聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

はにわ

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反逆

野獣の聖女

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マーサの光の玉はシンプルだが強力な攻撃魔法である。
元は障壁として展開させる魔力による壁を、千切って投げて暴発させるようなものという野蛮なものだ。しかもそれをコントロールして標的にぶつけるため、強い障壁を展開させるそれよりマシとはいえ、集中力をそれなりに使う。
消費する魔力も決して少なくはない。
だが、マーサは邪な心を持っているとはいえ聖女である。聖女の魔力は極めて高く、また時間の経過とともに大気中に漂う魔力の粒を無意識に集めて吸収しているので、実質彼女の魔力は無尽蔵と言える。

だが、光の玉をぶつけてカイを殺そうとするマーサは、想像以上に高機動で逃げ纏う彼を中々捉えることが出来なかった。厳密にはカスリ傷程度は負わせているのだが、無力化するにはほど遠い傷であった。


(かなりきついが、まだ避けられないほどじゃない!)



カイは上、横、斜めと床を、壁を、天井を蹴って縦横無尽に高速移動を繰り返し、マーサの攻撃をギリギリのところで避け続けていた。

単発で打っても絶対に避けられる、そう察したマーサは複数の玉を組み合わせて何度かカイを狙うが、惜しいところで避けられてしまう。
そうかと思えば針に糸を通すような隙をついてカイは素早くマーサに斬りかかろうと踏み込んでくるので油断も隙もない。

斬りかかられるのを防ぐために周囲にその都度光の玉を展開させマーサは自分の身を守るが、並の回復術師が使用する一年分以上の魔力を浪費しながらも、いまだカイに決定打を与えることが出来ないでいた。

無尽蔵に近い魔力があるマーサといえど、これだけ魔力を派手に使った戦いを続けることによって、一時的に魔力が底を尽こうとしていることに彼女は焦りを感じていた。
焦りは僅かながらにコントロールを乱し、迷いを生ませ隙を生じさせる。


「さっさと死になさいよ!本当にイライラするわね!」


慈悲深い聖女として名高かったマーサが、自分の死を急いて怒りに表情を歪ませているのを見て、カイは苦笑いを浮かべる。


「どこがだよ」


あれではまるで錯乱した野獣ではないか。
カイはそう思いつつ、それでもようやく笑みを浮かべるだけの余裕が心に出来ていた。

攻守一体の魔法を駆使するマーサは確かに手強い相手だが、それでもやはり根本的な実戦経験の不足が目立つことにカイは気付いたのだ。


勝てるーー

カイはそう確信した。
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