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反逆

アドルにとってのカイ

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カイに斬り伏せられ、意識が朦朧とする中でアドルは走馬灯のように昔のことを思い出していた。
アドルがカイを最初に見つけたときのことである。




ーーーーー

かつてアドルがカイを拾い、騎士に取り立てようと考えたのには理由があった。


(見立てのある小僧だ。腕を磨けば、あるいは剣の腕だけなら私を越えるかもしれない)


アドルはカイに可能性を見出していた。
きっと優秀な、あるいはサンクレアで一番の騎士になると。
だからカイを騎士として育てることに決めた。

だが、それはサンクレアのためでも、ましてカイのためでもない。アドル自身の自己満足ためだった。

アドルは教会上層部へのコネクション不足に加え、ミカエルの妨害もあり、聖騎士に選ばれることはなかった。
結局は救世の要であるはずの聖騎士ですら、政治的な関わりがあって選出される・・・それがアドルが見て、そして実感した現実だ。

カイは平民・・・いや、ある意味それ以下の出自だが、眼光を見るに騎士として将来有望な男だ。鍛えればきっと実力的には聖騎士になれるだけのものになる。アドルはそう確信していた。
だからカイを徹底邸に鍛え上げ、聖騎士候補になり得るだけの実力のある騎士にする。

もしその上でカイが聖騎士になれなければ、それはアドルも聖騎士になれなかったことは仕方がないと割り切ることが出来る。
結局聖騎士の選出は政治なのだ、と。だから自分がなれなかったのは当然なのだと。
アドルは自分で本当の意味で聖騎士に踏ん切りをつけてるために、そんな自己満足のためにカイを一流の剣士に鍛え上げた。


「私の全てをお前に叩き込む」


これでもかというほどの力の入れようだった。
自分が持つ技術、戦術、持てるものを全て叩き込み、カイもそれを吸収した。
カイは間違いなく、アドルの思う最高傑作と言えるほどの成長を遂げた・・・が、アドルの計算外だったのは、カイが身分や政治的な妨害を受けてもなお、聖騎士に選ばれたことである。


「国民からの支持が他候補と比較しても圧倒的だ」

「一応、今回は例外的ではあるが、平民から徴用するのも悪くないかもしれないしね」

「騎士団長の自慢の弟子だ。実力も人望も申し分ないし、まぁ、反対意見を押しのけることくらいできるだろう」


カイの世代は奇跡の世代と言えるほど人材に恵まれていた。
アドルの聖騎士選出の時と比較しても明らかにハードルは高かったのだが、カイは逆境を跳ね返して見事聖騎士になった。なってしまった。


「バカな・・・!」


誰よりもショックを受けたのは、カイの当選を妨害した一派でもなく、ライバルでもなく、カイを育てたアドル自身だった。
カイが落選することで諦めがついたはずであったのに、アドル以上の厳しい条件の元に勝ち抜いたのだ。

妨害があったとはいえ、結局、自分は聖騎士になり得る器ではなかった・・・そう確定したのだと言われたような気分になり、アドルの心は歪んだ。

アドルにとってカイは、自慢の弟子であると同時に、自らの弱さと不甲斐なさを象徴する憎しみと戒めの対象となっていた。
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