142 / 203
反逆
負けた男の執念
しおりを挟む
アドルはミカエルが執心しているカトレアの横からかっさらってやろうと考えていた。
これまで幾度となく令嬢にはアプローチされてきたが、その誰もがアドルの心を射止めることはなかった。しかしカトレアは違う。初めてアドルの方からアプローチを仕掛けても良いかなと思えた女性だった。
アドルからしてみれば、日々自分に苛烈なほどに闘争心を燃やし続ける目ざわりなミカエルに対する良い嫌がらせ程度に考えていたつもりだったが、実際のところはアドルも無心の内にカトレアに対して懸想し始めていたのだ。
ともあれ、アドルはカトレアに対してアプローチを開始する。
一方でミカエルはアドルを実力でねじ伏せ、騎士として最強であることを示してからカトレアに求婚することを決めていた。その一心で鍛錬に明け暮れ、アドルを倒そうと躍起になっていたのだ。
が、ミカエルのその強い思い故に隙があった。
アドルを越えないとカトレアに求婚しないということは、それまでは彼女に対して見ているだけということ。
アドルはミカエルが剣に熱中している間に巧みにカトレアの心に入り込み、なんと先に婚約をもぎ取ってしまった。
「そんな・・・馬鹿な・・・」
その報を聞いたミカエルは、呆然として訓練用の剣を手から落とした。
サンクレアで定期的に行われる剣技大会で、次こそアドルを倒して優勝しようともう訓練している最中だった。
カトレアが婚約したことだけでも衝撃的だったが、その相手がアドルであるということもまた彼の心を深く傷つけた。
「まさか・・・本当に」
何かの間違いではないか、そう思ってカトレアの元に向かったミカエルは、そこで仲睦まじそうに手を取り、馬車に二人で乗ろうとしている場面に出くわした。
カトレアはアドルを慈愛に満ちた目で見つめており、浅からぬ仲であることがすぐにわかった。
(あんな顔、私にも見せたことがない・・・)
打ちひしがれて、ミカエルは張り詰めていた糸が切れたかのように無気力になった。アドルに騎士としてだけでなく、男としても負けてしまったことに心が壊されてしまったかのようだった。
結局、次に行われる剣技大会はミカエルが出場することはなかった。
アドルは幸せだった。
意中の女が自分の物になった。ついでに目ざわりだった男がようやく大人しくなった。
だが、ミカエルは決して大人しくなったわけではなかった。
それどころかドス黒い執念を燃やし、その後のアドルの人生を大きく狂わせたのである。
これまで幾度となく令嬢にはアプローチされてきたが、その誰もがアドルの心を射止めることはなかった。しかしカトレアは違う。初めてアドルの方からアプローチを仕掛けても良いかなと思えた女性だった。
アドルからしてみれば、日々自分に苛烈なほどに闘争心を燃やし続ける目ざわりなミカエルに対する良い嫌がらせ程度に考えていたつもりだったが、実際のところはアドルも無心の内にカトレアに対して懸想し始めていたのだ。
ともあれ、アドルはカトレアに対してアプローチを開始する。
一方でミカエルはアドルを実力でねじ伏せ、騎士として最強であることを示してからカトレアに求婚することを決めていた。その一心で鍛錬に明け暮れ、アドルを倒そうと躍起になっていたのだ。
が、ミカエルのその強い思い故に隙があった。
アドルを越えないとカトレアに求婚しないということは、それまでは彼女に対して見ているだけということ。
アドルはミカエルが剣に熱中している間に巧みにカトレアの心に入り込み、なんと先に婚約をもぎ取ってしまった。
「そんな・・・馬鹿な・・・」
その報を聞いたミカエルは、呆然として訓練用の剣を手から落とした。
サンクレアで定期的に行われる剣技大会で、次こそアドルを倒して優勝しようともう訓練している最中だった。
カトレアが婚約したことだけでも衝撃的だったが、その相手がアドルであるということもまた彼の心を深く傷つけた。
「まさか・・・本当に」
何かの間違いではないか、そう思ってカトレアの元に向かったミカエルは、そこで仲睦まじそうに手を取り、馬車に二人で乗ろうとしている場面に出くわした。
カトレアはアドルを慈愛に満ちた目で見つめており、浅からぬ仲であることがすぐにわかった。
(あんな顔、私にも見せたことがない・・・)
打ちひしがれて、ミカエルは張り詰めていた糸が切れたかのように無気力になった。アドルに騎士としてだけでなく、男としても負けてしまったことに心が壊されてしまったかのようだった。
結局、次に行われる剣技大会はミカエルが出場することはなかった。
アドルは幸せだった。
意中の女が自分の物になった。ついでに目ざわりだった男がようやく大人しくなった。
だが、ミカエルは決して大人しくなったわけではなかった。
それどころかドス黒い執念を燃やし、その後のアドルの人生を大きく狂わせたのである。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
因果応報以上の罰を
下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。
どこを取っても救いのない話。
ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる