聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

はにわ

文字の大きさ
上 下
180 / 203
終焉

無意味な献身

しおりを挟む
「・・・あぁ・・・っ!?」


ハルトは一瞬、自分の体に何が起こっているのか理解できなかった。
女神ラビスから絶対的な力を与えてもらったことで、カイに対して優位に立ち、今度こそ自分の恋人の仇を、この国の敵を、何よりラビスに仇なす者を討つことが出来ると確信していた。

だが、実際はハルトの体は、カイが攻撃するフリをして仕掛けていた魔法の符により発動した爆炎に巻き込まれ、片足と片腕を吹き飛ばし、体の表面を七割方焼いてしまっていた。

かつてカイとハルトの上司であるアドルも同じ手をくらっていた。その話を聞いていたはずなのに、同じことを仕掛けられる可能性について考えることが出来なかったハルトの迂闊さが招いた敗北だった。


「バカな・・・僕が・・・負けた・・・?」


そうハルトの敗北だった。
爆炎の符により、ハルトの体は到底戦闘など出来ないほどにダメージを受けていた。

そしてカイはハルトと同じような轍を踏まない。


「どうだ?頼りの騎士様はもう壊れちまったぜ」


カイはハルトが戦闘不能になったと見るや、ラビスの前に立ちはだかり、ハルトにこれ以上手出しが出来ないようにした。再び回復され、ラビスの騎士として復活されないようにするためだ。


「・・・」


ラビスは何も言葉を発しなかったが、ちろりと倒れ伏したハルトに視線を投げかける。
その目は冷え切ったもので、実につまらないものを見ているかのようなそれだった。


「ラ・・・ラビス様・・・」


不甲斐なさと申し訳なさで顔を歪ませるハルトは、どうにかして体を起こそうとするが、片手足を吹き飛ばされた上に出血の激しい今の体では、1ミリたりとて動かせる気がしなかった。
それどころかこのままなら遠からず死ぬだろう。


「所詮、人間でしかないか」


寒気がするほど感情がなく、見下したようにラビスが言った。
視線を向けられ、そう言葉をかけられたハルトは驚愕で目を開く。


「私自らが力を貸したというのに、何と言う無様。これならば私自身でやったほうが断然マシだったというもの」


失望したようにそう言うラビスに、ハルトは言葉も出なかった。

自分も頑張りも、今こうして死に伏せようとしてまで貫いた献身も、まるで意味のないように言われたのだから絶望で頭が真っ白になるのも仕方が無かった。

異形になっても神のためならば頑張れる。
死ぬことになっても神のためならば納得できる。

だがその信奉すべき神に、自身の行いが無意味なものであると言われたハルトの絶望は、深く深く彼の心を抉った。


しかし、ハルトの心はこれから更に深く抉られることになるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

因果応報以上の罰を

下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。 どこを取っても救いのない話。 ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...