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反逆
ハルト その3
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ハルトは大司教の言葉の内容が理解できなかった。
いや、理解することを理性が拒んだ。
ハルトにとってマーサは慈悲深く、身分を笠に着ることもなく、誰にでも平等であり、敬虔なラビス教徒であった。まさにハルトから見て完璧な女性であったと言える・・・いや、自分以外にもマーサのことを完璧だと言っていた人間は何人も知っていた。
だからこそ、そのマーサの実の父であるはずの大司教の言い放った言葉が、ハルトには信じられなかった。
「そうだ、これは知っているか?私は娘可愛さに、以前は影をアレにつけていたのだ」
「えっ・・・?」
影・・・大司教直属の配下が、マーサの監視をしていたという事実を聞き、ハルトは驚きに息を飲む。
「ふむ、気付いていなかったか。まぁ、私の影は優秀だからな。気配の隠し方は完璧だろうし、君とて気付かなかったか」
「・・・」
大司教の立場が立場である故に、実の娘であるマーサに影をつけること自体はおかしなことではない。そこは仕方がない。問題はこの後に何を言うか、だ。
ハルトは大司教の次の言葉を冷や汗を浮かべて待っていた。
「その影から報告があったのだが、マーサは君にもわからないところで隠れてあることをやっていたのだ。何をやっていたと思う?なんと攻撃魔法の練習をしていたんだ。時に『死ねイリス、あの女!』などと叫びながら魔法で的を破壊していたそうだ」
「は・・・?」
「粗削りながら、中々に破壊力のある魔法だったとのことだ。人を屠ることも簡単に出来るほどの。芸を広げるのは個人的には反対ではないが、聖女としてははしたないにも程があるから、今の今まで誰にも話していなかったがね」
「そんな・・・」
ハルトは耳を疑った。
マーサは常に聖女としての勤めを全力で果たせるよう、聖魔法の研鑽に勤しんでいたはずだった。少なくともハルトの前ではそうだった。イリスとだって、同じ聖女同士仲が良く、互いに認め合ってた。それすらマーサの演技だった?
ハルトは大司教の口から明かされる事実に、思考が完全に停止しそうなほどの衝撃を受けていた。
「娘はイリスに対して強い殺意を持っていた可能性が高い。君や世間が知らぬあれの裏の顔は、中々に悍ましいものだったというわけだ」
「それは・・・」
「それでも聖女としての役目さえ果たせれば、それはそれで良いだろうと私は目を瞑っていた。だが、実際は最後の最後で聖騎士とともに行動すべきという原則を破り、そこを突かれて命を落とした。聖女として聖魔法の研鑽に努めていれば、身を守るに十分な魔法障壁を張ってやり過ごすことも出来たであろうに・・・」
ここで大司教はふぅと溜め息をつき、続けた。
「正直なところ、我が家のとんだ恥さらしだと思っている。アレの好きなようにさせてきたことが、悔やまれてならない」
いや、理解することを理性が拒んだ。
ハルトにとってマーサは慈悲深く、身分を笠に着ることもなく、誰にでも平等であり、敬虔なラビス教徒であった。まさにハルトから見て完璧な女性であったと言える・・・いや、自分以外にもマーサのことを完璧だと言っていた人間は何人も知っていた。
だからこそ、そのマーサの実の父であるはずの大司教の言い放った言葉が、ハルトには信じられなかった。
「そうだ、これは知っているか?私は娘可愛さに、以前は影をアレにつけていたのだ」
「えっ・・・?」
影・・・大司教直属の配下が、マーサの監視をしていたという事実を聞き、ハルトは驚きに息を飲む。
「ふむ、気付いていなかったか。まぁ、私の影は優秀だからな。気配の隠し方は完璧だろうし、君とて気付かなかったか」
「・・・」
大司教の立場が立場である故に、実の娘であるマーサに影をつけること自体はおかしなことではない。そこは仕方がない。問題はこの後に何を言うか、だ。
ハルトは大司教の次の言葉を冷や汗を浮かべて待っていた。
「その影から報告があったのだが、マーサは君にもわからないところで隠れてあることをやっていたのだ。何をやっていたと思う?なんと攻撃魔法の練習をしていたんだ。時に『死ねイリス、あの女!』などと叫びながら魔法で的を破壊していたそうだ」
「は・・・?」
「粗削りながら、中々に破壊力のある魔法だったとのことだ。人を屠ることも簡単に出来るほどの。芸を広げるのは個人的には反対ではないが、聖女としてははしたないにも程があるから、今の今まで誰にも話していなかったがね」
「そんな・・・」
ハルトは耳を疑った。
マーサは常に聖女としての勤めを全力で果たせるよう、聖魔法の研鑽に勤しんでいたはずだった。少なくともハルトの前ではそうだった。イリスとだって、同じ聖女同士仲が良く、互いに認め合ってた。それすらマーサの演技だった?
ハルトは大司教の口から明かされる事実に、思考が完全に停止しそうなほどの衝撃を受けていた。
「娘はイリスに対して強い殺意を持っていた可能性が高い。君や世間が知らぬあれの裏の顔は、中々に悍ましいものだったというわけだ」
「それは・・・」
「それでも聖女としての役目さえ果たせれば、それはそれで良いだろうと私は目を瞑っていた。だが、実際は最後の最後で聖騎士とともに行動すべきという原則を破り、そこを突かれて命を落とした。聖女として聖魔法の研鑽に努めていれば、身を守るに十分な魔法障壁を張ってやり過ごすことも出来たであろうに・・・」
ここで大司教はふぅと溜め息をつき、続けた。
「正直なところ、我が家のとんだ恥さらしだと思っている。アレの好きなようにさせてきたことが、悔やまれてならない」
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