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終焉
失われた信心
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「そこの貴方」
突然、ラビスはハルトに顔を向けて話しかけた。
ハルトはまさか自分がラビスに話しかけられるとは思わず、狼狽して「えっ」とだけ言葉を漏らす。
「私のために戦いなさい」
ラビスはハルトを見据えると、尊大な態度でそう言った。
助けを求める側であるのに尊大なのは神ゆえのプライドなのか。その態度からは全く卑屈さを感じなかった。
「も、もちろんですとも!」
ハルトは迷わずそう答える。
まだはっきりと神であるという証拠を見せられたわけではない。それどころか爪を伸ばして戦うという醜い姿を晒し、カイに力押しで負けるという醜態まで晒している。
だが、ラビスから感じる圧倒的オーラでハルトは直感的に自分が信奉していた神であることを確信していた。妄信とも言って良い。ラビスはハルトのその気質を見抜き、カイと戦わせる駒にしようと考えたのである。
カイの剣の腕、そして力ある者の血を吸い、その力を増した聖剣・・・
認めたくはないが、このままではラビスはカイに負けてしまうということを察してしまっていたのだ。
「さぁ、来いカイ!僕が相手だ!!」
カイに負わされた傷はあえて全快されておらず、満足に戦うどころかろくに動けない状態になっているハルトは、気丈にも立ち上がってカイとラビスの間に立ちふさがった。
既に得物であるラグナロクは破壊されているため、腰に差していた短剣だけがハルトの得物であるが、そのあまりに頼りない得物をカイに突きつけている。どう見ても一瞬でカイに斬り伏せられるのが予想出来た。
「本気かよ」
心意気や良し。
だが、物の見事に心意気だけだ。どう見ても勝ち目がないというのに、それでもわざわざラビスを守ろうと自分に戦いを挑むハルトを見てカイは呆れて溜め息が漏れる。
「そこまでして守る価値があるのかよ。そいつによ」
「そいつじゃない!女神ラビス様だ!」
「お前も見ただろ?女神ラビス様とやらは、大した存在じゃねーってのよ。たかが人間の俺に追い詰められるを見ただろ?俺らが信奉してた女神ラビス様ってのは、偉大でもなければなんでもなかったんだよ。ここまで見させられて何故それがわからない?」
「何か事情がおありなんだ!ラビス様が力を発揮できないのであれば、僕が護るまでだ!」
鰯の頭も信心からというが、まさかここまでとはなとカイは感心すら覚えた。
ある意味で可哀想ですらあるとカイは思ったが、それでも戦いをやめるわけにもいかない。容赦なくカイは剣を構える。真実を見た上でまだなお信ずるというのであれば、それに殉じるのもまた本望だろうと。
「そう。私が力を発揮できないのには理由があります」
そこでラビスが口を開いた。
「このサンクレアの人々の私を信ずる心が私の力となるのです。ですが、今は民の心が私から離れてしまい、従来の力を発揮できなくなっているのです」
「ラビス様・・・!」
法王城から神都の光景を眺めていたハルトにはラビスの言葉の意味が理解出来た。
実際に民の心はラビスから離れ、そしてサンクレアからも物理的に離れようとしていると。
ラビスへの信心が彼女の力となるのであれば、今力がないというのは仕方がないのことだ・・・と、ハルトは渋面して納得した。
「ですが、失われた信心はこれから取り戻せば良いだけのこと。そのためにも、ハルト・・・貴方は目の前の男を倒す必要があります」
ラビスはゆっくりとハルトへ向かって歩を進めた。
「私の力を一部授けます。これを使い、貴方はこの男を倒すのです」
ラビスがハルトに触れると、辺りは強い光で包まれた。
(やべぇな。話なんて聞いてないで、さっさと斬ればよかった)
カイは雰囲気に飲まれてそのままラビスの行いを見守ってしまっていたことを、このあと後悔することになる。
突然、ラビスはハルトに顔を向けて話しかけた。
ハルトはまさか自分がラビスに話しかけられるとは思わず、狼狽して「えっ」とだけ言葉を漏らす。
「私のために戦いなさい」
ラビスはハルトを見据えると、尊大な態度でそう言った。
助けを求める側であるのに尊大なのは神ゆえのプライドなのか。その態度からは全く卑屈さを感じなかった。
「も、もちろんですとも!」
ハルトは迷わずそう答える。
まだはっきりと神であるという証拠を見せられたわけではない。それどころか爪を伸ばして戦うという醜い姿を晒し、カイに力押しで負けるという醜態まで晒している。
だが、ラビスから感じる圧倒的オーラでハルトは直感的に自分が信奉していた神であることを確信していた。妄信とも言って良い。ラビスはハルトのその気質を見抜き、カイと戦わせる駒にしようと考えたのである。
カイの剣の腕、そして力ある者の血を吸い、その力を増した聖剣・・・
認めたくはないが、このままではラビスはカイに負けてしまうということを察してしまっていたのだ。
「さぁ、来いカイ!僕が相手だ!!」
カイに負わされた傷はあえて全快されておらず、満足に戦うどころかろくに動けない状態になっているハルトは、気丈にも立ち上がってカイとラビスの間に立ちふさがった。
既に得物であるラグナロクは破壊されているため、腰に差していた短剣だけがハルトの得物であるが、そのあまりに頼りない得物をカイに突きつけている。どう見ても一瞬でカイに斬り伏せられるのが予想出来た。
「本気かよ」
心意気や良し。
だが、物の見事に心意気だけだ。どう見ても勝ち目がないというのに、それでもわざわざラビスを守ろうと自分に戦いを挑むハルトを見てカイは呆れて溜め息が漏れる。
「そこまでして守る価値があるのかよ。そいつによ」
「そいつじゃない!女神ラビス様だ!」
「お前も見ただろ?女神ラビス様とやらは、大した存在じゃねーってのよ。たかが人間の俺に追い詰められるを見ただろ?俺らが信奉してた女神ラビス様ってのは、偉大でもなければなんでもなかったんだよ。ここまで見させられて何故それがわからない?」
「何か事情がおありなんだ!ラビス様が力を発揮できないのであれば、僕が護るまでだ!」
鰯の頭も信心からというが、まさかここまでとはなとカイは感心すら覚えた。
ある意味で可哀想ですらあるとカイは思ったが、それでも戦いをやめるわけにもいかない。容赦なくカイは剣を構える。真実を見た上でまだなお信ずるというのであれば、それに殉じるのもまた本望だろうと。
「そう。私が力を発揮できないのには理由があります」
そこでラビスが口を開いた。
「このサンクレアの人々の私を信ずる心が私の力となるのです。ですが、今は民の心が私から離れてしまい、従来の力を発揮できなくなっているのです」
「ラビス様・・・!」
法王城から神都の光景を眺めていたハルトにはラビスの言葉の意味が理解出来た。
実際に民の心はラビスから離れ、そしてサンクレアからも物理的に離れようとしていると。
ラビスへの信心が彼女の力となるのであれば、今力がないというのは仕方がないのことだ・・・と、ハルトは渋面して納得した。
「ですが、失われた信心はこれから取り戻せば良いだけのこと。そのためにも、ハルト・・・貴方は目の前の男を倒す必要があります」
ラビスはゆっくりとハルトへ向かって歩を進めた。
「私の力を一部授けます。これを使い、貴方はこの男を倒すのです」
ラビスがハルトに触れると、辺りは強い光で包まれた。
(やべぇな。話なんて聞いてないで、さっさと斬ればよかった)
カイは雰囲気に飲まれてそのままラビスの行いを見守ってしまっていたことを、このあと後悔することになる。
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