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プロローグ
聖騎士の闇堕ち
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「サンクレアが宝物などを封印する際に使う、結晶封印の魔法・・・それを応用したものを駆使して、この方の時間を止めている状態でぇす。時間が止まっている故に、生きても死んでもいませぇん」
男の言葉を聞き、カイはフラフラと水晶まで歩き、そしてペタリと手をついた。
「イリス・・・」
呼びかける。しかし当然イリスからの返答はない。
そこで一つの違和感に気付く。
「傷・・・」
アドルに刺され、致命傷を負ったはずのイリス。
イリスは死の間際に来ていたものと違う簡易的なワンピースを着ているだけ状態だが、ワンピースには一滴も血痕がついていなかった。
「あぁ、彼女の負っていた怪我は私が治療しました。怪我をした状態で封印をするというのも、見た目が良くありませんからねぇ」
なんでもないことのようにそう言う男に、カイは驚愕する。
「イリスは呪いを受け、怪我の回復など出来るはずもない状態だった!何故そんなことが出来るんだ!?」
「んん?まぁ、それは私だからこそできる能力ですよ」
詰め寄るカイを手で制し、男は白衣の内ポケットをまさぐると、小さな紙きれと取り出した。
「私、こういう者でぇす」
スッとカイに差し出されたそれは名刺だった。
『闇医師ベルス』
と書かれている。
「自分で闇と名乗るのもお恥ずかしい話なのですが、何しろ私の医術はラビス教では禁忌の手法のものでして。あえてこう名乗ったほうがわかりやすいと思ったんですよフフッ」
「禁忌・・・闇医者だと・・・!?」
「聞こえは悪いですが、腕は確かだと自負しておりまぁす。貴方の火傷を綺麗に治したし、彼女の傷を塞ぎました。魔物の呪いなど私の医術にかかればどうということはありませぇん」
そう言って男は誇らしげに両手を上げてドヤ顔をして見せる。
「私がたまたま通りかかって良かったですねぇ。女性の方はまぁ、こんな状態にしなければなりませんでしたが、あのままなら二人とも野獣の餌になっておりましたよぉ?」
「こんな状態・・・そうだ!イリスはっ・・・イリスは今どうなっているんだ!?彼女は死んでいないのか!!?」
カイはイリスの最後を思い出す。
自身の魂を聖剣に注ぎ、そして死んだはずだ。生きているはずなどなかった。
「いえ、ギリギリのところで死んではいませんでしたよぉ。ただ、今のまま封印を解いても数秒後に死んでしまうかもしれませんが。何しろ傷は塞いだものの、呪いそのものは健在ですからねぇ。今は彼女の時間ごと、呪いの進行を止めているに過ぎないのでぇす」
「そんな・・・」
カイは水晶に縋りつく。
どうやらイリスは聖剣に魂を注ぎ切る前に意識を失ったのか、まだ死んではいないようだった。それは良かった。だが、闇医者ベルスとやらが、自分では及びもつかないような手法で怪我も呪いも解決してくれていたのでは・・・と身勝手な期待を寄せてしまっていただけに、カイの落胆は大きかった。
イリスは死んではいないが、生きてもいない。封印されて時が止まったまま、姿を留めているだけに過ぎないのだ。
「けどまぁ、いろいろと協力いただければ、彼女を救う方法はございますよぉ?」
落胆しているカイの肩に、そっとベルスの手が置かれる。
「貴方の恋人は実際死んでいるも同然です。ですが、生き返らせる方法があるとすればどうしますかぁ?」
カイは無言でベルスの顔を見つめた。
「貴方の恋人を生き返らせる方法があると言ったら、どうしますか?何でもしますか?」
ベルスは同じ言葉を放ち、畳みかける。
「ま、どのような悪事にも手を染める覚悟があれば・・・ですがねぇ。フフッ」
いやらしく笑うベルスは、見定めるかのような視線をカイに這わした。
普通なら、このような怪しい男にこんな話を持ち掛けられても躊躇するかもしれない。だが、カイは悩むでもなく、即座に答えてみせた。
「何でも言ってくれ。イリスを救うためなら、俺は何だってやる」
