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反逆

神都に残る者

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「なんと愚かな・・・」


落胆してそう漏らすのは、神都中心街で最も大きな教会に従事する年齢30後半の聖職者ラクロスである。
彼は決して少なくない神都からの避難民に侮蔑する視線を向け、はぁ・・・と嘆息する。

ラクロスは常日頃から熱心に教会で民に対してラビス教の教えを説いていた。
女神ラビスは絶対的な存在であり、この神都にさえいればその加護を受けられる、なので決して祈りと感謝を絶やさず、神を信じること・・・長年彼はそう伝え続けてきた。それが彼の職務であり、生き方であり、存在意義であると思っていたからだ。

だが、今目の前でかつて教会で膝を折り、祈っていたはずの民が神都に見切りをつけ避難しようとしている。ラクロスは自身の長年の行いは必ずしも実を結んではいなかったのだと愕然とした。


「仕方がないでしょう。人は皆それぞれに考え方がございます。信仰から離れ、神都を発つとしてもそれもまた個人の自由な選択の一つです」


項垂れるラクロスにそう語り肩に手を置くのは、ラクロスと同期であるマルスという聖職者だった。
絶望に顔を歪めるラクロスとは対照的に、マルスは穏やかな笑みを浮かべていた。マルスはいつ、どのような時であれこうして落ち着いており、そんな彼を慕って相談をしていた信徒も多い。


「マルス・・・君はいいのか?かつて君を散々頼ってきた信徒まで、君の言葉を聞くことなくあっさりとこの都を見限り出ていってしまったではないか。悔しくはないのか?中には聖職者まで。こんな屈辱はないだろう!」


ラクロスは必死な教会の説得に関わらず、荷づくりをして神都を出ていった元信徒の姿を思い出し、顔を歪ませる。あのときほど自分達の無力さを噛みしめることになったことはこれまでになかった。
そして更に悔しいことに、本来なら死ぬまで神都を離れるべきではない同じ聖職者までもが脱走をしたということ。
脱走した聖職者には下位の者が圧倒的に多いが、一度は女神ラビスにその身を捧げたはずでありながら、外敵に怯え神都を捨てるなど、同じ教会に属する聖職者として死ぬまで忘れることはない汚点となりそうだとすらラクロスは思っている。



「人はそれぞれ。信仰の深さも、です。我々に出来ることは、せめてこの神都を離れる彼らに幸あらんことを祈ること。それだけです」


表情を崩さずそう言ってのけるマルスに、ラクロスは言葉が出なかった。
そして深く頭を下げ、マルスに詫びる。


「申し訳ない。私が取り乱していた。確かに我々に出来ることは祈ることだけだ。神都を彼らが離れるとしても、それを責めるのは聖職者失格であったな・・・」


ラクロスは敬虔な信徒であり、心から反省してそう言っていた。
しかしマルスは違う。
彼らは教会でも中堅の聖職者であり、既に神都では安心して暮らしていけるだけの立場を築いている。その生活が手放せないだけの話でしかなかったのだ。
マルスのみならず、聖職者でなお神都に残り続けている者の多くには、女神ラビスへの信仰心だけではない別の思惑のある者が多かった。

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