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フラグその3 陰謀論と兄の失態
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「焼死体とは・・・随分穏やかじゃねぇな・・・」
若き令嬢が焼死体になるなどと、聞いてて気分のいい話じゃない。
「これだけで驚いてもらっては困る」
顔を顰める俺とは裏腹に、アーヴィガはおどけた顔で言った。
「僕の影が情報を強引に聞き出した相手が、ここ数日に一人ずつだが姿を消している」
「・・・なんだって?」
令嬢の焼死体のことをはじめに聞いて、これ以上驚くことなんてもう無いだろうと思っていたが、まだまだ驚かされることがあった。
「連れ込み宿の受付がまず最初に行方不明になった。その次は宿の近くある露店の店主。その次は・・・とまぁ、リュートさんの不貞の日にあの近くにいた、僕たちが情報収集をした人たちが一人ずつ姿を消しているんだ。いずれも箝口令を敷かれていた人たちだった。どこへ行ったのか調べてみたけど、自宅にもどこにもいない」
「口封じ・・・か?」
俺の問いにアーヴィガは穏やかな表情を浮かべたまま
「さぁてね。それは今の段階ではわからない。ただ、もしこれが誰かの陰謀だったとして・・・」
と述べて、ここからいささか表情を締めて続けた。
「一人の男を不貞させるために大がかりな仕掛けを施したり、僕の影の動きを察知して処理をしたり、それだけの大仕事をこなすことができる奴がいるってことさ」
随分とキナ臭い話なってきやがった。
もしそんな奴がいるとしたら、それは高貴族・・・もしくはそれ以上の力を持った奴・・・
「はぁ・・・とりあえずこれは一旦保留だな」
俺は今は考えることをやめた。
ルフト公爵家での不自然なまでにサバサバした態度、リュートの不貞相手の死亡、目撃者への箝口令そして行方不明。
いろいろと繋がりがある可能性があるが、今はまだそれを裏付ける証拠がない。何しろ不貞相手がもうこの世にいないのだ。ホルム子爵に話を聞いてもいいが、俺の質問に答えてくれるかわからない。
しばらく情報を探るしかあるまい。
「ショウ」
厳しい表情をしたアーヴィガに名を呼ばれる。
「うまく言えないけど、今僕たちの周りに得体のしれない何かが迫っている、そんな感じがする」
「・・・アーヴィガにもか?」
俺は自分でいうのも何だが、同国貴族でも敵国兵でも魔物でも敵は多い。俺は今更だ。、
「最近、僕の領地でも活動家の動きがあってね。領土全域にここ最近少しずつ増えている」
活動家・・・打倒貴族、格差社会の破壊を唱える過激な連中のことをこう呼んでいる。
長く戦乱の続くルード地方では姿を現さないが、他の領地・・・特に領民が貧しい暮らしをしているところにたびたび現れ、時に暴動を煽動することがあるそうだ。行き過ぎた搾取をした悪政を布いた貴族が時たまそれに巻き込まれて首を取られるということも聞いたことがある。
「アーヴォガのところにも活動家が出てきたのか?」
信じられなくて思わず聞いてしまった。
アーヴィガは先代から引き続き善政を布いているはずだ。
「最初は僕の力不足かと思ったのだけどね。しかし、どうやらどこかしらが大々的に糸を引いている感じがする」
まだ尻尾は掴めていないが、アーヴィガはそうあたりをつけているのだろう。
東方のルーデル、北方のハルトマンはこの国で三大勢力とされる内二つの辺境伯家だ。その2つの辺境泊家に不審な出来事が立て続けに起きている。
それは単なる偶然かもしれないが、俺はオミトから常々言われていた言葉を思い出した。
辺境泊家はランドールにとって大きな影響を持っている、それは常に外にも内にも敵がいるということであるということを自覚しろと。外敵が国を攻めようと取り崩すとき、真っ先に攻撃を受けるのが辺境泊であると。
