聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

はにわ

文字の大きさ
上 下
120 / 203
反逆

ハルト その3

しおりを挟む
ハルトは大司教の言葉の内容が理解できなかった。
いや、理解することを理性が拒んだ。

ハルトにとってマーサは慈悲深く、身分を笠に着ることもなく、誰にでも平等であり、敬虔なラビス教徒であった。まさにハルトから見て完璧な女性であったと言える・・・いや、自分以外にもマーサのことを完璧だと言っていた人間は何人も知っていた。

だからこそ、そのマーサの実の父であるはずの大司教の言い放った言葉が、ハルトには信じられなかった。


「そうだ、これは知っているか?私は娘可愛さに、以前はをアレにつけていたのだ」


「えっ・・・?」


影・・・大司教直属の配下が、マーサの監視をしていたという事実を聞き、ハルトは驚きに息を飲む。


「ふむ、気付いていなかったか。まぁ、私の影は優秀だからな。気配の隠し方は完璧だろうし、君とて気付かなかったか」


「・・・」


大司教の立場が立場である故に、実の娘であるマーサに影をつけること自体はおかしなことではない。そこは仕方がない。問題はこの後に何を言うか、だ。
ハルトは大司教の次の言葉を冷や汗を浮かべて待っていた。


「その影から報告があったのだが、マーサは君にもわからないところで隠れてあることをやっていたのだ。何をやっていたと思う?なんと攻撃魔法の練習をしていたんだ。時に『死ねイリス、あの女!』などと叫びながら魔法で的を破壊していたそうだ」


「は・・・?」


「粗削りながら、中々に破壊力のある魔法だったとのことだ。人を屠ることも簡単に出来るほどの。芸を広げるのは個人的には反対ではないが、聖女としてははしたないにも程があるから、今の今まで誰にも話していなかったがね」


「そんな・・・」


ハルトは耳を疑った。
マーサは常に聖女としての勤めを全力で果たせるよう、聖魔法の研鑽に勤しんでいたはずだった。少なくともハルトの前ではそうだった。イリスとだって、同じ聖女同士仲が良く、互いに認め合ってた。それすらマーサの演技だった?
ハルトは大司教の口から明かされる事実に、思考が完全に停止しそうなほどの衝撃を受けていた。


「娘はイリスに対して強い殺意を持っていた可能性が高い。君や世間が知らぬの裏の顔は、中々に悍ましいものだったというわけだ」


「それは・・・」


「それでも聖女としての役目さえ果たせれば、それはそれで良いだろうと私は目を瞑っていた。だが、実際は最後の最後で聖騎士とともに行動すべきという原則を破り、そこを突かれて命を落とした。聖女として聖魔法の研鑽に努めていれば、身を守るに十分な魔法障壁を張ってやり過ごすことも出来たであろうに・・・」


ここで大司教はふぅと溜め息をつき、続けた。


「正直なところ、我が家のとんだ恥さらしだと思っている。アレの好きなようにさせてきたことが、悔やまれてならない」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

因果応報以上の罰を

下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。 どこを取っても救いのない話。 ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

処理中です...