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反逆
地味だったハルト
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「ほぉ・・・」
サンクレアの神都の端っこにあるとある酒場で、夕刊を読んでいた一人の男が感嘆の声を漏らす。
ローブに身をまとった怪しいナリのその男は、元聖騎士であり反逆者であるカイであった。カイの姿は確かに怪しいが、神都の中心街ならともかく、郊外ともなると身なりの怪しい人間などいくらでもいるので、不審がられるどころかむしろ溶け込んでさえいた。
「ハルト、やるじゃないか」
カイが読んでいる夕刊には見出しで『聖騎士ハルト様、数々ノ武勲ヲ掲ゲ堂々街宣ス』と書かれていた。
「『聖女マーサ様トノ婚約迫リ、ソノ名声ノ向上ハ留マルトコロヲ知ラズ正ニ天ヲ突ク』・・・素晴らしいなハルト。人生の最盛期じゃないか?」
カイは夕刊を見つめながら、ニヤリと口角を上げる。うつろな目のカイの笑顔は友の幸福を祈る俺のそれには見えない。
「おぅ、お客さんもびっくりしたかい?その記事」
カイの座るカウンターの向こう側で食器を拭いていたマスターは、暇なのかカイに声をかけてきた。
「中心街にいない俺らにはあんまり情報すぐには入ってこなかったからその夕刊で知ったんだけどよ、あの冴えない聖騎士のハルト様もついに脚光を浴びることになったんだなって皆で話題にしてたとこなんだよ」
「冴えない・・・?ついに・・・?」
「おぅ、ほらハルト様って正直地味でいるのかいねぇのかわからねぇ感じだったからなぁ。中心街の方じゃ姿をよく見せるらしいから人気あるらしいけど、ここにはさっぱりこねぇからな」
マスターはそう言って苦笑いを浮かべながら煙草を口に咥えて火をつけた。
ここは神都であるものの、基本的に居つくのは金のない新参者か流浪人、もしくは冒険者だ。敬虔なラビス教徒の集う中心街と違い、若干治安も悪く、街並みも汚れている。聖騎士にはある程度市井の者との交流を深める意味でも街の警らをするが義務とされているが、そこにこの郊外エリアは含まれていない。
なのでここにいる者がハルトのことを知らなかったり支持していなかったりすることは自然なことであった。ここの住民は新聞でしか聖騎士の動向を把握できないのである。
「その点、前にいたカイ様ってのは有名だったな。ありゃ華があった。それに平民出身で、俺達のヒーローだったよ。ユーライの毒牙にかかって反逆を企てたって新聞にはあったが、どうにも胡散臭いね。ここに住んでる連中も半信半疑だよ」
マスターの言葉を聞き、「そうか俺はそんなことになってるのか」とカイは鼻で笑った。
サンクレアの神都の端っこにあるとある酒場で、夕刊を読んでいた一人の男が感嘆の声を漏らす。
ローブに身をまとった怪しいナリのその男は、元聖騎士であり反逆者であるカイであった。カイの姿は確かに怪しいが、神都の中心街ならともかく、郊外ともなると身なりの怪しい人間などいくらでもいるので、不審がられるどころかむしろ溶け込んでさえいた。
「ハルト、やるじゃないか」
カイが読んでいる夕刊には見出しで『聖騎士ハルト様、数々ノ武勲ヲ掲ゲ堂々街宣ス』と書かれていた。
「『聖女マーサ様トノ婚約迫リ、ソノ名声ノ向上ハ留マルトコロヲ知ラズ正ニ天ヲ突ク』・・・素晴らしいなハルト。人生の最盛期じゃないか?」
カイは夕刊を見つめながら、ニヤリと口角を上げる。うつろな目のカイの笑顔は友の幸福を祈る俺のそれには見えない。
「おぅ、お客さんもびっくりしたかい?その記事」
カイの座るカウンターの向こう側で食器を拭いていたマスターは、暇なのかカイに声をかけてきた。
「中心街にいない俺らにはあんまり情報すぐには入ってこなかったからその夕刊で知ったんだけどよ、あの冴えない聖騎士のハルト様もついに脚光を浴びることになったんだなって皆で話題にしてたとこなんだよ」
「冴えない・・・?ついに・・・?」
「おぅ、ほらハルト様って正直地味でいるのかいねぇのかわからねぇ感じだったからなぁ。中心街の方じゃ姿をよく見せるらしいから人気あるらしいけど、ここにはさっぱりこねぇからな」
マスターはそう言って苦笑いを浮かべながら煙草を口に咥えて火をつけた。
ここは神都であるものの、基本的に居つくのは金のない新参者か流浪人、もしくは冒険者だ。敬虔なラビス教徒の集う中心街と違い、若干治安も悪く、街並みも汚れている。聖騎士にはある程度市井の者との交流を深める意味でも街の警らをするが義務とされているが、そこにこの郊外エリアは含まれていない。
なのでここにいる者がハルトのことを知らなかったり支持していなかったりすることは自然なことであった。ここの住民は新聞でしか聖騎士の動向を把握できないのである。
「その点、前にいたカイ様ってのは有名だったな。ありゃ華があった。それに平民出身で、俺達のヒーローだったよ。ユーライの毒牙にかかって反逆を企てたって新聞にはあったが、どうにも胡散臭いね。ここに住んでる連中も半信半疑だよ」
マスターの言葉を聞き、「そうか俺はそんなことになってるのか」とカイは鼻で笑った。
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