上 下
19 / 203
反逆

歪んだ女の愛しいカイ

しおりを挟む
サンクレアにいる4人の聖騎士の一人、絶世の美女と評されるクリス・ラミアスは異色の聖騎士であった。
珍しい女性聖騎士だから、というわけではない。特徴的なのは彼女のその性格にあった。

自由奔放ーー

クリスの性格はその一言に尽きる。最低限の命令は従うが、基本的には訓練も行事も気まぐれでの参加である。聖騎士としての確かな実力さえなければ、聖騎士はおろか騎士団にもいられない。

とりわけクリスが奔放なのは貞操観念に対してである。
彼女は婚約者の有無に関わらず気に入った男を閨に誘い、関係を持つという悪癖があった。
聖騎士ならぬ性騎士、聖女ではないが性女…そのような言われようである彼女は、美男子も醜男も関係なく「気に入った部分」さえあればすぐに誘ってしまい、そして実際に一度関係を持つと飽きてしまう。
誘いに乗ってしまい、身を滅ぼした男は数知れず。実に呆れた困った女であった。
ちなみにハルトのことは生理的に相容れないらしく、誘ってすらいない。


しかしそんなクリスでも唯一誘惑出来なかった男がいた。
それが同じ聖騎士であるカイだった。カイは早くから騎士団では抜きん出た成績を叩き出し、総合力では聖騎士の中でも最強と言われていた。そんなカイに目をつけたクリスはいつものように彼を誘惑するが、押しても引いてもびくともせずに完敗。

以来、クリスはカイこそが運命の人と決め込んで彼を慕うようになった。
それまでにいそしんでいた男漁りはプッツリとやめ、ずっとカイにアプローチを続けてきたクリス。カイと聖女イリスが恋仲であると知っても、構わず彼を誘惑し続けた。そしてそのたびに袖にされ、クリスの情熱は更に強く熱く加速していくーーー

情熱に流され、いろいろと手を尽くしていた矢先に今回の出来事である。



「とても嬉しそうですねクリス様」


聖女アルマが言った。
クリスは元は司教の娘。アルマはクリスの侍女だった。


「それはそうですわ。ワタクシのカイが死んでしまったと聞き、一時は絶望しそうになってしまいましたもの。けど、それは杞憂で終わりそうで何よりですわ」


頬に手を添え、クリスはうっとりとして呟くように言った。


「流石ワタクシのカイ。そこらのつまらない男とはわけが違いますわ・・・」


「お探しになりますか?」


「いいえ」


アルマの問いに、クリスは頭を振る。


「きっと近いうちにあちらから姿を見せますわ。ワタクシ、カイのことなら何でもわかりますの。あぁ、やはり追う恋よりも待つ恋の方がときめきますわ・・・」


そう言って虚空を見つめるクリスの笑みは歪んでいた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ニコニココラム「R(リターンズ)」 稀世の「旅」、「趣味」、「世の中のよろず事件」への独り言

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:887pt お気に入り:28

疑う勇者 おめーらなんぞ信用できるか!

uni
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,272pt お気に入り:248

ドラゴン☆マドリガーレ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:1,313pt お気に入り:672

前世の因縁は断ち切ります~二度目の人生は幸せに~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:99,096pt お気に入り:2,232

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:60,892pt お気に入り:3,684

田舎で師匠にボコされ続けた結果、気づいたら世界最強になっていました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,150pt お気に入り:581

処理中です...