聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

はにわ

文字の大きさ
上 下
192 / 203
終焉

カイと法王城の別れ

しおりを挟む
法王ランスがいなくなったという報は、法王城全体を駆け巡って大混乱を巻き起こした。
何しろ国の象徴であり、神の次に尊い存在がいなくなったのである。

これまでにサンクレアでは聖女を含め様々な要人が暗殺される事態が起きているだけに、法王も侵入者の手にかかったのではないかという憶測が生まれ、そして法王城を阿鼻叫喚の地獄絵図に変えていた。


「ここにいたら我々も殺される!」


「待て、外に出ても殺されるぞ!敵国に囲まれているのを忘れたか!?」


「外でも中でも同じことだ!もうこの国は終わりだ!いや、この世はもう・・・」


城にいても侵入者に殺される、外に出ても敵国の軍隊に殺される。
いや、外界を捨て、法王城で結界を張って閉じこもっていたのだ。もしかしたら、怒りを買った群衆に殺されてしまう可能性だってあった。

法王城にいた者達にあるのは、ただただ深い絶望。
一体どうしたら良いのか、導く者すらおらず、思いつく案も無く、右往左往して嘆いている。



そんな法王城内を悠然とカイは歩いていた。
ローブを纏っているだけの簡単な偽装だが、混乱の極致に達しているサンクレアの騎士達は気付かない。

混乱の原因であるカイが目の前にいるのに、騎士達は易々と城を出ていくカイを見逃してしまっていた。
一人くらいは気付きそうなものなのに、結局ついに誰もカイのことに気付くことはなく、カイは苦笑いを浮かべていた。
世界で最も安全な場所・・・かつてサンクレアの法王城はそう言われ世界中からその敷地内に居住したいと金持ちや貴族が詰めかけたことがあったが、実際はこうして曲者一人見つけることも出来ないのだから、いかにこの法王城に幻想を抱いていたのかとカイは可笑しくなった。


「じゃあな、世話になったなサンクレア」


かつて自分が仕えていた神国サンクレアを去ることに、ほんの少しだけ感慨深いものを感じて呟くカイ。
とはいえ、この場所はかつて彼が仕えていた頃の面影など残っていなかった。

厳かな雰囲気も、鉄壁の忠誠心と精神を持つ騎士達も、神の名の元に示される正義も最早ここには残っていない。


カイは法王城を出ると、もう振り返って城を見上げた。

これが彼が見た最後の神国サンクレアの法王城の姿であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

因果応報以上の罰を

下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。 どこを取っても救いのない話。 ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...