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プロローグ
逃走、そして別れ
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カイが発動させた爆炎魔法の護符は、辺り一面を炎で包ませた。
しかし封魔殿が吹き飛ぶほどの威力ではない。逃走用に用意していた、目くらまし程度の爆炎を上げるものだ。
とはいえアドルは最接近した状態で爆炎をもろに受けたので無傷ではいられない。髪も皮膚も焼け、醜い姿になったアドルはすぐさまカイ達の姿を探す。目も表面を少し焼いてしまったようで、視界が極端に悪い。
僅かな視界を頼りにカイ達を探すが、その場には既に彼らの姿はなかった。既に逃走を終えてしまっているようで、アドルは歯ぎしりをする。
回復魔法に専念していたマーサと意識不明のハルトは距離があったためにアドルほどの被害はないが、ハルトは瀕死で一刻を争う状況なのでマーサが治療の手を止めることはできない。アドルは目視が効かず、追跡も戦闘も困難だ。
アドルは完全にカイにしてやられてしまった形になってしまっていた。
「はっ・・・切り札は最後の最後まで仕舞っておけ・・・その私の教訓も覚えていたか」
カイは自分と同じ聖騎士であるハルトを倒したのみでなく、アドルをも挑発して誘い込み、一泡吹かせてみせた。皮肉なことに、かつての自分の弟子の優秀さをこのような形で思い知らされることになったアドルは溜め息をついて呟いた。
「カイか・・・なんとも惜しいなぁ」
ーーーーー
一方、封魔殿からの脱出に成功したカイは、息も絶え絶えに全力でイリスを背負い走っていた。
そして半刻ほど走り続けた後、ここで漸くイリスを下ろす。
「はぁはぁ・・・」
逃走用に威力を弱めた爆炎魔法とはいえ、至近距離で使えば相応のダメージを受ける。アドルがそうであったように。実際に護符を手に持って使用したカイも全身に大やけどを負っていた。巻き込まれないよう、イリスをかばうようにカイが抱きしめていたのでイリスはほとんど火傷はない。
カイは手に持っているポーションを自分に使ったりはしなかった。これはまだ他に使い道があるからだ。
カイは火傷により全身を刺すような痛みが走るが、気にも留めずに封魔殿から奪取した呪術の本を袋から取り出す。
「急げば、急げば何とかなるはずだ・・・!」
分厚い呪術の本を開き、内容に目を通す。
イリスは瀕死だが、すぐに呪術によって彼女の呪いを解呪し、手に持つポーションを使って回復させようと考えていたのだ。
分厚い本の中から、イリスの解呪の仕方を見つけ出し、解呪を実行する・・・顔も目も焼けただれ、視界も悪く、皮膚がボロボロになっている手では激痛で本をめくるのも一苦労なこの状況では、絶望的もいいところである。
だがカイは諦めなかった。
最愛の人を救うため、自分の生きる意味を本当の意味で教えてくれた人のため、必死でカイは本をめくり続けた。
「・・・イ」
イリスが口を開いた。
「しゃべるな!体力を消耗する!!」
カイは叫ぶが、イリスは聞かなかった。
「・・・ありがとうカイ。私は・・・最後の最後までお前と一緒に居られて幸せだったよ」
別れの時が来ていることをイリスは察していた。
だから口から血を吐きながらも、カイに聞いてほしい言葉を紡ごうとしている。
「馬鹿なことを言うな。これが最後なものか!」
半狂乱になってカイが叫ぶ。
「・・・カイ、お前だけは生きてくれ。私なんかに囚われず、私の分まで幸せになってくれ」
「うるせぇ黙ってろ!!」
イリスの手を握り締めなが、カイは叫ぶ。皮肉なことに聖騎士としての能力のせいか、イリスの命が消えそうなのがオーラで分かってしまっていた。
「私の最後の力だ・・・幸せになってくれ」
イリスがカイの聖剣に手をかざすと、ぼうっと小さく発光した。
「やめろ!!」
カイは叫ぶが、イリスはやめなかった。
そしてわかってしまう。イリスが息絶え、魂が消滅したことを。
イリスはカイの持つ聖剣に、自分の魂を削り全ての聖力を注ぎこんだ。絶命するほどイリスの魂を注がれた聖剣は、もうパートナーである聖女イリスがこの世を去っても姿を消すことはない。カイが生きている限り、永遠に残り続ける。
「イリス・・・」
呆然とイリスを見つめ、カイは動かない。
イリスがいなくなったのなら、もう自分に生きる意味はない。
イリスを見殺しにしたサンクレアが、串刺しにしたアドルが、邪魔をしたハルトが、全てが憎い。
だが、復讐をしようとは考えなかった。復讐をしようと聖剣を振るうたび、イリスのことを思い出してしまうだろう。
やがて、火傷のダメージのせいかカイの意識も虚ろになってきた。
しかし、イリスに使う必要のなくなったポーションを手に取ることはない。このままイリスの亡骸を抱き、自分も彼女の元へ行こう。そう考えていた。
