聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

はにわ

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プロローグ

仕込まれた毒

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カイはハルトにを仕込んでいた。
必死に説得を試みても、規律に厳しく、ラビス教を強く信仰しているハルトは禁忌を犯したカイを通すようなことをしないだろう。
だが、ハルトは情に脆い人間でもあった。カイの言葉はハルトの心を揺らがせていたのだった。


「っ!!」


先に動き出したのはハルトだった。
カイは思い通りの状況に心を沸き立たせる。
ハルトの心は揺れている。迷いが出ている。その葛藤から、焦って勝負を急いだ。

ーー良い傾向だ。とカイはほくそ笑む。


キィン!



5メートルあった二人の距離は、一秒でゼロとなる。
カイとハルトの剣がぶつかった。
カイの剣は東方に伝わるの曲刀の形状。ハルトの剣はカイのそれよりもやや短い直剣。それとーーそれより更に短い直剣の二刀流だ。
ハルトは打ち合い続けることなく、すぐに距離を取る。一方でカイは反撃に転ずることなく、まだハルトの動きを見極めていた。


「わかってくれねぇのかよ。俺は大事なものを守りたいだけなのに」


その状態のまま、カイは再びを流し込む。


「黙れ!」


カイの言葉を頭から振り払うかのようにハルトが叫ぶ。
毒が効いている証拠だとカイは思った。


「ハルト!」


無表情なれど、冷静さを欠いているハルトの状態を察したのか、ハルトのパートナーである聖女マーサが声を上げた。


「惑わされては駄目です!冷静に自分の使命を思い出して!!」


「・・・わかってる」


ハルトは一呼吸置いてそう返事をするが、カイは内心大はしゃぎしそうになっていた。


(マーサ、今のは悪手だぜ)


「っ!!」


次に動き出したのも、またハルトであった。

聖騎士で最高の俊足を持つハルトは、大と小の二刀流を場に応じて正確無比に使い分けるスタイルである。
破壊力は大きくないが、二刀であるため手数が多く、また防御にも転じやすい、極めればバランスの良い戦闘スタイルであった。
対してカイの剣は重く豪快。連続攻撃よりも一撃の重さが特徴的で、ハルトのそれとは正反対と言っても良かった。
まともに剣をぶつけ合えば、押し負けるのはハルトの方だ。正面から受けようとすれば、剣ごとカイの剛刀はハルトの体を真っ二つにするだろう。

だからハルトはギリギリまで冷静にカイの動きを見極めるべきはずだった。どれだけ距離が縮まっても、あくまででカイの攻撃に対処するのがセオリーと言えた。

だがハルトは揺れる感情を誤魔化すように先に攻撃を仕掛けてしまった。クールではなくなったハルトはカイにとって御しやすい相手である。カイが同情的な言葉で説得を試みたをしたのも、あくまでハルトの情に訴えかけて揺さぶってやるのが目的だったのだ。

そこへ仕上げとばかりにハルトのサポートに徹すべきはずの聖女マーサが、良かれと思って横槍を入れた。
彼女の言葉は届いているようで届いていない。
を改めてハルトに認識させてしまった。
それは同じようにを救おうとするカイに対し、感情移入を加速させることになったのだ。

迷いを振り払うように焦ったハルトは、冷静さを欠きに欠いた状態で従来のスタイルを生かせるはずもなく、精細さを欠いた攻撃を繰り出し、虎視眈々とその瞬間を狙っていたカイの太刀の餌食になった。
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