「特に世代交代の前後は一番無防備な時と言えるでしょう。何か仕掛けられるとしたら今がタイミングです。どうか常々ご用心下さい」
オミトは最近これを本当に良く口にしていた。
まさに来年家督を継ぐ今の俺が該当するからだ。これは継いだばかりのアーヴィガにも当てはまる。
実際に先代…俺の親父のときにもいろいろあったらしい。
いま2つの辺境泊家は奇しくも同時に世代交代……無防備な状態にあり、オミトの言葉通りならまさに今こそ危ない時期であるということだ。
実際にリュートは不貞(自業自得であるが)を起こした責任を背負い、ルーデル家は高額の出費を受けてダメージを受けることになった上、本来繋がることができたはずのルフト公爵家とは気まずいことになってしまった。
財政的にも社会的にもこれは少なくないダメージだ。
これはもしかすると意図して攻撃された結果なのか。
「用心するんだ。ショウ」
そういうアーヴィガの表情は真剣だ。
不貞が陰謀によるものなら、ルーデル家は既に攻撃を受けているし、これで終わるかもまだわからない。ハルトマン家も活動家の懸念がある。
俺たちはもしかしたら、既に知らないうちに戦いの場に踏み込んでしまっているのかもしれない。
「お取り込み中のところ失礼します」
ここでハルトマン家の執事が頭を話しながら頭を垂れた。
「ソーア・マルセイユ様がお見えになりました」
「あぁ、来たか。通してくれ」
先ほどまでと違い、ややアーヴィガの声が弾んだ。
ソーア・マルセイユは南方の領地を治める辺境泊家の娘で、俺とアーヴィガの幼馴染だ。
彼女が来たという話を聞いて、俺達にあった重苦しい空気が軽くなったのを感じる。
「久しぶりだな!」
大きく元気な声が轟いた。その声に俺もアーヴィガも笑顔になる。
赤いショートヘアーの美少女が弾けるような笑顔でやってくる。ソーア・マルセイユ……俺より一つ年下の、俺とアーヴィガ、そして俺の婚約者であるキアラとは幼少からの付き合いだ。
東方の俺、北方のアーヴィガ、南方のソーア、そして中央のキアラと、俺たちはそれぞれバラバラに住みながらも出会ってからずっと親交を深めてきた。
「よう久しぶりだな。今回は半年ぶりか?」
「半年と半月だな。しばらく海にいたからな」
マルセイユ辺境泊家は南方ラウバル地方を治めているが、領地の大半は海に接しており、点在する島も全て治めているからか海の辺境泊と呼ばれることもある。
その領地の海の治安を守るのがマルセイユ辺境泊率いる「青の騎士団」こと海軍なのだが、ソーアはその青の騎士団で「戦女神」(ヴァルキリー)と呼ばれる女性のみで構成された部隊を率いている。
海軍は一度海に出ると中々すぐには陸に戻らないが、ソーア率いる戦女神も同じであった。ひと月ふた月は戻らないのは当たり前である。今回は少し遠方というのと、討伐対象の海賊が大規模なものであったということで、いつもより長めに海に出ていたようだ。
先日、海賊討伐に出ていたソーアから陸に戻ると先触れが届き、久しぶりに王都で皆で会わないかという話になった。そして今このようにハルトマン家に集合している。
久しぶりに会ったソーアは何だか本当に溌剌としている感じがする。よほど海にいたときの鬱憤でも溜まっていたのか、俺達に会えたのが久々で嬉しいのか。
「二人は元気そうだな。何も変わりないか?」
ソーアの質問に俺もアーヴィガも頷いた。
彼女は俺と同じく騎士と一緒にいた時間が長く、自然と言葉遣いもこのような男っぽい感じになった。ただ俺とは違って品のある騎士だったようだけど。
彼女にも兄弟がいて兄が継ぐことになっているため、彼女は嫡子ではないが、昔から騎士と一緒にいるうちに国防の仕事に就きたいと思ったようで、11歳から武器をとって騎士団に交じり戦場を経験していた。
