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反逆

復讐される理由は十分

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「アドル様、失礼いたします。貴方宛てへの手紙を預かっております」


アドルがアスカロンの手入れをしている途中、彼が借りている部屋の扉がノックされた。


「・・・何?」


アドルは怪訝に思いながらも、アスカロンを鞘に納めて部屋の扉を開ける。


「・・・?」


扉を開けると、話しかけてきたと思われる神殿騎士の姿は無かった。その代わりに手紙は扉の隙間に差し込まれていたようで、アドルは開けたことではらりと床に落ちる。


「やれやれ」


アドルは苦笑いを浮かべながら手紙を拾う。
アドルは神殿騎士から良くは思われていないことは自覚していたが、それにしてもここまで無礼千万とは何とも言えない気持ちになった。とはいえ今更なのでそれ以上は気にしない。
扉を閉め、手紙の内容を確認したアドルは戦慄した。


「この字は・・・」


アドルは手紙に書かれた文字の筆跡にすぐに気が付いた。
決して綺麗ではないが、読めるように丁寧に書こうとされた努力の見られた字は、アドルの良く知る男・・・カイのそれであったからだ。


「・・・どういうことだ」


アドルははやる気持ちを抑え込み、震える手で手紙の内容に目を通した。
それは決して長い内容ではなかったが、アドルは内容を理解するために何度か読み直した。


『アドル団長 貴方の家で待つ。誰にもこの手紙に内容については話さずに、一人だけで来られるように。それを違えば貴方は相応の報いを受けましょう   カイ 』


手紙に書いてあった内容はそれだけだった。
それだけだったが、アドルは冷静に状況を判断するのに若干の時間がかかった。

自分の家族が人質に取られているーーー 

理解した瞬間、アドルの全身を冷や汗が流れた。
手紙を持つ手が震え、動悸が激しくなり呼吸が苦しくなる。

カイは理由もなく何の罪もない人間を手にかけるような外道ではない、だからきっと大丈夫ーーー

そこまで考え、アドルはかつて自分が取った行動を思い出してハッとなった。
カイの隙をつき、無防備だった彼の恋人のイリスを刺した。あれは致命傷だったはずだ。普通に考えれば、あれから生存したとは考えにくい。

そう、カイにはアドルの家族を殺す動機が十分にあった。
むしろカイが復讐鬼となったのなら、本来は真っ先に狙われてもおかしくないのがアドルとその家族であった。


(か、カイぃぃぃぃ!!)


アドルは怒りで叫びたいのを抑えながら、法王城敷地内にある自分の屋敷へと急いだのだった。
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