そしてカイはそのまま意識を失った。
しかし封魔殿が吹き飛ぶほどの威力ではない。逃走用に用意していた、目くらまし程度の爆炎を上げるものだ。
とはいえアドルは最接近した状態で爆炎をもろに受けたので無傷ではいられない。髪も皮膚も焼け、醜い姿になったアドルはすぐさまカイ達の姿を探す。目も表面を少し焼いてしまったようで、視界が極端に悪い。
僅かな視界を頼りにカイ達を探すが、その場には既に彼らの姿はなかった。既に逃走を終えてしまっているようで、アドルは歯ぎしりをする。
回復魔法に専念していたマーサと意識不明のハルトは距離があったためにアドルほどの被害はないが、ハルトは瀕死で一刻を争う状況なのでマーサが治療の手を止めることはできない。アドルは目視が効かず、追跡も戦闘も困難だ。
アドルは完全にカイにしてやられてしまった形になってしまっていた。
「はっ・・・切り札は最後の最後まで仕舞っておけ・・・その私の教訓も覚えていたか」
カイは自分と同じ聖騎士であるハルトを倒したのみでなく、アドルをも挑発して誘い込み、一泡吹かせてみせた。皮肉なことに、かつての自分の弟子の優秀さをこのような形で思い知らされることになったアドルは溜め息をついて呟いた。
「カイか・・・なんとも惜しいなぁ」
ーーーーー
一方、封魔殿からの脱出に成功したカイは、息も絶え絶えに全力でイリスを背負い走っていた。
そして半刻ほど走り続けた後、ここで漸くイリスを下ろす。
「はぁはぁ・・・」
逃走用に威力を弱めた爆炎魔法とはいえ、至近距離で使えば相応のダメージを受ける。アドルがそうであったように。実際に護符を手に持って使用したカイも全身に大やけどを負っていた。巻き込まれないよう、イリスをかばうようにカイが抱きしめていたのでイリスはほとんど火傷はない。
カイは手に持っているポーションを自分に使ったりはしなかった。これはまだ他に使い道があるからだ。
カイは火傷により全身を刺すような痛みが走るが、気にも留めずに封魔殿から奪取した呪術の本を袋から取り出す。
「急げば、急げば何とかなるはずだ・・・!」
分厚い呪術の本を開き、内容に目を通す。
イリスは瀕死だが、すぐに呪術によって彼女の呪いを解呪し、手に持つポーションを使って回復させようと考えていたのだ。
分厚い本の中から、イリスの解呪の仕方を見つけ出し、解呪を実行する・・・顔も目も焼けただれ、視界も悪く、皮膚がボロボロになっている手では激痛で本をめくるのも一苦労なこの状況では、絶望的もいいところである。
だがカイは諦めなかった。
最愛の人を救うため、自分の生きる意味を本当の意味で教えてくれた人のため、必死でカイは本をめくり続けた。
「・・・イ」
イリスが口を開いた。
「しゃべるな!体力を消耗する!!」
カイは叫ぶが、イリスは聞かなかった。
「・・・ありがとうカイ。私は・・・最後の最後までお前と一緒に居られて幸せだったよ」
別れの時が来ていることをイリスは察していた。
だから口から血を吐きながらも、カイに聞いてほしい言葉を紡ごうとしている。
「馬鹿なことを言うな。これが最後なものか!」
半狂乱になってカイが叫ぶ。
「・・・カイ、お前だけは生きてくれ。私なんかに囚われず、私の分まで幸せになってくれ」
「うるせぇ黙ってろ!!」
イリスの手を握り締めなが、カイは叫ぶ。皮肉なことに聖騎士としての能力のせいか、イリスの命が消えそうなのがオーラで分かってしまっていた。
「私の最後の力だ・・・幸せになってくれ」
イリスがカイの聖剣に手をかざすと、ぼうっと小さく発光した。
「やめろ!!」
カイは叫ぶが、イリスはやめなかった。
そしてわかってしまう。イリスが息絶え、魂が消滅したことを。
イリスはカイの持つ聖剣に、自分の魂を削り全ての聖力を注ぎこんだ。絶命するほどイリスの魂を注がれた聖剣は、もうパートナーである聖女イリスがこの世を去っても姿を消すことはない。カイが生きている限り、永遠に残り続ける。
「イリス・・・」
呆然とイリスを見つめ、カイは動かない。
イリスがいなくなったのなら、もう自分に生きる意味はない。
イリスを見殺しにしたサンクレアが、串刺しにしたアドルが、邪魔をしたハルトが、全てが憎い。
だが、復讐をしようとは考えなかった。復讐をしようと聖剣を振るうたび、イリスのことを思い出してしまうだろう。
やがて、火傷のダメージのせいかカイの意識も虚ろになってきた。
しかし、イリスに使う必要のなくなったポーションを手に取ることはない。このままイリスの亡骸を抱き、自分も彼女の元へ行こう。そう考えていた。
そしてカイはそのまま意識を失った。
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