決意の固い、真っすぐに見つめてくるカイの視線を受け、ベルスは一瞬キョトンとしたが、すぐにまたいやらしい笑みを浮かべた。
「良いですねぇ。決断の早い人は好きですよぉ!」
男の言葉を聞き、カイはフラフラと水晶まで歩き、そしてペタリと手をついた。
「イリス・・・」
呼びかける。しかし当然イリスからの返答はない。
そこで一つの違和感に気付く。
「傷・・・」
アドルに刺され、致命傷を負ったはずのイリス。
イリスは死の間際に来ていたものと違う簡易的なワンピースを着ているだけ状態だが、ワンピースには一滴も血痕がついていなかった。
「あぁ、彼女の負っていた怪我は私が治療しました。怪我をした状態で封印をするというのも、見た目が良くありませんからねぇ」
なんでもないことのようにそう言う男に、カイは驚愕する。
「イリスは呪いを受け、怪我の回復など出来るはずもない状態だった!何故そんなことが出来るんだ!?」
「んん?まぁ、それは私だからこそできる能力ですよ」
詰め寄るカイを手で制し、男は白衣の内ポケットをまさぐると、小さな紙きれと取り出した。
「私、こういう者でぇす」
スッとカイに差し出されたそれは名刺だった。
『闇医師ベルス』
と書かれている。
「自分で闇と名乗るのもお恥ずかしい話なのですが、何しろ私の医術はラビス教では禁忌の手法のものでして。あえてこう名乗ったほうがわかりやすいと思ったんですよフフッ」
「禁忌・・・闇医者だと・・・!?」
「聞こえは悪いですが、腕は確かだと自負しておりまぁす。貴方の火傷を綺麗に治したし、彼女の傷を塞ぎました。魔物の呪いなど私の医術にかかればどうということはありませぇん」
そう言って男は誇らしげに両手を上げてドヤ顔をして見せる。
「私がたまたま通りかかって良かったですねぇ。女性の方はまぁ、こんな状態にしなければなりませんでしたが、あのままなら二人とも野獣の餌になっておりましたよぉ?」
「こんな状態・・・そうだ!イリスはっ・・・イリスは今どうなっているんだ!?彼女は死んでいないのか!!?」
カイはイリスの最後を思い出す。
自身の魂を聖剣に注ぎ、そして死んだはずだ。生きているはずなどなかった。
「いえ、ギリギリのところで死んではいませんでしたよぉ。ただ、今のまま封印を解いても数秒後に死んでしまうかもしれませんが。何しろ傷は塞いだものの、呪いそのものは健在ですからねぇ。今は彼女の時間ごと、呪いの進行を止めているに過ぎないのでぇす」
「そんな・・・」
カイは水晶に縋りつく。
どうやらイリスは聖剣に魂を注ぎ切る前に意識を失ったのか、まだ死んではいないようだった。それは良かった。だが、闇医者ベルスとやらが、自分では及びもつかないような手法で怪我も呪いも解決してくれていたのでは・・・と身勝手な期待を寄せてしまっていただけに、カイの落胆は大きかった。
イリスは死んではいないが、生きてもいない。封印されて時が止まったまま、姿を留めているだけに過ぎないのだ。
「けどまぁ、いろいろと協力いただければ、彼女を救う方法はございますよぉ?」
落胆しているカイの肩に、そっとベルスの手が置かれる。
「貴方の恋人は実際死んでいるも同然です。ですが、生き返らせる方法があるとすればどうしますかぁ?」
カイは無言でベルスの顔を見つめた。
「貴方の恋人を生き返らせる方法があると言ったら、どうしますか?何でもしますか?」
ベルスは同じ言葉を放ち、畳みかける。
「ま、どのような悪事にも手を染める覚悟があれば・・・ですがねぇ。フフッ」
いやらしく笑うベルスは、見定めるかのような視線をカイに這わした。
普通なら、このような怪しい男にこんな話を持ち掛けられても躊躇するかもしれない。だが、カイは悩むでもなく、即座に答えてみせた。
「何でも言ってくれ。イリスを救うためなら、俺は何だってやる」
決意の固い、真っすぐに見つめてくるカイの視線を受け、ベルスは一瞬キョトンとしたが、すぐにまたいやらしい笑みを浮かべた。
「良いですねぇ。決断の早い人は好きですよぉ!」
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