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プロローグ
勝利の錯覚
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時限性の護符を用い、国の要所を爆撃するという陽動作戦により、封魔殿襲撃はスムーズに進んだはずだった。
そこに勘でカイの動きを察知したハルトが立ちはだかってきたことは苦々しいイレギュラーであったが、しかしカイにしてみれば相手がハルトだったことは不幸中の幸いだった。
ハルトは心優しい人間だ。
聖騎士として人格面では問題ないが、少々甘すぎるきらいがあるほどの人情家であった彼は、今のカイにしてみれば実に御しやすい相手であると確信していたのだ。
情に訴えかければ驚くほど簡単に心を揺さぶることができるだろう、呪いを受けたイリスと、彼女を救おうとあがくカイに感情移入させてしまえば、もう従来のような精細な剣は振るえない。
「ぐああああああ!!」
カイの狙い通り、精細さを欠いたハルトはあっさりとカイの間合いに踏み込んでしまい、カイの太刀を受けた二刀ごと切り裂かれることになった。
「ハルト!!」
マーサが血相を変えて叫び、ハルトの元に駆け寄った。
ハルトは血を多量に流し、吐血しながら地面に倒れ伏す。
剣で受けたためにいくらかは浅くなったが、ハルトはカイの剣を真っ向から受けており、致命傷を受けていた。
「癒しを」
マーサは即座に癒しの魔法をかけ、ハルトの治療を開始する。
白く強い光がマーサの手元から放たれた。
並の治療師ならばどうにもできず手遅れの状態だが、サンクレアの聖女の一人であるマーサの手にかかれば、通常致命傷である今のハルトの傷を治すことは可能だった。だが完治には時間がかかり、ハルトは既に戦闘不能状態であった。
「悪いな。俺も止まるわけにはいかねぇんだよ」
多量の血を流し、地面に倒れ伏すハルトを見てカイは呟いた。納刀してもう戦う意志は見せなかった。戦闘不能になった今、カイにはハルトの命を奪う気はなかった。
「行こうイリス」
そうして後方で待機していたイリスの方を向いたカイは、そこで信じられないものを見た。
「イリ・・・ス・・・」
カイが見たもの・・・それは、一人の男によって剣で串刺しにされているイリスの姿であった。
「イリス!!」
ハルトと対峙しているときですら飄々として、少なくとも表面上は余裕を見せていたカイの顔に初めて焦りの色が浮かぶ。
「カ・・・イ・・・」
口から血を吐き、静かにその場に崩れ落ちるイリス。
「イリスぅぅぅ!!」
半狂乱になったカイは瞬時に剣を抜き、一秒に満たぬ速さでイリスを刺した男へと斬りかかるが、その太刀は男を捉えることはなく空しく空を切る。
カイの太刀を素早く躱した男は、ハルトを治療するマーサの元に移動していた。
だがカイはそんな男には目もくれず、倒れたイリスを抱き寄せ叫んでいた。
「イリス!死ぬな!!」
カイは懐から回復薬である高級ポーションを取り出すと、イリスに飲ませる。痛みに顔を歪ませるイリスの表情が全く和らぐことはなかった。回復魔法を受け付けない呪いのせいで、高級な回復アイテムなれど効果は全くなかったのだ。
「イリス・・・あぁ、イリス・・・」
絶望に打ちひしがれた表情で、カイは苦痛に喘ぐイリスを見つめる。
ただただ名を呼び、抱きしめることしかカイには出来なかった。
道を踏み外してでも助けたいと思った最愛の人の命が、あと一歩というところまで来て消えてなくなりそうになっている。
その絶望に、カイはただただ冷静さを欠き、イリスを抱きしめ続けることしかできなかった。
そこに勘でカイの動きを察知したハルトが立ちはだかってきたことは苦々しいイレギュラーであったが、しかしカイにしてみれば相手がハルトだったことは不幸中の幸いだった。
ハルトは心優しい人間だ。
聖騎士として人格面では問題ないが、少々甘すぎるきらいがあるほどの人情家であった彼は、今のカイにしてみれば実に御しやすい相手であると確信していたのだ。
情に訴えかければ驚くほど簡単に心を揺さぶることができるだろう、呪いを受けたイリスと、彼女を救おうとあがくカイに感情移入させてしまえば、もう従来のような精細な剣は振るえない。
「ぐああああああ!!」
カイの狙い通り、精細さを欠いたハルトはあっさりとカイの間合いに踏み込んでしまい、カイの太刀を受けた二刀ごと切り裂かれることになった。
「ハルト!!」
マーサが血相を変えて叫び、ハルトの元に駆け寄った。
ハルトは血を多量に流し、吐血しながら地面に倒れ伏す。
剣で受けたためにいくらかは浅くなったが、ハルトはカイの剣を真っ向から受けており、致命傷を受けていた。
「癒しを」
マーサは即座に癒しの魔法をかけ、ハルトの治療を開始する。
白く強い光がマーサの手元から放たれた。
並の治療師ならばどうにもできず手遅れの状態だが、サンクレアの聖女の一人であるマーサの手にかかれば、通常致命傷である今のハルトの傷を治すことは可能だった。だが完治には時間がかかり、ハルトは既に戦闘不能状態であった。
「悪いな。俺も止まるわけにはいかねぇんだよ」
多量の血を流し、地面に倒れ伏すハルトを見てカイは呟いた。納刀してもう戦う意志は見せなかった。戦闘不能になった今、カイにはハルトの命を奪う気はなかった。
「行こうイリス」
そうして後方で待機していたイリスの方を向いたカイは、そこで信じられないものを見た。
「イリ・・・ス・・・」
カイが見たもの・・・それは、一人の男によって剣で串刺しにされているイリスの姿であった。
「イリス!!」
ハルトと対峙しているときですら飄々として、少なくとも表面上は余裕を見せていたカイの顔に初めて焦りの色が浮かぶ。
「カ・・・イ・・・」
口から血を吐き、静かにその場に崩れ落ちるイリス。
「イリスぅぅぅ!!」
半狂乱になったカイは瞬時に剣を抜き、一秒に満たぬ速さでイリスを刺した男へと斬りかかるが、その太刀は男を捉えることはなく空しく空を切る。
カイの太刀を素早く躱した男は、ハルトを治療するマーサの元に移動していた。
だがカイはそんな男には目もくれず、倒れたイリスを抱き寄せ叫んでいた。
「イリス!死ぬな!!」
カイは懐から回復薬である高級ポーションを取り出すと、イリスに飲ませる。痛みに顔を歪ませるイリスの表情が全く和らぐことはなかった。回復魔法を受け付けない呪いのせいで、高級な回復アイテムなれど効果は全くなかったのだ。
「イリス・・・あぁ、イリス・・・」
絶望に打ちひしがれた表情で、カイは苦痛に喘ぐイリスを見つめる。
ただただ名を呼び、抱きしめることしかカイには出来なかった。
道を踏み外してでも助けたいと思った最愛の人の命が、あと一歩というところまで来て消えてなくなりそうになっている。
その絶望に、カイはただただ冷静さを欠き、イリスを抱きしめ続けることしかできなかった。
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