聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

はにわ

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反逆

サンクレアの現状

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「我が剣の錆となれぇ!!」


カイに斬りかかった騎士のその叫びは、耳をつんざくほどの大声であった。


「気合は良し・・・だが」


カイは抜き身の聖剣をおもむろに構える。


「踏み込みも、太刀も、まるで児戯だな。遅すぎる」


カイの横薙ぎの一閃が、向かってきた騎士を鎧ごと綺麗に切り裂いた。

ズシャリと真っ二つになった体が地面に転がると、恐怖のあまり竦んで動けなくなっていた方の騎士が「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げて後ずさる。


酷いレベルだ。平民上がりの新米騎士のほうがずっとまともに動けるだろうーー と、カイは呆れて溜め息をつく。こんなものを神殿騎士に召し抱えて、一体教会上層部は何がしたいのか?
上層部は保身のために、腕が立つ騎士を神殿騎士にたびたび引き抜いてしまうのだが、単純にコネや駆け引きのみで出世してきたような見かけ倒しを連れて行ってしまうきらいがある。
結果としてこうして本当に実力を持つ者を配置しなければならない局面で、箸にも棒にも掛からぬ屑を役に立つと思って配置してしまう痛恨のミスを平気で犯す。

サンクレアの心臓はいとも簡単にカイの手に渡ろうとしているーー
つまりはサンクレア上層部はその愚かさ故に、自分達の命とも呼べるものをあっさりと敵の手に委ねてしまっているのだ。


「こんな国のために、俺もイリスも命をかけたのか」


やるせない気持ちがカイを脱力させる。
震えて動けない騎士は、剣を抜くことさえしない。


「いいのか?剣を抜かなくて。このままだと死ぬぞ」


あまりに見るに堪えないためか、カイはそう騎士に語り掛けていた。
堕落したとはいえ、せめて騎士としての意地くらいは見せろと発破をかけたつもりだった。
だが・・・


「たすけて・・・たすけて・・・」


騎士は体を震わせ、ただただ助けを乞うばかりで、まともにカイに向き合おうともしなかった。


「本当に情けない・・・これが今のサンクレアの現状か」


カイは小さく溜め息をつくと、躊躇いなく、命乞いをする騎士の首を刎ねた。

皮肉なことに、カイの姿を見つけるなり、いの一番にこの場を離れた騎士が一番まともだったな、とカイは思った。
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