聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

はにわ

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反逆

崩壊の序章

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「あら、この店も閉めたのね」


降臨の儀での一件以来、神都では世界で一番の都市である中心街ですら店を閉める者がポツポツ現れた。
カイによるサンクレア滅亡の宣言を聞き、我先にと逃げ出した者達である。


「聖騎士であるハルト様に任せれば恐れることなど何もないのに」


「ラビス様のお膝元であるこの神都が本当に滅ぶと思っているんだろうか?」


「後で後悔したって、この中心街で出た空きスペースはすぐに埋まるから戻ってくることなんて出来ないのに、馬鹿なもんだよ」


中心街にいる敬虔なラビス教徒は店を閉めた者達を蔑んでいた。
彼らはハルトが、騎士団が本気で討伐に乗り出せば、カイによる脅威などすぐに排除できると本気で考えていたのだ。
一方で、逃げ出した者達は違った。
ハルトにはカイの脅威を祓うことは不可能であると考えていたのだ。ある者は人類最強と呼ばれたカイを称えていたし、ある者はハルトのことをどこか頼りないと感じていた。いずれにせよ、この神都にいれば巻き添えを食らって死ぬことになるーー そう考えてこの神都を離れる決断をした。女神ラビスが降臨しておきながら、カイ一人どうにも出来ないではないかーーと、その事実を見せつけられたこともその判断を下す者達に拍車をかけていた。

中心街ですらそうであるので、比較的信仰の薄い郊外エリアにいる住民は尚更だった。
郊外エリアでは既に多くの住民が移住を開始していた。
ある者はユーライへ、またある者は別の国へ・・・いずれにせよ、サンクレアを離れる者が後を絶たなかったのである。

上層部はこれを止めようとはしなかった。やれば更なる混乱を招くことになるからである。
栄えある神都から移住する者が大量に現れるなど面子の潰れる話であるが、それでもカイの一件からようやくいくらか教徒たちの混乱を抑え込めた今、再び刺激するようなことを避けたいと考え、結局大量移住に関してはなすが儘の状態にするしかなかった。


「・・・本当、腹が立つわ」


法王城の見晴台から転移する元住民達を見て、マーサは苛立たし気に呟いた。
神都から逃げようとしている連中は、聖騎士ハルトによる庇護より、逆賊のカイの脅威のほうが大きいと恐れている。自分のパートナーであるハルトが下に見られている状況に、マーサのストレスは極限に達しようとしていた。


「せっかく消えたと思ったのに、どこまでもしつこい」
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