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反逆

聖騎士ハルトは失敗作

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アドルはハルトを帰らせると、盛大に溜め息をついた。


「まったく、ハルトというやつは・・・」


甘い、甘すぎる。アドルは憮然として先ほどのハルトの様子を思い出していた。

ハルトは元は子爵家の三男で、国のためにと自ら志願して騎士団に入団した。見どころありとアドルが判断し手をかけてきたが、強い正義感と確かな剣の腕。実直で情に厚く人に好かれる性格・・・
ハルトはそんなところが評価されて、アドルの見抜いた通り聖騎士となってみせた。
戦場に出れば勇猛果敢に突っ込み、鬼神の如く敵を葬り去る・・・実際にハルトは実績を積み上げ、それはハルトを育てた師匠として誇らしいところであった。だが、それでもどうしてもハルトには許せぬところがある。

それは心が純粋過ぎるということ。体は成長しても、心がまるで子供のように純粋だ。穢れを知らぬハルトは、ほんの少しの汚れ事でもいちいちうるさく口を出す。
サンクレアは女神ラビスを信仰している聖なる教えを説いている聖教国だ。だが、人が、権力が、金が集まれば物事は綺麗ごとだけでは動かなくなる。
派閥、権力、利権、あらゆるものが上に登り詰めるほどうんざりするくらい関わるようになってくる。アドルは自らの弟子にはそういった汚れ事や不条理に慣れ、そして吸収し活用してみせよと教えた。
剣の腕が強くとも、そういった処世術が無ければいずれ権力争いから叩き落され、潰されることになるからだ。

ハルトは有望な剣士だからこそ、そういったつまらぬ権力闘争なんかで潰されぬように教育してきたつもりだったが、ハルトは融通が利かず驚くほどそういったことを学ばない。正しいものは正しい、悪は悪、ラビス教の基本に乗っ取ってでしか考える頭を持たない。

つまりは単純馬鹿なのだ。
ハルトは聖騎士として十分すぎるほどの実績を積み上げたが、アドルはハルトを自身の育成の失敗作だとすら思っていた。
結果としてそんな単純なハルトが大司教の娘マーサの心を掴み、今まさに権力を握ろうとしている立場にいるのは皮肉であるとしか言いようがないが、現状のままハルトが力を手に入れたとしても良い傀儡にされて終わりだろうーーアドルはそう考えていたし、先ほどのやり取りでそれは確信に変わった。


「こんなことなら、カイこそが残ってくれれば良かったものを・・・」


アドルはハルトに深く失望していた。
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