらうことになる」などと言って着替えることを許してくれなかったのだ。
「いや、似合っているぞショウ」
笑わずにそう言ってくれるのはこれまた久しぶりに会う幼馴染のソーア・マルセイユ。
からかっているのか素でそう思うのかどっちの意味だろう?と他の人間が言ったなら勘ぐる言葉だが、いつもストレートなソーアがこう言うなら、彼女から見てアリなのだろう。複雑な気分だ。
どこか顔が赤く見えるような気がするのは、笑いをこらえているとかそういうのじゃないよな?・・・よな?
「悪くないと思うわ」
最後にそう言うのは俺の婚約者キアラ・ルーベルト。
いつもの通りクールで済ました顔だが、彼女もまたストレートに言うタイプなので多分本人でそう思ってくれているのだろう。だが
「劇団の俳優みたいだわ」
という言葉には穴があったら入りたい気分になった。
やはりああいう類の恰好に見えるのね。派手なのねと。もちろんキアラが嫌味で言ったわけではないのはわかっている。
キアラの趣味は舞台劇の鑑賞だ。いつも間近に見ている俳優の着ているそれと、俺の着させられているこの服の派手なデザインがかぶって見えるだけのことなのだろう。
「いや、済まなかった。別に似合ってないなんて言うつもりはないんだ。ただ、こういう派手な恰好をショウがする日が来るなんて思わなくてね」
笑いで目に浮かんだ涙を指で拭いながらアーヴィガは言った。なおも笑いをこらえているようだった。
確かに俺はこれまで普段からあまり派手な服を好まず、立場的に参加せざるを得ない夜会ですら極力地味な服装をするようにしていた。
それがどうだろう。そんな俺が建国祭である今日になって突然騎士団もろとも目立つ格好をしたと思えば、過剰な演出で注目を独り占めにする立ち振る舞い。
幼馴染としてずっと俺のことを知っていた彼らからしてみれば、随分と似合わないことをしていると思うのは無理もない。
「俺だって本当はやりたくなかったんだ。だけどエーペレスさんがやれって・・・」
視線を地面に落として俺は言う。思い出すだけで顔から火が出そうだ。まぁ今も恥ずかしいんだが。
「いや、しかし中々インパクトがあったよ。これまであったルーデルの印象は大きく変わったかもしれないね」
アーヴィガの言葉に「それはそうだろう」と思う。あそこまでやって効果が無かったら泣いても泣ききれない。
軍事パレードの際、パレードには参加していなかったが、アーヴィガ達も会場にいた。エーペレスさんにきつく言われていたので彼らにも事前に伝えていなかったのだが、今日のことにはすっかり度肝を抜かれたという。
少々(?)のイレギュラーがありながらも軍事パレードは終わり、パーティーも終えてから俺は少し宮廷に叱責されて・・・そして、ようやく解放されて今王都のハルトマン邸で皆で集まっている。
「パーティーではどうだった?」
ランドールの社交界は一般的には15歳がデビューのタイミングである。嫡子でもなく、まだ14という年齢だったためにパーティーに参加してなかったソーアは、パーティーでの様子を聞いてくる。
「もちろん、注目の的だったよ。ひっきりなしに話かけられていたし」
俺と同じくパーティーに出ていたアーヴィガは、ソーアにそう言う。
「とにかく疲れたよ。結局パーティーで何も食う時間がなかったしなぁ」
次から次へと話しかけてくる人たちの相手に精いっぱいで、テーブルに並べられている料理に全く手をつけることができなかった。
「これからはこういうことも多くなるだろうから、パーティーで何も食えないのは常だと覚悟しろって、エーペレスさんに言われてまいってる」
「実際そうなるだろうね。にしても、皆も露骨なものだ。前まではショウがパーティーに出たって遠巻きに見ることはあっても話しかけることなんてなかったのに」
アーヴィガの言葉に「確かにな」と思う。これまではやはり戦ばかりの田舎貴族ってことで、野蛮人とか未開の民だとかヒソヒソ言われていたし、そんな人間を見る目で見られることが多かった。
俺はそれを気にもしなかったし、最低限の礼儀さえ弁えていれば良かったから楽で良かった。好きにパーティーで出されたおいしい料理を食べることができたし。
しかし今後はそれもできないだろう。最低限の礼儀だけでなく、いろいろ立ち振る舞いも気にしなければならないだろうし、エーペレスさんもその辺は叩き込むと言っていた。
そして服装はこれだし、これからもっと注目を集めていくようにしていくと言っていたし、今までは覚える必要のなかった人の顔も覚えなければならないことも・・・
ん?あれ?俺、もしかして心労で倒れることになるのでは?
「それにしてもこれからルーデルのイメージを大きく変えるためにいろいろとやることになるんだろう?そうなると今後はこうして集まるのが更に難しくなるかもしれないな」
少し残念そうにソーアが言った。確かにエーペレスさんが言うには、これからいろいろと俺はやる事覚えることが増えて自由に使える時間が減るのだという。
「いや、王都にこうして集まるだけなら、そこまで機会が減るわけじゃないかもしれない」
今回のことで唯一、俺が良かったと思えること。それは、ドラゴン・・・ドーラに乗って王都に来ることが出来るようになったことだ。
これまでは隠さねばならないことだと思うこともあって王都にドーラで乗り付けるなんて考えてもいなかったことだが、これからはそれが出来るようになっている。
軍事パレードでの演出については叱責はあったものの、「現存する世界唯一の竜騎士」だとか「竜騎士の再来」だとか各国に騒がれて国威を十二分に示すことが出来たせいか、具体的な罰則については免除された。
そして混乱を招かないために先触れさえ出しておけば、これからはドーラに乗って王都に来ても良いのだと言う。これによってこれまではルーデル家から王都まで馬車で一週間かかった道のりを、半日かけないで辿る着くことができるようになる。
目立つのは恥ずかしいが、エーペレスさんはむしろドーラのお披露目を定期的にやれというし、どうせなら王都に来やすくなったというメリットを堪能しようと思う。
これからは王都に住むキアラに会える機会は増えるはずだ。
「まぁ、これからいろいろちっとばかり派手になるかもしれないけどよ、どうか変わらぬ付き合いを頼むわ」
少しおどけて俺がそう言うと、皆は頷いてくれた。
例えこれから周囲がいろいろと変わっても、この幼馴染達との関係は変わらぬままでいたい。
-----
ちなみに、散々俺のことを笑ったアーヴィガはなんと数か月後に俺達の真似をしてみせた。
ハルトマン辺境伯の治める北方グラーデ地方は、一年中雪で覆われたところのある極寒の地だ。雪山や雪原で魔物と戦うことの多いハルトマンの辺境騎士団は別名「白の騎士団」と呼ばれていたりしたのだが、そこから取って白をシンボルカラーとして俺達の真似をしたのだ。
散々笑ったくせに!(怒)
曰く「面白そうだから乗ってみた」とのことだ。
ルーデルの黒の騎士団、ハルトマンの白の騎士団、元よりランドールの二大辺境騎士団と呼ばれていただけあって、このコラボ?は後々大きな反響を生むことになる。
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