4 / 203
プロローグ
仕込まれた毒
しおりを挟む
カイはハルトに毒を仕込んでいた。
必死に説得を試みても、規律に厳しく、ラビス教を強く信仰しているハルトは禁忌を犯したカイを通すようなことをしないだろう。
だが、ハルトは情に脆い人間でもあった。カイの言葉はハルトの心を揺らがせていたのだった。
「っ!!」
先に動き出したのはハルトだった。
カイは思い通りの状況に心を沸き立たせる。
ハルトの心は揺れている。迷いが出ている。その葛藤から、焦って勝負を急いだ。
ーー良い傾向だ。とカイはほくそ笑む。
キィン!
5メートルあった二人の距離は、一秒でゼロとなる。
カイとハルトの剣がぶつかった。
カイの剣は東方に伝わるの曲刀の形状。ハルトの剣はカイのそれよりもやや短い直剣。それとーーそれより更に短い直剣の二刀流だ。
ハルトは打ち合い続けることなく、すぐに距離を取る。一方でカイは反撃に転ずることなく、まだハルトの動きを見極めていた。
「わかってくれねぇのかよ。俺は大事なものを守りたいだけなのに」
その状態のまま、カイは再び毒を流し込む。
「黙れ!」
カイの言葉を頭から振り払うかのようにハルトが叫ぶ。
毒が効いている証拠だとカイは思った。
「ハルト!」
無表情なれど、冷静さを欠いているハルトの状態を察したのか、ハルトのパートナーである聖女マーサが声を上げた。
「惑わされては駄目です!冷静に自分の使命を思い出して!!」
「・・・わかってる」
ハルトは一呼吸置いてそう返事をするが、カイは内心大はしゃぎしそうになっていた。
(マーサ、今のは悪手だぜ)
「っ!!」
次に動き出したのも、またハルトであった。
聖騎士で最高の俊足を持つハルトは、大と小の二刀流を場に応じて正確無比に使い分けるスタイルである。
破壊力は大きくないが、二刀であるため手数が多く、また防御にも転じやすい、極めればバランスの良い戦闘スタイルであった。
対してカイの剣は重く豪快。連続攻撃よりも一撃の重さが特徴的で、ハルトのそれとは正反対と言っても良かった。
まともに剣をぶつけ合えば、押し負けるのはハルトの方だ。正面から受けようとすれば、剣ごとカイの剛刀はハルトの体を真っ二つにするだろう。
だからハルトはギリギリまで冷静にカイの動きを見極めるべきはずだった。どれだけ距離が縮まっても、あくまで後の先でカイの攻撃に対処するのがセオリーと言えた。
だがハルトは揺れる感情を誤魔化すように先に攻撃を仕掛けてしまった。クールではなくなったハルトはカイにとって御しやすい相手である。カイが同情的な言葉で説得を試みたフリをしたのも、あくまでハルトの情に訴えかけて揺さぶってやるのが目的だったのだ。
そこへ仕上げとばかりにハルトのサポートに徹すべきはずの聖女マーサが、良かれと思って横槍を入れた。
彼女の言葉は届いているようで届いていない。
自分の大切な人の存在を改めてハルトに認識させてしまった。
それは同じように大切な人を救おうとするカイに対し、感情移入を加速させることになったのだ。
迷いを振り払うように焦ったハルトは、冷静さを欠きに欠いた状態で従来のスタイルを生かせるはずもなく、精細さを欠いた攻撃を繰り出し、虎視眈々とその瞬間を狙っていたカイの太刀の餌食になった。
必死に説得を試みても、規律に厳しく、ラビス教を強く信仰しているハルトは禁忌を犯したカイを通すようなことをしないだろう。
だが、ハルトは情に脆い人間でもあった。カイの言葉はハルトの心を揺らがせていたのだった。
「っ!!」
先に動き出したのはハルトだった。
カイは思い通りの状況に心を沸き立たせる。
ハルトの心は揺れている。迷いが出ている。その葛藤から、焦って勝負を急いだ。
ーー良い傾向だ。とカイはほくそ笑む。
キィン!
5メートルあった二人の距離は、一秒でゼロとなる。
カイとハルトの剣がぶつかった。
カイの剣は東方に伝わるの曲刀の形状。ハルトの剣はカイのそれよりもやや短い直剣。それとーーそれより更に短い直剣の二刀流だ。
ハルトは打ち合い続けることなく、すぐに距離を取る。一方でカイは反撃に転ずることなく、まだハルトの動きを見極めていた。
「わかってくれねぇのかよ。俺は大事なものを守りたいだけなのに」
その状態のまま、カイは再び毒を流し込む。
「黙れ!」
カイの言葉を頭から振り払うかのようにハルトが叫ぶ。
毒が効いている証拠だとカイは思った。
「ハルト!」
無表情なれど、冷静さを欠いているハルトの状態を察したのか、ハルトのパートナーである聖女マーサが声を上げた。
「惑わされては駄目です!冷静に自分の使命を思い出して!!」
「・・・わかってる」
ハルトは一呼吸置いてそう返事をするが、カイは内心大はしゃぎしそうになっていた。
(マーサ、今のは悪手だぜ)
「っ!!」
次に動き出したのも、またハルトであった。
聖騎士で最高の俊足を持つハルトは、大と小の二刀流を場に応じて正確無比に使い分けるスタイルである。
破壊力は大きくないが、二刀であるため手数が多く、また防御にも転じやすい、極めればバランスの良い戦闘スタイルであった。
対してカイの剣は重く豪快。連続攻撃よりも一撃の重さが特徴的で、ハルトのそれとは正反対と言っても良かった。
まともに剣をぶつけ合えば、押し負けるのはハルトの方だ。正面から受けようとすれば、剣ごとカイの剛刀はハルトの体を真っ二つにするだろう。
だからハルトはギリギリまで冷静にカイの動きを見極めるべきはずだった。どれだけ距離が縮まっても、あくまで後の先でカイの攻撃に対処するのがセオリーと言えた。
だがハルトは揺れる感情を誤魔化すように先に攻撃を仕掛けてしまった。クールではなくなったハルトはカイにとって御しやすい相手である。カイが同情的な言葉で説得を試みたフリをしたのも、あくまでハルトの情に訴えかけて揺さぶってやるのが目的だったのだ。
そこへ仕上げとばかりにハルトのサポートに徹すべきはずの聖女マーサが、良かれと思って横槍を入れた。
彼女の言葉は届いているようで届いていない。
自分の大切な人の存在を改めてハルトに認識させてしまった。
それは同じように大切な人を救おうとするカイに対し、感情移入を加速させることになったのだ。
迷いを振り払うように焦ったハルトは、冷静さを欠きに欠いた状態で従来のスタイルを生かせるはずもなく、精細さを欠いた攻撃を繰り出し、虎視眈々とその瞬間を狙っていたカイの太刀の餌食になった。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
因果応報以上の罰を
下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。
どこを取っても救いのない話。
ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる