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反逆
カイは昔を思い出す
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カイはある目的のために神都の郊外エリアを歩き回っていた。
「やあーーっ!」
「はああああっ!」
とある河川敷を歩いていると、子供達が声を上げながら木の棒で剣の稽古をしている姿が目に入る。誰か大人が監督しているわけではなく、子供達の独学でやっている稽古のようだった。
懐かしいなとカイは思い返す。
カイは傭兵団の出身だった。物心ついたときから傭兵団で暮らしており、剣の才能があると両親に認めらえたカイは自発的に訓練に参加するどころか、戦にも参加して幼いながらに腕を上げていった。
しかし、あるとき傭兵団は魔物の群れの襲撃を受けて全滅してしまう。
幼いながらも魔物から逃げきれないと察したカイは、死んだふりをして死体に紛れ、魔物達をやり過ごして命を拾ったが、そこを遠征で通りかかったアドルに拾われることになる。
カイは幼かったが、自分が助けられたことに対する恩はアドルに対して十分に感じていた。
アドルが優秀な騎士に育つのを期待して助けてくれたのであれば、その期待に応えようとカイは猛烈に剣の稽古に打ち込み、青春時代の大半は剣に関することで埋まることになった。
カイはその当時のことを子供達を見て思い出していた。
大人も監督しない剣の稽古となると、当然怪我することもある。実際にカイが見ていると、模擬戦で打ち合った片方の少年の手に木の棒が当たって怪我をしていた。
辺りに響く少年の泣き声を聞いて、カイは仕方ないなと応急手当をしに行こうかと思ったときだった。
「もう!何してるのよ!!」
少年たちに近づこうとしたカイの横を通り過ぎ、一人の少女が怒りながら泣いている少年の元へ駆けていった。
「馬鹿じゃないの!?大人がいないところで勝手に稽古なんかして!やっぱり怪我してるじゃない」
少女は怒りながらも、怪我をした少年の手を取り、ぼそぼそと呟いた。
小さな光が灯り、少年の怪我を少しだけ癒す。少女は未熟で不完全ではあるが回復魔法を使用したのだ。
「なんだ、お前の回復魔法も結局大したことねーじゃねーか」
怪我をしていない別の少年が呆れた声で少女をばかにする。
「ま、まだ練習中よ!私だってもう少しすれば・・・」
少女は泣きそうになって弁明するが、治療を受けた少年は泣くのをやめ、突然シャンと立ち上がった。
「おぅ、もう大したことねーぜ。元々の怪我が小さかったからな!」
打撲した少年の手はどう見てもまだ完全に治ってはいなかった。だが、どうやら怪我をした少年は治療してくれた少女に気を遣っているようだとカイは気付いた。
「お前の魔法もちっとだけは役に立ったぜ。まぁ無くてもすぐに治ったけどな」
素直ではない少年だったが、少女はそれがわかっているのかいないのか、それでも泣きそうになっていた表情はいくらか明るいものに変わっている。
なんとなく、幼心なりに二人は想い合っているのだろうかとカイは思った。
そしてまたカイは思い出す。自分の恋人であるイリスのことを。
カイはかつて訓練に励むあまり、勝手に一人で無茶をして怪我をしたりすることが何度もあった。
それを呆れながらも自分を治療してくれたイリス。
少年たちのことが、かつての自分達の関係に何となく似ていると思ったのだ。
「やあーーっ!」
「はああああっ!」
とある河川敷を歩いていると、子供達が声を上げながら木の棒で剣の稽古をしている姿が目に入る。誰か大人が監督しているわけではなく、子供達の独学でやっている稽古のようだった。
懐かしいなとカイは思い返す。
カイは傭兵団の出身だった。物心ついたときから傭兵団で暮らしており、剣の才能があると両親に認めらえたカイは自発的に訓練に参加するどころか、戦にも参加して幼いながらに腕を上げていった。
しかし、あるとき傭兵団は魔物の群れの襲撃を受けて全滅してしまう。
幼いながらも魔物から逃げきれないと察したカイは、死んだふりをして死体に紛れ、魔物達をやり過ごして命を拾ったが、そこを遠征で通りかかったアドルに拾われることになる。
カイは幼かったが、自分が助けられたことに対する恩はアドルに対して十分に感じていた。
アドルが優秀な騎士に育つのを期待して助けてくれたのであれば、その期待に応えようとカイは猛烈に剣の稽古に打ち込み、青春時代の大半は剣に関することで埋まることになった。
カイはその当時のことを子供達を見て思い出していた。
大人も監督しない剣の稽古となると、当然怪我することもある。実際にカイが見ていると、模擬戦で打ち合った片方の少年の手に木の棒が当たって怪我をしていた。
辺りに響く少年の泣き声を聞いて、カイは仕方ないなと応急手当をしに行こうかと思ったときだった。
「もう!何してるのよ!!」
少年たちに近づこうとしたカイの横を通り過ぎ、一人の少女が怒りながら泣いている少年の元へ駆けていった。
「馬鹿じゃないの!?大人がいないところで勝手に稽古なんかして!やっぱり怪我してるじゃない」
少女は怒りながらも、怪我をした少年の手を取り、ぼそぼそと呟いた。
小さな光が灯り、少年の怪我を少しだけ癒す。少女は未熟で不完全ではあるが回復魔法を使用したのだ。
「なんだ、お前の回復魔法も結局大したことねーじゃねーか」
怪我をしていない別の少年が呆れた声で少女をばかにする。
「ま、まだ練習中よ!私だってもう少しすれば・・・」
少女は泣きそうになって弁明するが、治療を受けた少年は泣くのをやめ、突然シャンと立ち上がった。
「おぅ、もう大したことねーぜ。元々の怪我が小さかったからな!」
打撲した少年の手はどう見てもまだ完全に治ってはいなかった。だが、どうやら怪我をした少年は治療してくれた少女に気を遣っているようだとカイは気付いた。
「お前の魔法もちっとだけは役に立ったぜ。まぁ無くてもすぐに治ったけどな」
素直ではない少年だったが、少女はそれがわかっているのかいないのか、それでも泣きそうになっていた表情はいくらか明るいものに変わっている。
なんとなく、幼心なりに二人は想い合っているのだろうかとカイは思った。
そしてまたカイは思い出す。自分の恋人であるイリスのことを。
カイはかつて訓練に励むあまり、勝手に一人で無茶をして怪我をしたりすることが何度もあった。
それを呆れながらも自分を治療してくれたイリス。
少年たちのことが、かつての自分達の関係に何となく似ていると思ったのだ。
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