ソーアは実に俺とよく似ていると親近感を覚えていたし、彼女も同じ事を俺に言ってくれた。
ちなみに彼女の得物は弓で、魔術による補正もあってかなりの遠くからでも命中させることができるのだとか。
……ちなみに、そんな男勝りなところのせいなのか、他に事情があるのか、ソーアは中々縁談がまとまらないらしい。
「あっ……待てよ。俺自身は変わりないけど、ちょっと一応教えなきゃいけないことがあってな」
俺はリュートのことを思い出してソーアに話すことに決めた。彼女はリュートとも顔馴染み程度には交流があったしな。
「そうか。まさかそんなことが……」
ソーアは驚いているようだが
「私に言い寄ってきたこともあったからな。そこまで意外ではないかもしれん」
そう言ったことで今度は俺が驚いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!そんなことがあったのか?」
俺はそんなこと全然知らなかった。
「今だから言うが、離籍して妾にならないかと迫ってきたことがあった。王城でのパーティーのときに、酒にいささか酔ったときのことであったが、私は酒のせいだということで無かったことにした。リュート様は婚約中の身だったしな」
確かに辺境泊家の娘に妾にならんかと迫ったとあれば大スキャンダルになっただろう。マルセイユとの関係にヒビも入りかねない。リュートは既に終わった身であるとはいえ、これは俺達の間だけの話にしたほうが良さそうだ。
「それは……本当にすまなかった」
重ね重ね、本当に情けない。
まさかリュートがソーアに手を出そうとしていたとは。
それはいろいろな意味で問題のあることだったのだ。
「はっきり言ってリュート様は私の好みのタイプではないし、婚約中でありながら冗談でもあのようなことを言ってくる人間など論外だからな。きっぱり断ったよ」
やんわりではなくきっぱりか。流石だ。
リュートがどんな顔をしていたのか見てみたかった気がする。
「しかしまぁ、婚約破棄か。……その、大変じゃないか?いろいろと」
ソーアはそう言って同情的な視線をこちらに向ける。
「まぁ、ある程度はもう終わったよ」
そう笑って答えるが、金や人脈などこれから解決しなければならない問題について考えるのがつらい。
「そうか。私に力になれることがあれば良かったのだが…」
ソーアがそう言って辛そうに俯いた。
「その気持ちだけでもありがてぇよ。ありがとな」
彼女の肩にポンと手を乗せる。
実際にソーアに力になれることはほとんどない。だがその気持ちが本当に心の底から有り難かった。
「それはそうと……そろそろ時間じゃないかな」
アーヴィガが時計を見ながら、俺にそう話しかけてきた。
「時間……?あぁ、そろそろキアラも来る時間か」
今日は皆でここに集まる日だ。キアラだけがまだ来ていない。
「いや、キアラにはこちらから迎えに行くように伝えてあるんだ」
「えっ……」
どうして?と、聞こうとして俺は察した。
「馬車を貸すから、ショウに迎えに行ってほしいんだ。ルーベルト家まで」
婚約者を俺が迎えにいけと。少しでも二人でいる時間を増やそうというアーヴィガの計らいであるようだ。
確かにここ最近忙しく、キアラにはひと月ちょっとほど会えていない。
「すまねぇな」
俺はアーヴィガの好意に甘えて、急いで表口に用意しているだろう馬車まで向かうことにした。
-------------------
「ふふっ、相変わらずお世話焼きだなアーヴィガは」
ショウを見送っていたソーアがそう言ってアーヴィガに笑いかけた。
「もちろん、必要なら僕は君にだってお世話を焼くよ。当面はあの二人にだけどね」
アーヴィガは微笑んでそう答える。
「あの二人が結婚か…」
