聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

はにわ

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反逆

堕落の後世

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カイは墓地を出て再び中心街を歩き回る。
ふと見ると騎士団の訓練兵たちが、編隊を組んでランニングをしているのが見えた。
剣、鎧など完全装備をした状態で一日中サンクレア国内を走り回る・・・カイも入団当初は良くやらされていた訓練だった。
一度始まれば倒れようがゲロを吐こうがノルマを達成するまで中断することは出来ない。
朝から夕方まで・・・遅い人間はそれこそ深夜になってもこの訓練をやらされていた。確かにつらい訓練であるが、それでも実際の魔物との戦に比べれば、魔物から物理攻撃されないだけ断然マシだ。

本物の地獄と直面したときに心が折れないために、あえて騎士団は訓練で地獄を見せられる。最終的にそれが生き残ることに繋がるのだ。
そんなことでランニングする訓練兵を微笑ましく見ていたカイは、そこである違和感に気が付いた。


「はぁっ・・・はぁはぁ・・・っ もう・・・もう駄目です・・・」


息も絶え絶えに、訓練兵が大の字になって地面に寝転がる。
随分とガタイが良いというか、脂肪の乗った肉体だった。訓練兵とはいえ、あの肉体はあり得ない。普通は入隊選抜の際に徹底的に体は絞られる。中にはある程度脂肪の残ったやつもいるが、それでも今カイが目の前にしている訓練兵はとても訓練兵としてすらやっていけないような体つきをしていた。


「お、俺も・・・もう駄目・・・」


カイが見ていると、他にも似たような体格の男がギブアップを宣言して膝をつく。
どちらもだらしのない体だ。到底実際はおろか訓練すらこなすことが出来ないような情けない体だった。

二人の男が脱落していると、そこへ訓練兵を監督する騎士と思わしき者が現れる。

鬼軍曹だ、とカイは思った。

(知らないぞ・・・)


地面に横たわっているところなど、鬼軍曹に見つかればただではおかない。下手をすると数日断食の罰を下されることだってある。
訓練兵の成長のためと心を鬼にしてくれている者もいるが、単純にサディスティックな欲求を晴らしたいがために訓練兵をいびる者も多い。
いずれにせよ、今へたり込んでいる肥満体の二人はこれから相当厳しい目に遭う事だろう。そう思っていた。



「仕方がないな。今日のところはこれまでで良し!明日からまた励むように!」


(えっ?)


なんと、二人の訓練兵はあっさりと騎士に許しを貰うと、そのまま兵舎のあるところへ歩いて戻っていった。


「ちっ、あいつら高位貴族の息子だから下手にいびれねぇ・・・まぁ、もうすっかり平和な世になっちまったからそこまで厳しくしなくてもいいんだが。・・・腹立つから他のひよっこどもを叱りつけてくるか」


監督していた騎士は腹立たしげにそう呟くと、他のランニング中の訓練兵のところへ向かっていった。


(はっ・・・マジかよ・・・)


貴族だろうと神殿関係者の子息だろうと、区別なく厳しく接するのが騎士団だったはずだ。
だが、いつの間にか貴族に忖度するくらいには緩くなってしまったようだ。そしてその要因を作ったのは自分達。
自分達が地獄を見て魔族を掃討し、平和な世にしてしまったからこそ、彼らは腑抜けた訓練をしても許される。


(俺達がやってきたことって・・・なんだったんだよ)


ハルト辺りは平和ならそれでいいじゃないか、などと言うのだろうか。
良いわけがないだろう!後世が堕落するためにトルドーは命を落としたのかよ、とカイは憤慨する。


(後悔するといいさ。死ぬほど厳しかとうと、しっかり訓練するべきだったってな)


カイは微笑を浮かべ、その場を後にした。
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