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反逆
絶望を、怒りを、恨みを晴らす
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「・・・・・・」
アドルは事切れ、もう口を開くことはなかった。主を失った名剣アスカロンは、纏っていたエネルギーを失い、ただのナマクラに変化して地面に横たわっている。
世間的にイメージされるような、正々堂々たる騎士の決闘とはほど遠い泥臭い戦いだった。
だが、これこそがカイとアドルの戦いである。
騙し、利用し、出来ることはやる、手段を問わずに生き抜けというアドルを教えをカイは実践したに過ぎない。
「ちっ、父上ぇ・・・!?」
屋敷の壁を一部吹き飛ばし、アドルの家族達の目の触れない場所での決着であったが、様子が気になったのだろう・・・レイドがいつの間にかやってきていて、アドルの遺体を見て悲鳴を上げた。
嘘つきだと糾弾した後にこれである。むしろアドルがあっさり討たれたのは糾弾されたことによる精神的ショックが敗因だ。
レイドが泣き叫び、それを聞きつけた他の家族もやってくる。
カイは踵を返し、その場を後にした。
あの家族は死ぬほど後悔することだろう。勢いでアドルを糾弾し、冷静になった頃には彼は死んでしまったのだから。
カイは歩きながら考える。
アドルは死の間際にカイの事を息子と呼んだ。
それはそれで一つの真実だったのかもしれない。だが、アドルは家族に糾弾され、精神的に脆弱になっている隙を突かれて討たれるという、極めて不名誉で胸糞悪い状態で死ぬことになった。
少しでもこの戦いの終わりを綺麗に着飾ることで、いくらかでもこの戦いに、自分の死に有意義なものを見出したかったのではないか・・・
そうでなければ自分も、残された家族もまるで救われないではないかと。
「ふっ・・・」
だったらいいなと、カイは考えた。
自分が味わった絶望を、怒りを、恨みをほんの少しでも分かち合えれば良いなと思う。
アドルには感謝もある。もう一人の父だと思う気持ちも嘘ではない。だからアドルの最後に手向けだと思ってそう口にしたが、内心は恨みを少し晴らしたことによる解放感でテンションが高かったことによるちょっとしたサービスのつもりでの発言だった。
あの家族はこれからどうなるだろうか?アドルが天から見ているならどんな気持ちだろうか?
カイの口元に笑みが浮かび、彼は鼻歌交じりで歩き続けた。
「心配することはない、後少しで全部が終わる。そうなればサンクレアごと消滅するから、アドル団長の死どころじゃなくなるよ」
家族のいるだろう場所に向かってそう小声で語り掛けるカイの言葉は、当然ながら誰一人として聞いてはいなかった。
アドルは事切れ、もう口を開くことはなかった。主を失った名剣アスカロンは、纏っていたエネルギーを失い、ただのナマクラに変化して地面に横たわっている。
世間的にイメージされるような、正々堂々たる騎士の決闘とはほど遠い泥臭い戦いだった。
だが、これこそがカイとアドルの戦いである。
騙し、利用し、出来ることはやる、手段を問わずに生き抜けというアドルを教えをカイは実践したに過ぎない。
「ちっ、父上ぇ・・・!?」
屋敷の壁を一部吹き飛ばし、アドルの家族達の目の触れない場所での決着であったが、様子が気になったのだろう・・・レイドがいつの間にかやってきていて、アドルの遺体を見て悲鳴を上げた。
嘘つきだと糾弾した後にこれである。むしろアドルがあっさり討たれたのは糾弾されたことによる精神的ショックが敗因だ。
レイドが泣き叫び、それを聞きつけた他の家族もやってくる。
カイは踵を返し、その場を後にした。
あの家族は死ぬほど後悔することだろう。勢いでアドルを糾弾し、冷静になった頃には彼は死んでしまったのだから。
カイは歩きながら考える。
アドルは死の間際にカイの事を息子と呼んだ。
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少しでもこの戦いの終わりを綺麗に着飾ることで、いくらかでもこの戦いに、自分の死に有意義なものを見出したかったのではないか・・・
そうでなければ自分も、残された家族もまるで救われないではないかと。
「ふっ・・・」
だったらいいなと、カイは考えた。
自分が味わった絶望を、怒りを、恨みをほんの少しでも分かち合えれば良いなと思う。
アドルには感謝もある。もう一人の父だと思う気持ちも嘘ではない。だからアドルの最後に手向けだと思ってそう口にしたが、内心は恨みを少し晴らしたことによる解放感でテンションが高かったことによるちょっとしたサービスのつもりでの発言だった。
あの家族はこれからどうなるだろうか?アドルが天から見ているならどんな気持ちだろうか?
カイの口元に笑みが浮かび、彼は鼻歌交じりで歩き続けた。
「心配することはない、後少しで全部が終わる。そうなればサンクレアごと消滅するから、アドル団長の死どころじゃなくなるよ」
家族のいるだろう場所に向かってそう小声で語り掛けるカイの言葉は、当然ながら誰一人として聞いてはいなかった。
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