そう呟くソーアの表情は僅かに、ほんの僅かに曇った。
アーヴィガはそれには気付いたが、それには特に何も言わなかった。
若き令嬢が焼死体になるなどと、聞いてて気分のいい話じゃない。
「これだけで驚いてもらっては困る」
顔を顰める俺とは裏腹に、アーヴィガはおどけた顔で言った。
「僕の影が情報を強引に聞き出した相手が、ここ数日に一人ずつだが姿を消している」
「・・・なんだって?」
令嬢の焼死体のことをはじめに聞いて、これ以上驚くことなんてもう無いだろうと思っていたが、まだまだ驚かされることがあった。
「連れ込み宿の受付がまず最初に行方不明になった。その次は宿の近くある露店の店主。その次は・・・とまぁ、リュートさんの不貞の日にあの近くにいた、僕たちが情報収集をした人たちが一人ずつ姿を消しているんだ。いずれも箝口令を敷かれていた人たちだった。どこへ行ったのか調べてみたけど、自宅にもどこにもいない」
「口封じ・・・か?」
俺の問いにアーヴィガは穏やかな表情を浮かべたまま
「さぁてね。それは今の段階ではわからない。ただ、もしこれが誰かの陰謀だったとして・・・」
と述べて、ここからいささか表情を締めて続けた。
「一人の男を不貞させるために大がかりな仕掛けを施したり、僕の影の動きを察知して処理をしたり、それだけの大仕事をこなすことができる奴がいるってことさ」
随分とキナ臭い話なってきやがった。
もしそんな奴がいるとしたら、それは高貴族・・・もしくはそれ以上の力を持った奴・・・
「はぁ・・・とりあえずこれは一旦保留だな」
俺は今は考えることをやめた。
ルフト公爵家での不自然なまでにサバサバした態度、リュートの不貞相手の死亡、目撃者への箝口令そして行方不明。
いろいろと繋がりがある可能性があるが、今はまだそれを裏付ける証拠がない。何しろ不貞相手がもうこの世にいないのだ。ホルム子爵に話を聞いてもいいが、俺の質問に答えてくれるかわからない。
しばらく情報を探るしかあるまい。
「ショウ」
厳しい表情をしたアーヴィガに名を呼ばれる。
「うまく言えないけど、今僕たちの周りに得体のしれない何かが迫っている、そんな感じがする」
「・・・アーヴィガにもか?」
俺は自分でいうのも何だが、同国貴族でも敵国兵でも魔物でも敵は多い。俺は今更だ。、
「最近、僕の領地でも活動家の動きがあってね。領土全域にここ最近少しずつ増えている」
活動家・・・打倒貴族、格差社会の破壊を唱える過激な連中のことをこう呼んでいる。
長く戦乱の続くルード地方では姿を現さないが、他の領地・・・特に領民が貧しい暮らしをしているところにたびたび現れ、時に暴動を煽動することがあるそうだ。行き過ぎた搾取をした悪政を布いた貴族が時たまそれに巻き込まれて首を取られるということも聞いたことがある。
「アーヴォガのところにも活動家が出てきたのか?」
信じられなくて思わず聞いてしまった。
アーヴィガは先代から引き続き善政を布いているはずだ。
「最初は僕の力不足かと思ったのだけどね。しかし、どうやらどこかしらが大々的に糸を引いている感じがする」
まだ尻尾は掴めていないが、アーヴィガはそうあたりをつけているのだろう。
東方のルーデル、北方のハルトマンはこの国で三大勢力とされる内二つの辺境伯家だ。その2つの辺境泊家に不審な出来事が立て続けに起きている。
それは単なる偶然かもしれないが、俺はオミトから常々言われていた言葉を思い出した。
辺境泊家はランドールにとって大きな影響を持っている、それは常に外にも内にも敵がいるということであるということを自覚しろと。外敵が国を攻めようと取り崩すとき、真っ先に攻撃を受けるのが辺境泊であると。
「特に世代交代の前後は一番無防備な時と言えるでしょう。何か仕掛けられるとしたら今がタイミングです。どうか常々ご用心下さい」
オミトは最近これを本当に良く口にしていた。
まさに来年家督を継ぐ今の俺が該当するからだ。これは継いだばかりのアーヴィガにも当てはまる。
実際に先代…俺の親父のときにもいろいろあったらしい。
いま2つの辺境泊家は奇しくも同時に世代交代……無防備な状態にあり、オミトの言葉通りならまさに今こそ危ない時期であるということだ。
実際にリュートは不貞(自業自得であるが)を起こした責任を背負い、ルーデル家は高額の出費を受けてダメージを受けることになった上、本来繋がることができたはずのルフト公爵家とは気まずいことになってしまった。
財政的にも社会的にもこれは少なくないダメージだ。
これはもしかすると意図して攻撃された結果なのか。
「用心するんだ。ショウ」
そういうアーヴィガの表情は真剣だ。
不貞が陰謀によるものなら、ルーデル家は既に攻撃を受けているし、これで終わるかもまだわからない。ハルトマン家も活動家の懸念がある。
俺たちはもしかしたら、既に知らないうちに戦いの場に踏み込んでしまっているのかもしれない。
「お取り込み中のところ失礼します」
ここでハルトマン家の執事が頭を話しながら頭を垂れた。
「ソーア・マルセイユ様がお見えになりました」
「あぁ、来たか。通してくれ」
先ほどまでと違い、ややアーヴィガの声が弾んだ。
ソーア・マルセイユは南方の領地を治める辺境泊家の娘で、俺とアーヴィガの幼馴染だ。
彼女が来たという話を聞いて、俺達にあった重苦しい空気が軽くなったのを感じる。
「久しぶりだな!」
大きく元気な声が轟いた。その声に俺もアーヴィガも笑顔になる。
赤いショートヘアーの美少女が弾けるような笑顔でやってくる。ソーア・マルセイユ……俺より一つ年下の、俺とアーヴィガ、そして俺の婚約者であるキアラとは幼少からの付き合いだ。
東方の俺、北方のアーヴィガ、南方のソーア、そして中央のキアラと、俺たちはそれぞれバラバラに住みながらも出会ってからずっと親交を深めてきた。
「よう久しぶりだな。今回は半年ぶりか?」
「半年と半月だな。しばらく海にいたからな」
マルセイユ辺境泊家は南方ラウバル地方を治めているが、領地の大半は海に接しており、点在する島も全て治めているからか海の辺境泊と呼ばれることもある。
その領地の海の治安を守るのがマルセイユ辺境泊率いる「青の騎士団」こと海軍なのだが、ソーアはその青の騎士団で「戦女神」(ヴァルキリー)と呼ばれる女性のみで構成された部隊を率いている。
海軍は一度海に出ると中々すぐには陸に戻らないが、ソーア率いる戦女神も同じであった。ひと月ふた月は戻らないのは当たり前である。今回は少し遠方というのと、討伐対象の海賊が大規模なものであったということで、いつもより長めに海に出ていたようだ。
先日、海賊討伐に出ていたソーアから陸に戻ると先触れが届き、久しぶりに王都で皆で会わないかという話になった。そして今このようにハルトマン家に集合している。
久しぶりに会ったソーアは何だか本当に溌剌としている感じがする。よほど海にいたときの鬱憤でも溜まっていたのか、俺達に会えたのが久々で嬉しいのか。
「二人は元気そうだな。何も変わりないか?」
ソーアの質問に俺もアーヴィガも頷いた。
彼女は俺と同じく騎士と一緒にいた時間が長く、自然と言葉遣いもこのような男っぽい感じになった。ただ俺とは違って品のある騎士だったようだけど。
彼女にも兄弟がいて兄が継ぐことになっているため、彼女は嫡子ではないが、昔から騎士と一緒にいるうちに国防の仕事に就きたいと思ったようで、11歳から武器をとって騎士団に交じり戦場を経験していた。
ソーアは実に俺とよく似ていると親近感を覚えていたし、彼女も同じ事を俺に言ってくれた。
ちなみに彼女の得物は弓で、魔術による補正もあってかなりの遠くからでも命中させることができるのだとか。
