聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

はにわ

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「・・・なんですって?」


アドルは緊迫した声で、あえてもう一度大司教に訊ねる。
大司教は全く表情を変えず、再び口を開いた。


「法王城は絶対魔法障壁張り、外界と隔絶する。籠城しながら、近隣のサンクレア軍の応援を待ち、ユーライ国軍を撃退するという方針が決定した」


大司教が言い終えると、重鎮達の前では感情を露わにしないアドルがやや声を荒げて言った。


「失礼ですが、それがどういう事態を生むか、お分かりになられておるのでしょうか?」


アドルは正面にいる大司教を睨むように見つめる。
大司教はその視線を逸らすことなく、正面から受け止めながら堂々と答えた。


「法王城が隔絶すれば、騎士団は法王城を守る神殿騎士や魔術師の援護がないために苦戦を強いられるだろう。神都も外壁が破られれば多大な被害を被る。だが、聖女マーサの死によって全軍に動揺が広がっている今、このままでは法王城すらユーライ国軍に落とされる恐れもある。それも思えば神都に犠牲が出ようとも、今この場で迅速に法王城を障壁で防御することが急務なのだ」


表情を変えることなく、淡々と告げられる大司教の言葉が会議室に響き、重苦しい空気が流れる。
サンクレアは法王城と、そこで守られるサンクレアの心臓によって存在出来ている。それが滅することを考えれば、法王城の外にある神都が打撃を受けようと、市井がどれだけ犠牲になろうと、やむを得ないという非情の決断であった。


「既に絶対魔法障壁の準備は出来ている。騎士団長、聖騎士ハルト、そなたらは法王城防衛のためにこの城を動かぬように。これは決定事項であり厳命である」


大司教の冷徹な言葉に、アドル達は言葉を失う。
アドルがチラリと視線を法王へ向けるも、法王はあくまで無表情のままであり、内心はともかく大司教の言葉に異論を唱える気はないようであった。


「守るべきものの優先順位を間違えるなよ、騎士団長。法王城が落ちれば、サンクレアが・・・いや、世界が終わるのだ」



大司教のその言葉を聞き、アドルはやや間を持たせてから「承知しました」と頷いた。
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