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終焉

真なる神の審判

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ベルスが降らした神の雷に始まった人の世への粛清は、後の世に『真なる神の審判』と呼ばれた。

真なる神はベルス。偽なる神はラビス。
偽なる神を崇拝したラビス教の関連施設は、一つとして例外なく裁きを受けた。
あらゆる天災がその地を襲い、雷に身を焼かれた者もいれば、地震に巻き込まれた者、氾濫した水に溺れた者、疫病に侵された者、そして、混乱によって生じた争いに巻き込まれた者・・・ありとあらゆる災難で、多くの人間が死んだ。それらは例外なくラビス教の信者であった。

ラビスに祈りを捧げても災難は無くならない。では祈るだけ無駄ではないかと気付いた者は、意外にも少数派だった。

むしろ神による粛清が進むにつれ、既に亡きものになっているはずのラビスに祈りを捧げる者が増えたのである。


「ラビス様・・・どうかお救いください」


「私はどうなっても構いません、どうか、どうか娘だけは・・・」


魔物でもない、ただの天災でも疫病でもない、人々は人知を超えた圧倒的な恐怖に直面し、ラビスに縋った。
ベルスの粛清は当初あくまでラビス教関連の地に留まっていたが、それを傍から見ていた者の中には「次は自分がまきこまれるのではないか」「神への信仰が不足していたから罰を受けたのではないか」と考える者が現れた。

未知なるものへの恐怖を、ラビスへの祈りで逃避する者が圧倒的に増えた。
あくどい者はその不安に乗じ、新興宗教を立ち上げたりもした。

皮肉なことに、ベルスによる粛清が始まる前よりも、世界は混沌を極めるようになっていったのである。
例外があるとしたら、ラビス教本部サンクレアが滅びる様を目の当たりしたユーライ国・・・そして元よりラビス以外に信奉するものを持っていた国などであった。

ベルスはラビスによって歪められた世界を矯正しようと考えていた。
そしてその過程で、ラビスになおも縋るような愚鈍な人間は滅しても良いとも考えていた。ベルスの思う人間界に、思考停止した愚かな人間は必要ないのである。
結局ベルスの粛清は、当初彼自身が予想していたそれよりも遥かに多くの・・・全人類の半分近い犠牲者を出した。
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