……ちなみに、そんな男勝りなところのせいなのか、他に事情があるのか、ソーアは中々縁談がまとまらないらしい。
「あっ……待てよ。俺自身は変わりないけど、ちょっと一応教えなきゃいけないことがあってな」
俺はリュートのことを思い出してソーアに話すことに決めた。彼女はリュートとも顔馴染み程度には交流があったしな。
「そうか。まさかそんなことが……」
ソーアは驚いているようだが
「私に言い寄ってきたこともあったからな。そこまで意外ではないかもしれん」
そう言ったことで今度は俺が驚いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!そんなことがあったのか?」
俺はそんなこと全然知らなかった。
「今だから言うが、離籍して妾にならないかと迫ってきたことがあった。王城でのパーティーのときに、酒にいささか酔ったときのことであったが、私は酒のせいだということで無かったことにした。リュート様は婚約中の身だったしな」
確かに辺境泊家の娘に妾にならんかと迫ったとあれば大スキャンダルになっただろう。マルセイユとの関係にヒビも入りかねない。リュートは既に終わった身であるとはいえ、これは俺達の間だけの話にしたほうが良さそうだ。
「それは……本当にすまなかった」
重ね重ね、本当に情けない。
まさかリュートがソーアに手を出そうとしていたとは。
それはいろいろな意味で問題のあることだったのだ。
「はっきり言ってリュート様は私の好みのタイプではないし、婚約中でありながら冗談でもあのようなことを言ってくる人間など論外だからな。きっぱり断ったよ」
やんわりではなくきっぱりか。流石だ。
リュートがどんな顔をしていたのか見てみたかった気がする。
「しかしまぁ、婚約破棄か。……その、大変じゃないか?いろいろと」
ソーアはそう言って同情的な視線をこちらに向ける。
「まぁ、ある程度はもう終わったよ」
そう笑って答えるが、金や人脈などこれから解決しなければならない問題について考えるのがつらい。
「そうか。私に力になれることがあれば良かったのだが…」
ソーアがそう言って辛そうに俯いた。
「その気持ちだけでもありがてぇよ。ありがとな」
彼女の肩にポンと手を乗せる。
実際にソーアに力になれることはほとんどない。だがその気持ちが本当に心の底から有り難かった。
「それはそうと……そろそろ時間じゃないかな」
アーヴィガが時計を見ながら、俺にそう話しかけてきた。
「時間……?あぁ、そろそろキアラも来る時間か」
今日は皆でここに集まる日だ。キアラだけがまだ来ていない。
「いや、キアラにはこちらから迎えに行くように伝えてあるんだ」
「えっ……」
どうして?と、聞こうとして俺は察した。
「馬車を貸すから、ショウに迎えに行ってほしいんだ。ルーベルト家まで」
婚約者を俺が迎えにいけと。少しでも二人でいる時間を増やそうというアーヴィガの計らいであるようだ。
確かにここ最近忙しく、キアラにはひと月ちょっとほど会えていない。
「すまねぇな」
俺はアーヴィガの好意に甘えて、急いで表口に用意しているだろう馬車まで向かうことにした。
-------------------
「ふふっ、相変わらずお世話焼きだなアーヴィガは」
ショウを見送っていたソーアがそう言ってアーヴィガに笑いかけた。
「もちろん、必要なら僕は君にだってお世話を焼くよ。当面はあの二人にだけどね」
アーヴィガは微笑んでそう答える。
「あの二人が結婚か…」
そう呟くソーアの表情は僅かに、ほんの僅かに曇った。
アーヴィガはそれには気付いたが、それには特に何も言わなかった。
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