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反逆

ハルトの勘

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「僕は、カイを討ちます」


間を置いて口から出た言葉を聞いて、アドルは少しだけ驚いた顔をした。

ハルトは馬鹿正直で、かつ責任感が強い。その気質故に聖騎士になれた面もあると言うほど、杓子定規な『真面目男』であった。
だから法王城の外で決死の思いで戦う騎士団とともに、最後まで聖騎士としての勤めを果たすために戦場で戦うと、そう言うとアドルは思っていた。

しかしハルトが今言った言葉は、彼自身の怨恨を晴らすことを優先したものだ。
勿論、今現在サンクレアの最大の脅威は押し寄せているユーライ国軍ではなく、カイであるというのはアドルの認識でもあったが。


「カイを討つ・・・か。それではどうする?奴はどこにいるかわかっておらんぞ」


「カイは・・・恐らくこの法王城にいるでしょう」


「ほぉ・・・?」


迷い無く言ったハルトに、アドルが感嘆の声を洩らす。

今法王城にはカイはいないーー それが重鎮達や神殿騎士達の認識であった。
最初にサンクレアの心臓への襲撃を受けはしたが、それはユーライ国軍迎撃準備の際のバタバタを利用してたまたま潜入に成功しただけであり、襲撃が発覚して以来厳重に警備をし、鼠一匹潜めないほどに警戒を開始した法王城には、今現在は既にカイはいないものとして考えられていた。

まして神都の教会で聖女マーサを襲撃していたという報告が上がっているのだから尚更である。
だから、法王城にカイが潜んでいるなどと考えるのは、常識で考えればあり得ない話であった。だが、ハルトは確信に近い感覚でカイは法王城にいると言い放った。


「カイがどうしてここにいると考える?」


アドルの問いに、ハルトは迷うことなく答える。


「勘です。カイの最終目的はサンクレアの崩壊だと思いますから、サンクレアの心臓を狙っているはずです。それに・・・」


ここでハルトは言葉を区切り、考える素振りを見せる。アドルが黙って続きを待っていると、やがてハルトは口を開いた。


「カイの狙いには、恐らく僕の命も含まれている・・・そんな気がします。だから、サンクレアの心臓、そして僕・・・彼の目標が二つこの法王城に揃っていれば、必ずカイはここに現れます。そう思えてならないんです」


ハルトの言葉に、アドルはゆっくりと頷いた。


「では、好きにするといい」


こうして結果としてアドルとハルトは、城下で戦う騎士団を見捨てる決定を下した。
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