聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

はにわ

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プロローグ

破滅のカップル

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ーーとある二人の男女が自分達の未来のために足掻いていた。
理不尽に抗い、人並みの平穏を掴むため、必死に抗っていた。






「イリス、大丈夫か?」


一人の男が連れ立っている女を気遣いながらゆっくり歩く。


「大丈夫。ちょっと疲れただけ」


イリスと呼ばれた女は、少しばかり汗をかきながらも、気遣ってくれた男に向かって笑顔で答えた。




ここは神国サンクレアの僻地にある『封魔殿』と呼ばれる神殿。
サンクレアの騎士団に属する聖騎士カイと、そのコンビである聖女イリスがその神殿に踏み込んでいた。

国民は元より騎士ですら立ち入り禁止とされている場所であり、禁を破った者は如何なる身分であれ厳罰が下される。
カイ達は見張りにいた兵士達を打ちのめして気絶させて侵入しており、他にもここに来るまでにいくつも大罪を犯した。例えどれだけ減刑したところで処刑は免れない。もう彼らには後戻りはできなかった。
何故そうまでしてここに踏み込んだのか、それはこの『封魔殿』にカイ達が欲するものが存在するからである。

通路を進んでいくと、侵入者を防ぐ高度な結界が張られているのがカイの目に入った。
カイは手に持っていた剣を構えると、大振りでその結界に打ち込む。


バシィィィン


大きな破裂音とともに、結界は一瞬で弾けるかのように姿を消した。
結界は高度で強力なものだったが、カイの一撃はその結界を破壊するほどに強力なものだった。


「・・・良し」


結界を破れたことに安堵したカイ達は、綻ばせた顔を再び引き締め、通路を進んでいく。やがて突き当りにある大きな扉が目に入った。
高度な結界が張ってあったということは、目的のものはこの先にあるということ。その予測がカイ達を緊張させていた。


ギィィ


分厚く重い扉を開くと、そこでは大柄な人間が収まりそうなほどの大きな水晶が無数に宙に浮いていた。水晶の中には剣、指輪、本、様々なものが一つずつ入っている。これが封印の水晶である。『封魔殿』は神国サンクレアが信仰するラビス教が「危険である」「邪悪である」「穢れている」「今は必要でないものである」と様々に理由をつけて、人の目に触れさせず封印すべきとした物が封印されている施設なのだ。
カイ達の目当てはこの封魔殿に封印されている物にあった。


「これだ・・・!」


目当ての物を見つけた時、カイは顔を綻ばせた。
水晶の中にあるそれは古びた本であった。


「これが禁忌とされる呪術の記された本・・・」


本を見つめながら、イリスが呟く。


「あぁ、これさえあればイリスの呪いを解くことができる。さっさと持ち帰るぞ」


カイは持っていた剣を振り上げ、本を閉じ込めている水晶に向かって振り下ろした。







ーーーーー




「やってしまったね。まさか、本当にここまでカイがするとは思わなかった」


封印の水晶を破壊し、首尾よく本を手に入れたカイ達はすぐさまその場を去ろうと踵と返したが、彼らが入ってきた入口には剣士と僧侶が立っていた。

カイと同じく神国サンクレアの聖騎士ハルトと、パートナーである聖女マーサである。
ハルトは剣を鞘から抜き、マーサも杖を構えて戦闘態勢になっていた。


「良くここがわかったな。うまく騙せたと思ったんだが」


カイは小さく溜め息をついて、頭をかきながらそう言った。


「・・・直感、かな」


ハルトはそう答えると、無表情のまま続けた。


「その本は置いていくんだカイ。イリスを救いたいという気持ちはわかるが・・・」


ハルトはゆっくりした動作で剣を構える。



「・・・やっぱりすんなり帰れるとは限らねぇか」


カイは溜め息をつきながら、ハルトと同じように剣を構えた。


「お前らすまねぇが、そこをどいてくれねぇか?今の俺なら、邪魔をされれば誰だって斬ることにためらいはないぜ」


カイの刺すような殺気が、ハルト達に向けられる。

これが聖騎士カイの本格的な『闇堕ち』の序章であった。
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